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抽選

 いかにも神話や童話みたいな話をされてはいそうですか、と納得する訳がない。というか、こんな話を真面目にする時点でヤバい集団だし、ヤバい街だと思った。おじさん達の顔も見ると、普通の話をしている時の顔で、誰一人にやけたり、おちゃらけた顔ではなかった。そんな明るい雰囲気ではなかったのでその場は分かったふりをして相づちを打っておいた。

 15分程すると再び放送がかかった。

「受付は締め切りました。皆様からご協力いただき、対象年齢の市民全員の参加が確認されました。では、これよりヤツベノミコ祀りを開催いたします。先程市民の皆様一人一人から受け取った名前入りの抽選用紙をこの箱に入れましたので、今から100名を選ぶ抽選を始めます」

 市民は3万8千人と市役所に書いてあったので、まあ、単純計算で約1/400の確立。そう当たるわけがない。なので、そこまで緊張はしていない。

 抽選が始まり、次から次へと市民の名前が呼び出されていく。初めての人、二度目の人、呼ばれて泣いている人、講義する人、無言で前に出る人。反応を見ていると、思ったより市民もあまり気が向かないようだった。生贄を選ぶ奉りなわけだから、喜ぶ人は一人としていなかった。当たり前か。ただ、俺自身心のどこかで自分はどうせ選ばれないと思っていて、悲劇に浸る選ばれた市民を他人事のようにぼーっと眺めていた。

「以上95名がマツリゲームの逃走者で、次に述べるのは放送係になります。放送係に呼ばれた人たちはこの放送が終わり次第、説明がありますのでもう一度受付の方へお願いします」

 そう言って抽選を再開した。二人呼ばれ、もう少しで抽選が終わるな、と呑気に考えていた時だった。

「小上町の井浦さん。井浦孝介さん。前へお願いします」

 その放送を聞いた瞬間、時が止まった。まさか1/400が当たるなんて。まさか自分が選ばれるなんて。もしマツリに失敗したら生贄になるのか。生贄という事は死ぬということか。先程他人事として見ていた彼らの気持ちが今更ながらに感じた。彼らが怯えていたのは死への恐怖だ。自分が死ぬかもしれない局面にいるのがこれ程心に、体に来るのか。ガタつく足を引きずりながら言われた通り受付へ向かった。というか、一度スルーしたがゲームってなんだ。ただ選ばれた100人が生贄になる訳ではないのか。放送係って一体なんだ。

 受付に着くと、説明係らしきおじさんが放送係に任命された5人全員が集まった所を確認し、確認画ををると直ぐに説明を始めた。

「えー、怖いと思いますが、落ちついて聞いてください。プレッシャーをかけるつもりはなですが、放送係次第でこのマツリの生存率が変わります。逃走者の方々はあなた達放送係だけが頼りです。なので、説明をしっかりと聞いて、彼を導いていただけますでしょうか」

 そう言い終わると、2度ほど咳払いをして説明に入った。

「知らない方もいると思うのでざっくりとマツリの説明からします。ヤツベノミコ様が提案した”遊び”で夜の21時スタートの0時きっかりで終わる鬼ごっこのようなものです。鬼というと失礼に値するかもですが、鬼はヤツベノミコ様で、逃げは逃走者と呼ばれる先程選んだ95人の老若男女です。逃げまわるフィールドはこの小学校校内です。グラウンドや駐車場も含めます。時間内に鬼から逃げれば生贄にならなくていいのです。逆に捕まれば…。放送室は鬼にバレないように毎回場所を変えています。前回は体育館裏第三倉庫でした。今年は職員専用駐車場にあるスクールバスが放送室となります。放送用にバス内は防音になってますが、立ち座りが多いと揺れますのでお気を付けください。放送室には逃走ルートに設置された監視カメラ、ルートの死角がないように設置されたカメラが映った画面が9つあります。人が立ち入れない場所は意味ないので設置されてません。放送マイクは2つです。カメラをよく見ながら放送をお願いします。説明は以上となります」

 説明を終えると係の人が駐車場まで案内をしてくれた。

 駐車場近くには、最初に話を聞かせてくれたおじさん達がいた。先程の強面おじさんが声を掛けてきた。

「こんな話、マツリが始まる前に言うもんじゃねえけど、この地に生まれたやつじゃねえのによりによって放送係になっちまうのが気の毒でよ。放送係のマツリ終了段階での生存率は99%と言われているんだが、その後の生存率は5%だ」

「え、なんでそんなに下がっちゃうんですか」

「放送画面ってのは逃げる人を見るだけでなく、生贄になり死んだ人も写しだされる。それを3時間も睨めっこするんだあ、頭が狂っちまう。だから大概放送係の奴らはうつ病やパニック障害ってやつとかの精神疾患を患って一生その沼から出れねえで有名なんだよ。で、おらの同級生も30年前のマツリで放送係やってすぐに気がおかしくなって自殺してしまった。さっきの係の人の話は気にしちゃいけんがよ。放送間違っても、誰か死んでも自分は悪くない、そう思っとれ。自分の命の方が大事だで」

 最初はむすっとしていた印象でしかないおじさんだったが、他の地から来たよそ者相手に真剣に考えて、親切に声を掛けてくれ、目頭が少し熱くなった気がした。

 マツリ自体未だに信用できないし、残酷すぎるデスゲームに呼ばれてクソな町に来てしまったと思たが、思い返してみればいつだってこの町の人たちは優しかった。2年間特に問題なく過ごせてきたのもこういった人たちのおかげだろうな。感謝しかない。

「ほんと、有難うございます」

「何かあったらうちで面倒みるからな」

 そういって放送機材のあるスクールバスに乗り込む僕に手を振ってくれた。

 放送係5人が定位置に座り、夜の21時を迎えた。

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