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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章-1 レイリーの成長・高揚術の開花

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17.優しい半魔

 カルマが顔を上げて、レイリーの耳に手を翳した。


「けど、俺じゃ、ダメだろ。お前は結局、ウィリアムを忘れらんねェんだ。だったら俺への気持ちは邪魔なだけだろ。俺も、他の男を想う女を抱くのは嫌だしな」


 カルマが何をしようとしているのか、すぐに分かった。


「ヤダ、記憶を、気持ちを消さないで。忘れるなんて、絶対に、嫌だ!」


 カルマの手を掴んでも、ピクリとも動かない。他に何も思いつかなくて、レイリーは咄嗟に顔を上げた。

 がつん、と鈍い音がして、カルマがくらりとふらついた。レイリーの額がカルマの額に大袈裟にぶつかったらしい。


「お前……、他に方法はねェのかよ。魔術師だろ」


 眉間を押さえて、カルマが苦悶の表情を浮かべる。


「ごめん、そんなつもりじゃ」


 慌てて治癒魔法をかける。


「魔法の使い所は今じゃねェだろ。この程度なら放っておいて平気だ」

「ダメだ、眉間を強打すると獰猛な魔獣も死ぬって、ノエルが言っていた」

「またノエルか。いてもいなくても面倒な女だな」


 ぶつぶつ言いながら、素直に治療されているカルマが可笑しくて、レイリーは吹き出した。

 カルマが怪訝な顔で見上げる。


「ありがとう、カルマ。私の中からウィリアムの記憶じゃなくて、自分の記憶を消そうとしてくれて。やっぱりカルマは優しいな。だから、損するんだ」


 カルマが何故、革命軍に身を置き、ノエルを狙うのか、今なら理解できる気がした。ユミルのため、魔国のため、悪役を買って出るくせに悪くなり切れない、不器用な人だ。


「優しくねェし、損もしてねェよ。だったら、お前の中からウィリアムの記憶を全部消して、本当に魔国に攫ってやろうか」

「出来ないよ。私に、そんなことしたら、カルマは一生、後悔するんだろ」


 カルマの顔を胸に抱く。


「私はカルマが大事だよ。リアムを想いながらカルマを好きなった私は狡いと思う。思うけど、本心だ。この気持ちを知れて良かったと思っているんだ。だから、私にカルマを守らせてよ」

「本当に狡いこと言ってんな。どうやって俺を守ってくれるんだ?」


 大人しくレイリーに抱かれたまま、カルマが笑う。


「一緒にいる。カルマが望む未来に、私が連れていく。ユミルも魔国の未来も、一緒ならきっと勝ち取れる」

「俺の欲しい未来が、お前と一緒になることだったら、お前は叶えてくれるのか?」


 カルマを離して、正面から向き合った。


「もう一度、よく考える。今の私には、リアムもカルマも、同じくらい大事だ。だから、考える時間が欲しい。嘘だと思うなら吸血して確かめてみてくれ」


 シャツのボタンを外そうとするレイリーの手をカルマが慌てて止めた。


「今更、疑っちゃァいねェよ。ったく、面倒くせェ女を好きになっちまったなァ」


 カルマがレイリーの額に手をあてた。魔法が発動したのに気が付いて、慌ててカルマの腕を避ける。


「記憶の改ざんをする気はねェよ。お前の額も赤くなっているから、治療するだけだ。ほら、顔こっちに寄こせ」


 訝しい気持ちのまま、顔をずいと前に出す。


「闇魔法でも、治癒ができるのか?」

「人が使う光魔法の治癒術とは勝手が違うぜ。闇魔法の治癒は体が損傷を受ける前の状態に戻すんだ。治すのとは違う。精霊国にはない闇魔法かもな」


 カルマの手から闇色の光が溢れた。心が落ち着く、優しい温かさを感じた。


「すごいな。ノエルが知ったら大興奮するよ。教えろって食い下がるだろうな」


 ノエルがカルマに絡む姿が容易に想像できて、思わず吹き出す。

 そんなレイリーを見て、カルマが笑った。


「結局お前は、ノエルが好きだよな。俺がユミルを好きなように」


 独り言のような言葉は、カルマの本音なのだと思った。

 カルマの腕を両手で包む。胸の奥から温かい光が昇ってくる感覚がした。

 瞬間、カルマの魔法が強く光った。

 ぱん、と目の前で闇色の魔法が弾ける。レイリーの額が治っていた。


「今の、一体、何……?」

「お前の手から魔力が、いや、あれは、魔法か? 何かが流れてきて、俺の魔法が膨れ上がった」


 カルマが驚いた顔でレイリーを眺めている。


「今のは、高揚術じゃァねェのか?」

「高揚、術?」


 聞いたことがない魔法だ。


「ああ、他の魔術師に働きかけることで、相手の魔法や魔術に倍以上の効果を付与できる高等魔法だ。精霊国でも魔国でも何百年も使い手が現れていない、奇跡の魔法だぜ」

「そんな魔法、私が使える訳が……」


 自分の両手を呆然と眺める。


『レイリーなら使えるよぅ。だって僕がいるからねぇ』


 レイリーの胸からひょっこり顔を出したのは、精霊だ。ノアの精霊術の講義の時に契約を交わして以来、ずっと寝ていて話したこともなかった。


「おい、こいつは何だ? 精霊か? 虫か?」


 カルマに摘まみ上げられて、精霊が慌ててジタバタし始めた。


『掴むなよぅ。僕はずっと、レイリーが目覚めるのを待っていたんだよ。やっと起きたね、眠り姫。僕の名前はウル、水の精霊だよ』


 カルマに摘ままれたまま、ぺこりとお辞儀をする。


「えっと、よろしく」


 つられて、レイリーも頭を下げた。


『レイリーがさっき使った魔法は、カルマの言う通り、高揚術だよ。他者の魔法の増強というより、眠っている力を覚醒させる魔法だ。で、カルマは抑止術の使い手だね。総ての魔法を止める力だ』


 ウルがカルマを振り返る。


「俺が? そんな力、使ったことがねェぞ」


『もう一つ、増強術ってのがあるんだよ。魔法を増幅させる力。さっきカルマが言っていたのは増強術の方さ。本来、三つが揃うのがとってもバランスが良いんだ。その使い手に会わないと、力がちゃんと発動しないんじゃないかなぁ』


 カルマがレイリーと同じように自分の手を眺めた。


「確かに、俺は回復魔法が得意じゃねェが。今なら上手く使える気がするな」

『でしょう? レイリーのお陰で目覚めたのさ。増強術の使い手とペアでレイリーに高揚術を試してもらえば、カルマの抑止術もちゃんと目覚めるんじゃない?』


 ウルがしたり顔で説明する。


「じゃぁ、増強術の使い手を探さないといけないんだな」

『探す必要ないよ。レイリーのすぐ近くにいるよ』


 レイリーとカルマは顔を見合わせた。


『ウィリアムだよ。僕の仲間のスルが契約した子』


 カルマがあからさまに嫌な顔をした。


「俺は、いいわ。抑止術? 使えなくても、困っちゃいねェから」

「いや、行こう、カルマ。私と一緒に、皆と合流しよう」


 及び腰なカルマの腕を摑まえて、レイリーが引っ張る。


「学院になんか行ったら、それこそユリウスに八つ裂きにされるだろうが。お前と会ってんのがバレてもマズいだろ」

「今更、マズくない。私がちゃんと説明する。一緒にいるって約束しただろ。考えて答えを出すまで、傍にいてくれないと困る」


 カルマの腕に抱き付くレイリーを見て、カルマが頭を抱える。


「だからな、そういう可愛い顔で言うんじゃねェよ。断りづらくなるだろうが」

『僕も説明してあげるよぅ。レイリーがカルマに恋をして、カルマもレイリーを好きになったから、高揚術が開花したよってねぇ』


 レイリーの頬が熱くなる。他者に改めて言葉にされると、とても恥ずかしい。見上げると、カルマの耳も赤くなっていた。


「レイリーの高揚術の開花は、そういうロジックなのか?」


 疑いの眼差しでカルマがウルを睨む。


『そうだよぅ。君たちは出会うべくして出会ったんだ。同じ系統の魔術師は惹かれ合うんだよ。特に上位魔法は出会いがきっかけになることが多いよ。だからカルマはウィリアムに会うべきだと思うなぁ』


 ウルがニヤリ、とカルマを眺める。


「俺は魔族だぞ。精霊国の王族が会って気持ちいい相手じゃねェよ。しかも婚約者に手ェ出してんだぞ。向こうだって会いたかねェだろ」

『そういう事情は知らないなぁ。僕ら精霊にとって、人も魔族も変わりないしねぇ。カルマのお陰で力が開花したんだから、カルマの方がレイリーとお似合いなんじゃないの?』


 面倒そうに吐き捨てたウルの言葉に、二人は黙り込んだ。


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次話も楽しんでいただけますように。




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