5.秘密の話②
※R15程度の描写がちょっとだけあります※
※ご注意ください※
「魔獣の森で私から血を吸ったのは、カルマだ。カルマの本当の狙いは、きっとユリウスだよ」
ユリウスの手が動きを止めた。
「カルマ、か。アイツが……。僕とカルマが顔見知りなのも、ノエルは知っているんだろうね」
諦めた吐息がユリウスから漏れる。
「カルマの母親はローズブレイド領に住んでいた人間だよね。カルマは昔、領地によく遊びに来ていたでしょ。どうしてあの時、魔獣の森にいたのかは、わからないけど」
「子供の頃に一緒に遊んでいたよ。魔国に来ないか、なんて時々言われてね。あの頃は、魔国がどんなところかも、よくわかっていなかった」
ローズブレイド領は領地替えになった今でも魔国に隣接する北側に位置する。あの場所だけは結界が緩いので、今でも半魔が出入りしている。
だが、領地自体に強力な結界が施されているので、領から出ることはできないはずなのだ。
「カルマが何故、魔獣の森に入れたのかは、僕にもわからない。子供の頃以来、接触はないからね。けど、やろうとしていることは、何となく理解できたよ」
ノエルを抱くユリウスの手に力が入る。
「私を吸血して、瘴気を纏う半魔の体に仕上げれば、ユリウスの吸血衝動を引き出せると考えてる。竜人に魔族化したユリウスを魔国に連れ込むのが、カルマの目的だと思う」
カルマは王族だ。革命軍を止めるため、ユリウスの力を欲している。だが、ユリウスはカルマの意に反して革命軍の側に付く。
だからこそ、攻略対象であるカルマは主人公と共に魔国を取り戻す算段を組む気になるのだ。
「僕に吸血衝動はないよ」
「特殊な血の匂いを嗅いだら、どうなるかわからない」
没になったシナリオの中でも、吸血衝動のないユリウスに主人公の血を吸えとカルマは迫る。主人公の命を盾に取られたユリウスは仕方なく吸血し、衝動が目覚めてしまう。
ユリウスがノエルの肩を掴んで、顔を合わせた。
「舌を出して」
「へ?」
戸惑うノエルに口付けて強引に口を開かせる。舌を引き出して、強く噛まれた。
「っ!……」
鋭い痛みが走り、口の中に血の匂いが広がる。
舌を絡めて血を舐めとられ、強く吸われる。
(何で今、血を吸ったりなんかっ!)
顔を離そうとしても、ユリウスの手が後頭部を押さえて動けない。
体ごと離したくても、背中に回った腕がそれを許さない。
くちゅくちゅと水音の合間に吐息となまめかしい声が漏れる。
「ぅ……ぁっ……」
唇が離れると、白い唾液の糸がつぃと落ちた。
いつもより形振り構わない顔のユリウスが、熱っぽい目を向けている。
「僕は何度、ノエルに口付けていると思う? 君の体中に舌を這わせて、誰も触れたことのない場所にも、何度口付けていると思う?」
唐突に秘部に触れられ、咄嗟に足を閉じる。
「だって、それは血じゃないから」
「血も体液だよ。魔族の捕食は吸血に限らない。人の体総てだ。特に興奮して流れるものは、血より因子の覚醒を強める」
ユリウスの指がノエルの秘部を服の上から弱く撫でる。
「や、やだ……、ユリウス……」
恥ずかしさで目が潤む。
「血は簡便だから魔族が好んで吸うんだ。何度も捕食するためにも、人を殺さずに済む。でも、犯すほうが本当は効率が良い。僕はもう何度も君のここに舌を這わせて舐め挙げて吸い上げている。でも、魔族化なんかしていない」
耳元で恥ずかしいことを囁かれて、体が震える。
ユリウスの指が下着をずらして、濡れ始めた恥部に触れる。
「もぉ、ぃや……ごめ、ごめん、なさい」
ユリウスが動きを止めて、指を離した。
「いや、ごめん。僕が、やり過ぎた。ノエルは僕を心配しただけだ。何も悪くない」
優しく肩を抱かれて、罪悪感が湧き出た。
(私の言葉は、ユリウスを傷つけたんだ)
少なからずこの国で半魔として不利益を被っているユリウスだ。人ではない扱いをされていると感じることも多いはずだ。
(私だけは、ユリウスをそんな風に扱っちゃダメだった。そんな扱い、したくなかった)
「とにかく、カルマが僕を魔族化しようとしても無駄ってこと。僕は今以上にも今以下にもならない」
ノエルを宥めるように優しく話すユリウスの声が、痛い。
「それにね、カルマの目的は、やっぱりノエルだと思う。桜姫が書いたシナリオは、今の段階で既にズレているんじゃない?」
確かに、カルマと主人公が出会うのは二年生の春、学院内、或いは街中だ。ウィリアムに呪詛をかけるなんて話も書いていない。
「ゲームのシナリオも、没になったっていうシナリオも、参考程度に考えた方がいいだろうね。縛られ過ぎると、考えが偏るよ」
ユリウスがノエルの血で魔族因子を覚醒させないのなら、確かにそうなのかもしれない。
(知っているって固定概念で、今みたいにユリウスを傷付けるのは、もう嫌だ)
ノエルは素直に頷いた。
「うん、わかった。ユリウス、ごめん。私は、ユリウスの全部が大好きだから。人だろうが半魔だろうが竜人だろうが蛙だろうが、何でも好きだから」
「え? 蛙って、何? ノエルには僕が、そんな風に見えてるの?」
顔を上げさせられて、頬を摘ままれる。
「蛙でも蟻でも何でもいいの。ユリウスがユリウスだから好きなの」
真っ直ぐに見詰めるユリウスの顔が徐々に赤くなる。
「ノエルってやっぱり変わったよね。前は真正面からそんなこと言う子じゃなかったのに」
目を逸らすユリウスの頬に口付ける。
「嫌ならもう言わない」
「そのままでいい」
ユリウスが唇を重ねた。
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お読みいただき、ありがとうございました。 (霞花怜)




