13.カルマ奪還作戦
「カルマを革命軍から抜けさせるにしても、具体的にはどうするの? かなりヤバい奴には変わりないと思うけど」
何となく先ほどの怒りを引き摺ったロキが、むくれた顔で聞く。
「ユミルが魔族因子を覚醒させなくても魔国を守れると証明してやればいい。その為に、カルマをこちら側に引っ張り込む」
ノエルがぐっと拳を握った。
「こちら側って、クラブのメンバーに引き入れるってこと?」
マリアが不安な顔をする。
「そう。この先、革命軍を相手取るにも魔国の瘴気を消すにも、カルマの協力は不可欠だ」
ノエルの予想通りなら、魔国には今、あるべきものがない。それを探すため、更には革命軍を正面から落とすのではなく、内部崩壊させるためには、カルマは必要な人員だ。
「私は、反対だわ。ノエルに近付けさせるなんて、絶対に嫌。またあんな風にノエルが傷つくかもしれないなんて、考えたくない。絶対に許せないもの」
マリアが自分の腕を抱いて震える。
(そうか、マリアは私が吸血されている所を、見ていたって言っていた)
どういう原理かわからないが、眠っている間、ノエル始めクラブの皆の姿がマリアには見えていた。
最初にノエルを発見したアイザックやユリウスよりも酷い状況を、マリアは目の当たりにしているのだ。
「大丈夫だよ、マリア。ユミルがいれば、カルマは馬鹿な真似はしない。だってアイツ実は、ユミルが大好きなだけの構ってちゃんだから」
じっとりと目を細めて、ノエルは吐き捨てるように笑った。
そう、カルマが狂人振りを発揮するのは出会いイベントの時だけだ。普段は自分の出自にコンプレックスを抱き、可愛がってくれる純血の兄の王位継承を邪魔しないように不良振る、ただの構ってちゃんなのだ。
ユミルや主人公のように、好きな相手には案外強く出られない。
(カルマルートでは、主人公に対してカルマはどんどん可愛い奴になっていく。私に対してどうかはわからないが、ユミルがこっち側なら、カルマは私に対して強く出られないはずだ)
「あれだけ酷いことされたのよ? どうして、そんなこと言えるの? またノエルが酷いことされたら、私、カルマに何するか、わからないわ!」
ノエルの肩を強く振る。
ガックンガックン揺らされながら、ノエルは乾いた笑いを漏らした。
「それなら僕が、ノエルの騎士になる。カルマに手出しはさせないと、約束しよう」
マリアの手を握り、ユミルが動きを止めた。
動きを止めて、マリアがユミルを振り返る。
「この程度で礼になるとは思わないが。僕も君たちの力になりたいと思うんだ」
マリアが何かを考えるように俯く。
難しい顔が一変して表情を変え、明るい笑顔でユミルの手を握った。
「わかったわ。ユミルが良い人だってことは、わかるもの。信じるわ。一緒にノエルを守ろうね」
ユミルが頷く。
二人の間に強い結束が生まれているように見えた。
(ていうか、マリア。何か企んでいるような顔なんだけど、大丈夫だろうか)
あまりにもあっさりユミルの提案を受け入れたマリアに不信感というより不安が過った。
「カルマは確か、精霊国の街中に潜伏しているのだったか?」
アイザックの問いに、ノエルは頷いた。
「私はカルマの魔力を知っているから、魔力探知で割り出した。根城にしている宿は何か所か目星を付けてる。だからね、炙り出し作戦といこう」
ノエルが不敵に笑む。
「それって、ノエルを囮にカルマを捕縛するとか、そんな感じ?」
「そうだけど?」
ロキの問いに、ノエルは当然と言わんばかりに返事する。
「「「却下」」」
ロキとユリウスとマリアが口を揃えてダメ出しした。
(三人とも息が合い過ぎじゃない? いつの間にこんなに仲良しになったのか)
マリアとの親密度が上がっているなら願ったりだが、アイザックと恋仲になり婚約までしている状況で、今更他のキャラとの親密度はどうでもいい気もする。
「私がさっき、何に怒ったのか、全然わかっていないわね」
「僕も前に、自分を贄にするような戦い方をするなと叱ったはずだけど、忘れちゃったのかな?」
「一人で突っ走って行かれたら、守りたくても守れないんだよ。わかってる?」
三人三様に叱られて、ノエルはぐうの音も出ない。
「つまりね、君は何でも一人で抱え過ぎなんだよ、ノエル。たまには私たちに頼ってみてもいいんじゃないかな」
ウィリアムがレイリーと目配せする。
「私とリアムに考えがあるんだ。カルマの件は、私たちに預けてくれないか?」
「考えって……? レイリーを囮にするわけじゃないよね? アイツ、初対面だとヤバい奴だよ。そんな危険な真似をレイリーにさせられないよ!」
レイリーをぎゅっと抱き締める。
ロキがげんなりした目でノエルを見ていた。
「そういうとこだよ、ノエル。自分は危険なことしようとしているのに、他の人には過保護なんだから」
「だって! 推しが傷付く姿なんか見たくない!」
(物語の中で推しが傷付く姿を見るのは大好物だけど、実際傷付くのは痛いだけだよ!)
ロキの呆れ顔がウィリアムに向く。
ウィリアムが困った顔で笑った。
「それこそ、ユミルに協力してもらうんだよ。初めから臨戦態勢では、カルマも素直に首を縦に振れないだろう。話し合いの場を設ければいい」
ウィリアムの視線がユミルに向く。
ユミルが静かに頷いた。
「もちろん、協力する。むしろ僕の方から願い出たいくらいだ」
「決まりだね。ただし、ユミルは学院の外に出られない。だから、ここまで連れてこなければいけないんだが……」
「ならば、私も行こう。転移魔法で強制送還すればいい」
ノアが、さらりと怖い言い回しをした。
「ノア先生に御同行いただけるのは、願ってもないですね。だからノエル、君は今回は、お留守番だ」
「……わかった」
素直に頷くしかなかった。
(キャラたちが成長している。自分で考えて行動している。原作者的に、とても嬉しい)
心の中で静かな感動を覚えながら、ユミルを眺める。
どこか嬉しそうな表情をしているように見えた。
(この調子で感情が育ってくれるといい。ユミルの心を育てるのは主人公の愛だけじゃなくてもいいんだ)
恋愛だけが愛ではない。
色んな感情を知って、色んな愛を知っていってほしいと思う。
(とりあえず駆け出しは順調だ。あとはカルマから、どれだけ情報を引き出せるか、だな)
次の算段をしながら、ノエルは更に先の作戦に考えを巡らせていた。
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