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モブに転生した原作者は世界を救って、攻略対象と恋をする⁉  作者: 霞花怜(Ray)
第3章:本編Ⅱ 原作者も知らない、本当の物語の始まり
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11.史跡調査クラブへようこそ

 ノエルとロキはユミルを連れてさっそくクラブ室に向かった。

 ロキが当たり前のようにノエルと手を繋ぐ。それを見ていたユミルが、同じようにノエルの手を握った。


「ユミル、ノエルに懐き過ぎじゃない?」


 ロキの声が不機嫌だ。


「迷子になっても困るし、手を繋ぐくらいは良いよ。まだ学院内の構造にも慣れていないだろうしね」

「でも、三人で手を繋いで歩く姿って、どうかと思う」

「じゃぁ、ロキが手を離せばいいと思う」


 ロキが傷ついた顔でノエルを振り返った。


「ノエル、最近、俺に冷たくない?」

「そういうつもりはないけど。傷付けたなら、なんか、ごめん」

「謝らなくていいけどさ。なんか、扱いがリアムっぽくなってきた気がする」

「その言い方は、私がウィルに冷たいみたいに聞こえる」

「実際、冷たいよね。出会った頃からノエルはリアムに冷たいよ」

「そんなつもりはないんだけどな」


 ロキとノエルの会話を黙って聞いていたユミルが、ぽそりと呟いた。


「二人は仲が良いのだな。ロキは、ノエルに好意を持っているのか?」


 ロキが立ち止まって振り返った。

 いつもなら飄々と肯定するロキだが、何故か黙っている。


「ねぇ、ユミルって本当に感情が希薄なの? すごく鋭いと思うんだけど」


 ノエルを振り返るロキに、頷いて返す。

 クラブメンバーにはユミルについて、ある程度の情報を共有していた。勿論、カルマについても、『ノエルの血を吸った魔族』としての情報共有をしている。これから起こり得る事件に備えるためだ。

 それらはユリウスと立てた計画の一端だった。


「ユミルは賢い人なんだよ。感情と気付きは別物だよ」


 納得のいかない表情をしているロキの隣で、ユミルがノエルを見下ろす。


「ロキの気持ちが少しわかる。僕はノエルを知りたいと思う。これは、好意、だろうか?」


 ノエルは首を傾げた。


(悪い感情ではないから好意なのかもしれないけど、まだ未熟だよなぁ)


「まだ好意までいかないんじゃないの? 只の興味だろ、きっと」


 どう伝えるか考えあぐねていたら、ロキが答えてくれた。

 こういう時のロキは妙に鋭い。


「そうか、興味か。なら僕は、ノエルにもロキにも興味があるよ」


 表情は変わらないが、目が笑んで見える。

 ノエルとロキが顔を合わせる。

 ロキが仕方ないと言わんばかりに眉を下げた。


 

 クラブ室に着くと、皆が揃っていた。

 予定通り、顧問のユリウスと、何故かノアがいる。


(護衛兼監視のノアは除外できなかったか。ま、想定の範囲内だし、いてもらった方が面倒がないかな)


 これから始める大掛かりな作戦は長期戦になる。どこかの段階で作戦に加わってもらうなら、最初からいてくれた方が段取りが良い。


「ここがクラブ室だよ。史跡調査クラブにようこそ、ユミル」


 室内にはすでに結界が張ってある。不測の事態を懸念してのものであり、ユミルへの配慮でもあった。


「こっちに座って、ユミル。皆のこと、紹介するわ」


 マリアがユミルの手を取り席に着かせる。

 いつもと同じ笑顔を浮かべるマリアに、ノエルの顔が緩んだ。


(さすが、私の主人公マリアは誰にでも分け隔てない。こういうところが主人公たる由縁だ)


 頼りになる存在であり、親友だと思う。

 他の面々が緊張を隠せない中で、マリアの纏う優しい雰囲気は確実に場を和ませていた。


 ユミルがマリアの手を握った。


「これほど美しい人が、精霊国にはいるのだな」


 呆気に取られたような表情で、ユミルがマリアに見入っている。

 この状況にはノエルもさすがにマズいと思った。


(ユミルとマリアが結ばれると、マリアが闇落ちしてしまう。親密度はソコソコにしておかないと)


 間に入ろうとしたノエルより早く、アイザックがユミルの手を取った。あくまで冷静にユミルからマリアの手を取り上げる。


「すまないが、ユミル。マリアは俺の婚約者だ。婚約という建前がなくても俺はマリアを愛している。それは、覚えておいてくれないか」


 アイザックの言葉に顔を赤らめたのはマリアだった。


「そうだったのか。知らなかったとはいえ、不躾な真似をした。今後は気を付けよう」

「アイザック、何も今、そんなこと言わなくても」


 狼狽えるマリアに、アイザックが当然といった顔を向ける。


「俺はマリアに自分の気持ちを伝えているはずだ。今更でもないし、大事な恋人を守るのは当然の行動だよ」


 マリアが顔を真っ赤にして言葉を無くした。

 二人を眺めていたノエルは、目を潤ませて口元を手で覆った。


(奥手だったアイザックが、ああもはっきりとマリアを恋人だと断言した。しかもユミルの前で……。成長している。二人はやっと恋人になったんだ)


 目を潤ませるノエルを、ロキが肘で小突いた。


「どうしてノエルが涙目になっているの?」

「だって、マリアとアイザックが恋人になったんだよ。嬉しくて感極まっちゃったよ」


 そんなノエルを眺めて、マリアが同じように目を潤ませた。


「ノエル、そんなに私たちのこと、喜んでくれるの?」

「当たり前だよ。ずっと応援してたんだよ。さっさとくっ付いちゃえよって思っ……いや、恋人になったらいいなって思ってたんだから」

「ノエル、言い方変えても変わってないよ。言ってること同じだよ」


 感動して手を取り合うマリアとノエルに、ロキが呆れ顔で突っ込む。

 そのやり取りを呆然と眺めるユミルに、レイリーが紅茶を差し出した。


「まずは一息、入れてくれ。紅茶は好きだろうか」


 レイリーを見上げて、ユミルが頷く。


「良い香りだ。良質な茶葉だとわかる。精霊国は、やはり豊かな国なのだな」


 ティーカップを手に取り、ユミルが紅茶を一口、含む。

 仕草が優雅で大変に絵になる。

 一見すると魔国の大王に見えてしまうあたりが、気の毒に思えた。


「やはり魔国は今、食糧難に瀕しているのか?」


 ウィリアムがようやく重い口を開いた。

 ユミルが変わらぬ表情のまま、頷いた。







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お楽しみいただけましたら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。

お読みいただき、ありがとうございました。        (霞花怜)

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