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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章-1 レイリーの成長・高揚術の開花

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15.レイリーの本音




 どこをどう歩いたのか、わからない。

 気が付いたら、誰もいない裏路地の狭い場所で、カルマに抱かれていた。


「こうしていりゃ、恋人同士がイチャついてるように見えんだろ。誰も寄って来やしねェよ」

「うん……」


 素直に頷いて、カルマの胸に縋り付く。その行為に違和感すらなかった。


「お前、呪詛に掛かりやすい質だなァ。ウィリアムってヘタレ皇子といい、もうちょっとノエルを見習った方が良いぜ。警戒心が薄すぎる」

「また、ノエルか。皆、ノエルのことばかり、評価する。だったら私じゃなくてノエルを選べばいいのに」


 ぽそりと、本音が漏れる。

 ノエルから逃げたくて来た場所で、またノエルの話をされる。いい加減、嫌になってきた。

 カルマの手がレイリーの顎を摑まえて、上向かせた。赤い瞳が無遠慮にレイリーの目を覗き込む。


「お前、ノエルが嫌いか?」


 赤い瞳が愉悦に歪む。

 レイリーの目に涙が溢れた。


「嫌いじゃない。だから困ってる。皆がノエルを評価すると、私は必要なくなる。でもノエルは私に頑張れって。大丈夫だって言ってくれる。嬉しいのに、辛い。ノエルが好きなのに、疎ましくて。でも嫌いになれない」


 誰にも言えなかった本音が、ポロポロ零れる。


「きっと皆、私に期待なんかしてない。でも私は、ファーバイル家の娘だから、ウィリアムの婚約者だから、頑張らなきゃいけないんだ。でも、もう、疲れた」


 泣きながら、カルマの胸を弱く叩く。

 カルマがレイリーの腕を掴んだ。


「……そうか。だったら今だけ、楽にしてやるよ」


 熱い息が肩に掛かる。いつの間にか服をずらされていたことに気が付いた。

 唇が肩の皮膚を吸う。

 甘い痺れに、体が跳ねる。


「ん……ぁ……」


 次の瞬間に襲ってきたのは、柔らかい快楽だった。血を吸われているんだとわかるが、痛みはない。

 体の力が抜けて、カルマに凭れ掛かる。


(気持ちいい……、もっと、ずっと、こうしていたい……)


 レイリーを受け止めて血を吸うカルマに、腕を回して抱き付いた。


「お前の気持ちは、よくわかるぜ。逃げてもいいじゃねェか。頑張るなよ」


 カルマの言葉が頭の中に響いて、目を開く。

 吸血を終えたカルマが、レイリーの服を直してくれていた。


「俺はなァ、血を吸った相手の心が読める。魔族が皆そうって訳じゃぁねェぜ。血魔術の一種で、生まれながらに俺に備わっていた力だ」


 カルマがレイリーの肩を抱き寄せた。


「お人好しの馬鹿だなァ、お前。ノエルのことなんか嫌いになっちまえよ。俺ァ、アイツみてェに前しか見てねェ質の生き物は好きじゃねぇよ。鬱陶しい」

「でも、ノエルがいたから、『呪い』がなくなった。ノエルがいたから、マリアが目覚めた。皆、ノエルのお陰で」

「それ、本当に必要だったか? 『呪い』がなくなって、本当に良かったか? マリアは魔性スズランじゃないと目覚めなかったのか? 他に方法はなかったのか?」


 レイリーは言葉を止めた。

 確かに、そう考えていたかもしれない。

『呪い』の正体が暴かれなければ、ノアは教会を追われなかった。レイリーがこんな苦労をすることもなかったかもしれない。

 魔性スズラン以外の方法でマリアを目覚めさせていたら、瘴気に中てられることもなく、ノエル自身も傷付かずに済んだかもしれない。


「結果が偶然、実を結んだだけだ。ノエル自身も酷ェ目に遭ってんだろ。俺のせいだけど。アイツは優秀でも何でもねェ。ただ必死なだけだ」

「必死……?」


 レイリーが顔を上げる。

 カルマが表情を変えずに頷いた。


「俺は、ノエルの血も吸っているからな。わかるんだよ。何か大事なもんを守るために必死になってる。今も必死で、今度はユミルを助けようとしてんだろ。本当に鬱陶しいぜ」


 舌打ちするカルマに、はっとする。

 血を吸われたせいで、先日のノエルのプレゼンがバレたのだ。

 離れようとするレイリーの体をカルマが捉えた。


「本当は、お前に呪詛を掛けてノエルを誘き出すつもりだった。ノエルの周りは今、護衛が張り付いていて直接手が出せねェからな」


 カルマがレイリーの肩に顔を埋める。


「攫う姫様を間違ったぜ。もっと、どうでもいい奴だったら、適当に操り人形にできたのになァ」


 独り言ちるカルマに、びくりと体が震える。


「呪詛が解けてんのには、気付いてんだろ。逃げて良いぜ。興が削がれた」


 カルマはレイリーを抱いたまま、動かない。


「私が逃げたら、カルマはどうするんだ」


 カルマが街中に潜伏していることに、ノエルは気付いている。今日、接触したことをメンバーに伝えれば、誰かは必ず探しに来る。


「どうするかなァ。とりあえず、魔国にいったん引くかね」


 レイリーはカルマの肩に腕を回した。意識したのではない。反射的に体が動いた。


「私がまた会いに来たら、カルマはまだ精霊国に、いてくれるか?」

「俺を引き留める算段か? ユリウスにでも引き渡せば、八つ裂きにしてくれるだろうな」


 レイリーの肩から顔を上げたカルマに向き合う。


「違う。今日会ったことは、誰にも話さない。私がただ、もう一度、カルマに会いたい。それだけなんだ」


 呪詛なんか掛かっていないのに、本音が口から滑り落ちる。


「本気で言ってんのか? 次会った時、俺がお前に何もしないと思うのか? ウィリアムの元に戻れねェ体にしてやることも出来るんだぜ」


 レイリーの腰を強く抱いて、カルマが顔を近づける。

 挑発的な行為も、今のレイリーには恐れにはならなかった。


「初めてだった。弱音も本音も話した相手は、カルマが初めてだった。カルマは全部、否定しないで受け止めてくれた。それが、とても嬉しかったんだ」

「そんなもん、お前の血を吸って、呪詛を掛けるために決まってんだろ。そういう考えが、甘いんだぜ。こうやって俺みてェのに、付け込まれる」

「じゃぁ、どうして私の呪詛を解いたんだ? あのままにしておけば、私はカルマの命令通りにノエルを連れてきた。その方が都合が良かっただろう」


 カルマがレイリーの顎を上げて、強引に唇を重ねた。

 後頭部を押さえられて、口付けが深くなる。

 唇を舐め挙げて、強く吸われた。


「こんな風に、お前を汚すことも……」


 レイリーの顔を覗いたカルマが、言葉を止めた。


「なんて顔してんだ、お前。俺が馬鹿みてェじゃねェかよ」


 項垂れて、レイリーを抱き締める。

 自分が今、どんな顔をしているのか、よくわからない。

 けれど、カルマのキスを嫌だとは思わなかった。


「もう、リアムの元には、戻れないかな」


 呟いたレイリーをカルマが更に強く抱き締める。


「たかが一回、他の男とキスしたくれェで婚約破棄するヘタレ皇子なら、自分から捨てちまえ。俺が拾って魔国に連れ帰って、妻にしてやるよ」

「本気で言っているのか?」

「お前こそ、本気で俺の女になる気はあるのか? ウィリアムを捨てる勇気があるのかよ? 俺に会いに来るってのは、そういうことだぜ」


 カルマの目は揶揄っている様子じゃない。本気の目だ。

 レイリーは思わず目を逸らした。

 カルマが小さく息を吐いた。


「正直な女。お前がウィリアムを捨てられねぇのは、わかってるよ。明日また、会いに来い。お前が来るなら、俺はお前以外から吸血しない。約束する」


 訳が分からず、カルマを見上げる。

 カルマがガリガリと頭を掻いた。


「そういう()()があれば、俺に会いに来れんだろ。仲間に言い訳も、できんだろ」


 カルマが口実を作ってくれているのだと気が付いて、思わず笑みが零れた。


「うん。会いに来る。カルマの居場所は、誰にも言わない」


 カルマがレイリーの頭に手を置いて、ぐっと俯かせた。


「そういう風にな、可愛く笑うんじゃねェよ。本気で惚れるぞ。馬鹿」


 わしゃわしゃと頭を撫でられて、擽ったい気持ちになる。

 心の奥に温かい何かが育っていくのを感じていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

面白かったら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。




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