突然の訪問者
誤字脱字あったらすみません。
東京駅から新幹線と市営ローカルバスに揺られること4時間半。山のふもとに位置する町、張土市。人口は約3万8千人。大通り沿いのアパートに住めば徒歩圏内にコンビニやスーパー、薬局があるし、小さな映画館もある。転勤のメールが本社から届いた時は正直な話、全く乗り気ではなかった。というのも、僕は生まれも育ちも都会のため、いくら徒歩圏内に色々あっても結局車がないと不便な所が田舎臭く感じ、受け付けなかった。しかし、転勤先で課長という役を与えられ、それなりにやりがいを感じる。また、あれほど嫌と言ってた田舎も住んでみたら悪くなかった。気が付けば不自由や不満なく2年が経っていた。
今日は仕事休みのため昼近くまで寝ていると、家のインターホンが鳴った。まだ寝足りないので申し訳ないが、一回無視をした。しかし、1分程経ってからまたインターホンが鳴る。はあ、と大きなため息をつきながら玄関に向かう。正直、留守にしても居留守にしても、一度鳴らして出なかったら諦めて帰ってほしい所だ。もう一度大きなため息をつきながらドアを開けた。目の前にはアパートの管理人をしている小太りおばさんが立っていた。名前は忘れた。
「おはよう、井浦君。居留守はお見通しよ」
何故ですか、と聞きながら頭をポリポリとかく。
「あなた休みの日の前の晩に洗濯物干すでしょ。で、今日まだ取り込んでないってことは寝てるってことじゃない」
「そういわれると僕、怖くて洗濯物干せなくなりますよ」
そう棒読みで返した。
「今更か弱いアピールされても遅いわよ。割と肝が据わってるタイプだからこのくらいの事何ともおもってないでしょうね」
「マジっすか。もう少し演技しておくべきでした。で、何用で来たんですか」
ああそうそう、といいながら管理人は持ってきた手提げバッグから1枚のファイルを差しだしてきた。
「これが井浦君の分。今年は30年に一度のマツリをする年なの。ここだけの話、強制参加じゃなきゃ誰も来ないわよ、こんなマツリ。でも仕方ないの。みんないやでも来るの。めんどくさがって来ない事がないように必ず着て頂戴」
「なんで強制なんですか、祭りって普通任意では」
「強制参加って言うほどなんだから察して頂戴。そこらのマツリとは訳が違うの。マツリの詳細が書いてある紙が入っているから、マツリの時間までに必ず目を通しておいてね」
そういって管理人はせかせかと階段を下りて行った。一瞬見えた手提げバッグの中に同じようなファイルが何枚も入っていた。多分、色んなお宅に配っているのだろう。そのマツリとやらのお知らせをわざわざファイルにまとめて各家に手渡しなんて、手の込んだことをする程の行事なのだろうか。そもそも何故強制参加なんだろうか、と考えながらファイルの中のものを全部出した。ファイルには思いの他入っておらず、文字が何行か書かれた紙が一枚と、俺の名前が書いてある手のひらサイズの赤い紙が一枚入っているだけだった。
文字が書かれた紙に目を通す。
27カイ ヤツベノミコ様マツリ
日時:九月二十七日 十九時半
場所:赤畠小学校
持ち物:名前入りの赤紙 腕時計
会場に来たら受付へ赤紙を必ず渡してください。参加者はのその中からくじ引きとなります。
他者へ参加を譲る行為は禁止です。
参加による負傷の治療費は後日市が負担します。終わり次第申請をお願いいたします。
また、参加前に軽く問診があります。
不明点は受付へ。 以上。
管理人の話の仕方的にもっと細かい事が書かれているように感じたが、必要最低限の事しか書かれておらず、さっぱり意味が分からなかった。せめてどんな祭りなのかだけでも書いてあったらよかったのに。
人付き合いは昔から得意ではなかったため、この地域に二年住んでいるものの未だに近所の人とそれらしい会話や交流をしたことがなかった。そのためこの祭りの詳細を聞くつてがなく、インターネットで検索をすることにした。市の名前と祭り名を入れて検索したが、一件もヒットせず、キーワードを何度も何度も変えた。小さい祭りで参加任意となればネットに載っていなくても仕方ないが、地域全員強制参加となればそれなりに大きい祭りのはず。なのに、どんなに探してもネットには何にも書いていなかった。なら、市のホームページはどうだろう。市の名前だけを検索してみる。するとそれらしい公式ホームページが一番上に出てきた。開いてみたが、何か月か前に見たページと何も変わらず、結局これといった収穫がなかった。
「はあ、誰かに聞くしかないのか」
近所の人の家にまでわざわざ出向くのも面倒なので、祭りの会場で教えてくれそうな人を探して聞くことにしようか。祭りの準備も特になさそうだし、分からない事を永遠と考えるのも時間の無駄。祭りの開始時間は夜の19時だというので、二度寝をしようと思う。ああ、眠い。
そうしてもう一度、深い眠りについた。
全3~5話を予定してます。