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12 初心者教育(2)

 ユリは、なんとか誤魔化せないかと、すっとぼけたことを言う。

「え~っと、ここは、北側に魔法を打ち出せる構造になってますよね。

 つまりこれって、この施設の想定内の事象ですよね?」

 そんなユリにリーダーが反論する。

「俺たちの中で攻撃魔法が使えるのはマリエラだけだ。そしてマリエラの魔法には、これほどの破壊力はない。そこにあった岩にしたって、魔法か何かで爆破することはできるだろうが、周囲に影響を与えずに吹き飛ばすなんて、聞いたことがない。それに向こうに地平線まで続く痕跡が残っている以上、必ず何か聞かれるぞ」

 それでもユリは悪あがきする。

「そんなことないですよ。あっちの砂地の跡は、天気が悪くなったらすぐ消えちゃいますよ」

 ユリがそういうと、リーダーが反論する。

「この辺りはほとんど雨が降らない。降ったとしても、あんなに抉れて、熱で固まってたら、痕跡は消えないぞ」

「え~っ、そんなことないですよ~」

 ユリがそう言うと、北の砂漠草原にいきなり砂嵐が吹き荒れ、魔法で抉れた跡を砂で埋めてしまった。ただし、その一帯の砂漠草原は、元々は背の低い草で覆われていたが、今ではただの砂漠となっていた。

「ほら、もう消えちゃいました! いや~、自然の力って凄いですね!」


    *    *    *


 そうやって、無自覚で圧倒的な力を使うユリの前で、隠蔽工作ってもう無理なんじゃないかとラッシュ・フォースの四人が悩んでいると、隣のエリアで戦闘訓練でも始めたかのように、轟音が響きだした。


 ドドーン!

 ガガーン!

 ボボン!ボン!


「なんだ? 普通じゃないな」

 自分達のやったことを思えば、他人(ひと)のパーティーのことは言えないと思うが、異常な騒音にリーダーが疑問を呈した。

「何あれ? 本格的な戦闘訓練でもしてんの?」

「ここは技能試験場であって、戦闘訓練する場所じゃないぞ」


 そのときだった。


 ズガガーンッ!


 隣のフィールドで吹き飛ばされた10mサイズの巨岩が、区画を隔てる防護壁を突き破り、八つに砕けてユリたちの上に降りかかってきた。

「マリエラ! 防護障壁!」

「無理よ! 間に合わない!」

 それでも必死で防護障壁を張ろうと早口で詠唱するマリエラ。

 もう駄目かと思われたとき、無慈悲に降り注ぐ割れた岩が、空中でフッと掻き消すように消失した。

「「「「……」」」」

 再び訪れた静寂。その後、岩の消えた空間を凝視していた四人の視線が一斉にユリに向けられた。

「おい!今何をやった!?」

 今日、リーダーがこのセリフを放ったのはこれで二度目だ。

「えっ!? あのっ、岩を飛ばしたのは私じゃないですよ」

「飛ばしたのは聞いてない。消したのを聞いている」

「……あっ、あれ??」

(ダルシンに習ったアイテムボックスって、もしかして使ったらまずかった?)

「あの~ですね~。

 あんまり人前で使うなとは言われてたんですけど~。

 少し離れたところにある物を収納する魔法がありましてですね~。

 収納バッグみたいに、入れたり出したりできるんですよ~」

「収納バッグ? なんだそりゃ?」

(えっ、嘘! 収納バッグも知られてなかったの!)

「え~っと、収納バッグっていうのは、今私が腰につけているマジックアイテムで、蓋を開けると、ほら、中がこんな感じになってるんですよ」

 ユリが収納バッグの中でも一番小さい『携帯背負子』を開いて80リットルほどある空間を見せると、ラッシュ・フォースの四人が中を覗き込んで目を点にしている。

「これじゃさっきの岩は入りきらんぞ。あの岩はどこに行った!?」

「ベースの魔法が同じってだけで、岩はこっちにあります」

 そういうと、ユリは自分が吹き飛ばした岩があった窪みに、飛んできた岩を落とし入れた。若干小さくなったが、元の姿に近い形になったようだ。

「そんな魔法があるのか。ミラ、マリエラ、お前たち知っていたか?」

「そうですねぇ、昔の文献で、巨龍を収納して運んだっていう話を読んだことはありますけどぅ、見たのは初めてですねぇ」

「あはははは……」

「ユリ、あんたいったい、どこの大魔術師なのよ?」

「た、ただの田舎者ですよ~」

「「んなわけあるか~!」」

 リーダーとマリエラの突っ込みが入ると、ジェイクが冷静に指摘した。

「ウルフ、そんなことより隣のエリアだ。見に行った方がいい」

「確かにな。何をしたらあんなことになるってんだ」

 そういうと、全員引き連れて隣のエリアに向かうのだった。


    *    *    *


 ユリとラッシュ・フォースのメンバーが隣のエリアに来てみると、その惨状は、ユリがやったことを遙かに超えていた。野球場くらいのエリアには、一面に砂埃が舞っていて、その中央が大きく抉れ、周囲の壁のほとんどが崩れている。ユリたちの足元にも、片手片足の男が瀕死の状態で倒れている。

「ミラ、怪我人の治癒を! ユリ、お前も出来るな?」

「えっ、いや、私は怪我人はちょっと。ミラさんの補助ならできます!」

(多分治せるけど、治し過ぎちゃうんだよね~)

「……まぁそれでもいい。ミラを手伝ってくれ」

 リーダーは明らかに納得していないが、やらせれば結果は残すだろうと、ユリの行動を認めた。

「では、この方からやりますねぇ」

 まずは足元の怪我人だ。

(あれ? ひとりずつなんだ、まぁいいか)

 ミラが歌うように詠唱を始めると、患者は淡い光に包まれる。

(奇麗な声ね。それにこの光は何? 私の治癒魔法じゃ全然光らないんだけど。

 ミラさんのこの詠唱って、もしかして精霊魔法?

 自動翻訳されないんだけど、言葉じゃないのかな?

 精霊語なら翻訳されそうだけど……)

 やがてミラの詠唱が終わって光が収まると、傷口の消えた怪我人の姿が現れた。

「まぁ!」

 なぜか、治癒を施したミラ本人が驚いている。

「どうしたミラ!」

「この方の手足が……」

 痛みが消えておとなしく寝ている男の姿を見ると、両手両足が揃っていた。

「驚いたな。ミラの本気の治癒魔法はこんなに凄かったのか」

「ミラさんって凄い方なんですね~」

「いえ、私は傷口を塞いだだけですよぅ?」

 ミラはそう言って、視線をユリに向けて来る。

「えっ、ほらっ、見てたじゃないですか。私はまだ何もしてないですよ」

(本当に今は何もしてない……。

 あっ、もしかしてエティスの力でミラさんがパワーアップした?)

「『まだ』か。まぁ今はどうでもいい。次の怪我人だ」

「ユリ、次に行きますよぅ」

「あっ、待ってください」

 既にジェイクとマリエラが救出作業を始めている次の場所に急いだ。


 今度の怪我人は、少し離れたところで、崩れた壁の下敷きになっていた女性だ。大穴が開いてユリたちが使っていたエリアと繋がった壁とは、ちょうど反対側だった。リーダーとジェイクが瓦礫をどかして助け出したが、既に虫の息だ。腹は破れてないが、多分、内臓破裂している。

「この方の治癒は難しいですよぅ」

「とにかくやってくれ」

 ミラが、再び歌うように詠唱をすると、患者は今度も淡い光に包まれる。

(この人はエティスの加護だけじゃ無理そうね。内臓は私が治しちゃおっと)

 ユリは、ミラの治癒魔法に割り込んで、患者の肝臓と脾臓と腎臓と大腸の破損個所を修復し、腹腔内に溢れた汚物と血液を抜き取って洗浄した。

 やがてミラの詠唱が終わり、患者を覆っていた光が収まると、女性は顔色も良くなり、静かに寝息をたてていた。黒い司祭服を着た女性だ。

(あ~良かった、上手くいって。あっ、この人、さっき私の胸を睨んでた人だ)

 ユリがそんなことを考えていると、ミラがユリをじっと見つめて微笑んでいる。

「今度はユリさんも魔法を使いましたねぇ。ふふっ」

(なんで分かるの~)

 その遣り取りを断ち切るようにリーダーが声を掛ける。

「さぁ、手遅れにならないうちに全部済ますぞ!」


 ユリたちは同じような作業を繰り返し、全ての怪我人を救い出して治療した。

「怪我人は全部で6人か。朝会ったときは8人いたよな」

「向こうの壁に肉塊が張り付いてたから、少なくとも一人は死んでるわね」

 マリエラが冷静に恐ろしい指摘をする。

「そうか。なら、死体の捜索はギルドの職員にまかせよう。

 それより、何をしたらこうなるんだ?

 ユリの魔法だって、こうはならなかったぞ」

「わ、私が酷いことしたみたいな……」

「ユリは黙ってて!」

「……クシュン……」

「ここも中央に巨岩が置かれてたとするなら、この抉れ方は異常ですねぇ」

「そうね。ミラの言う通りで、向こうでユリが吹き飛ばしたときとは全然違うわね。岩を掘り出した後か、岩の下で爆裂魔法(エクスプロージョン)を発動させないと、こうはならないじゃないかな」

「そんなこと出来るのか?」

「『岩の下で』なら無理ね。岩が邪魔になるもの」

「ねぇウルフ。二番目に助けた女性ですけどぅ、壁際にいましたよねぇ?」

「あぁ、そうだが」

「中央の岩の爆発で壁際まで吹き飛ばされたわけじゃないと思うんですぅ。

 怪我の仕方が違うんですよぅ。あの怪我は、最初から壁際にいて、予想してなかったの壁の崩壊に巻き込まれて下敷きになったように見えますねぇ」

「それはどういうことだ?」

「爆発に巻き込まれたんなら、他の怪我人みたいに四肢が欠損するとか、肉塊になってるでしょ?

 あの女はね、岩が爆発すると分かってて、一番遠い場所で爆発を見てたのよ。

 つまりね、ミラは、その女が仕組んだんじゃないかって言ってるの。

 そうでしょ?」

「マリエラさんの言う通りですねぇ」

「だが証拠はないぞ」

「そんなの、全員目を覚ませば好きなだけ取り調べできるでしょ。みんな元気そうだし」

 マリエラの言う通り、死んでいなかった6人の肉体は傷ひとつ無く、完全に健康状態に戻っている。区画割の平面図の前でリーダーに声を掛けていた男の頬に残っていた傷跡もきれいさっぱり消えているぐらいだ。


 ユリは、マリエラの説明を聞いて、別の事を考えていた。

(この(ひと)が私の胸を睨んでたのは偶然じゃなかったの?

 それって、つまり、私のイオトカ君の影響を受けて悪いことしたってこと?

 でも、この(ひと)がやろうとしてたのは皆殺しだよね?

 皆殺しにするって、普通は復讐だよね? それともお金儲け?

 復讐だったら、イオトカ君のすることと違うよね?

 復讐も悪いことだけど、イオトカ君が呼び覚ます悪意とは違うでしょ?

 この(ひと)が企んだ悪事って何?)


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