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星屑の走馬灯

作者: 雨月 日日兎

 女なんて星の数ほどいる。フラれた奴への慰めの言葉をそのまま実行したような己の人生は、どこを振り返っても隣には女の姿があった。

 端的に言えばヤリチンだ。周囲にいるほとんどの人間からはそう評されてきたし、自身でもそう思っている。だがそこに退廃的な感情はない。数多くの人間と肌を重ね続けた傲慢な驕りすらもなく、ただ淡々と求められるままに流されていた。

 曰く、顔がいいらしい。初めの頃は経験豊富な年上が多かったおかげで行為も上手い方なのだとか。年を重ねる毎に付き合う事が無理なら一晩だけ抱いてくれと請われることも増えた。

 別に、付き合っている相手も、好いた相手もいないのにだ。

 告白されたならいつも通り流されるままに付き合うというのに、殊勝なことである。実際そうして付き合った相手も何人かいるのだが、一様にしてほどなく別れを告げられた。ツマラナイ男、なのだそう。

「いつか刺されるぞ」

 唯一交流を続けてくれる男友だちからは真剣な顔つきでそう諭された。

「痛いのは嫌だね」

 それを笑って受け流す。友人は眉間の皺をさらに深くさせていた。

 本音を言えば、そんな事が起きたら楽しそうだとは思った。ツマラナイ己の人生に飽き飽きしていたところだったからだ。まだ生まれてから二十数年かそこらしか生きていないというのに。悲しい奴、と自嘲する。

 己はきっと寂しい人間だったのだ、彼女と、出会うまでは。

 何が特別だったのだろうか。考えるが、指差して示せるものは特別ない。噂を知ってなお真っ直ぐな好意を向けてくるその仕草が良かったのかもしれない。それとも、ツマラナイと見切りをつけられなかったのが嬉しかったのか。考える間も無く、心は彼女に惹かれていった。こちらを見ているようで見ていない、その瞳に映りたいと思ったのだ。

 すると、ベタな話ではあるが、世界に色が付いた気がした。心臓がどこにあるのかを知り、己の過去を恥じた。友人は良かったと安堵の息をつき。

 愛した彼女は優しい顔で、腹にナイフを突き刺してきたのだった。

 なんで、と声なく問いかける。

「あなたを私だけのものにしたかったの」

 答える声は愛らしい鈴の音。

「わたしずっと、サロメに憧れていたのよ、だから」

 途切れ途切れに耳に入る言葉の意味は理解出来なかった。それどころか、霧のかかった脳内は打開策を探る為にかこれまでの女性遍歴の記憶をひっくり返すばかり。ついでのように呆れた顔の男友だちが流れ去り、消えて行く。

 ――あぁ、死ぬのか。

 ぽかりと浮かんだ答えに心は動きを止めた。

 一緒になって止まった心臓はもう動くつもりもないのだろう。最後にひとつ奏でた鼓動の余韻の中で、唇を重ねてきた彼女の温もりを感じていた。

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