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モブに転生した原作者は世界を救って、攻略対象と恋をする⁉  作者: 霞花怜(Ray)
第3章:本編Ⅱ 原作者も知らない、本当の物語の始まり
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3.後半戦に向けて

 三月になった。ノエルは自室の机に向かい、ペンをとっていた。


 ウィリアムの一件のあと、さりげなく全員の耳を確認したが、呪詛は見付けられなかった。


 呪詛は言葉を耳に流し込む呪術だ。耳の辺りに術式が固定されていることが多い。だが、場合によっては体の何処にあってもおかしくない。


(あんまり皆を不安にさせる訳にもいかないから、全身チェックは出来ないしな)


 あとは注意深く、行動や言動を拾うしかない。


(とにかく、後半戦のおさらいをしておこう。前半より絶対に厳しい展開になるのは、間違いない)


 物語後半は、ゲーム通りなら、二年生の春からスタートする。

 魔国の皇子兄弟が肩書を隠して精霊国・聖バルドル魔術学院に編入生としてやってくる。


 後半に追加になる攻略対象は、二人。

 一人は魔国第一皇子、ユミル=ルーン=ヘルヘイム。感情が極度に希薄で感じとる力はおろか、自分の感情にすら鈍い。白子アルビノで魔力が高い。

 もう一人は、魔国第二皇子、カルマ=ヴィアジェ=ヘルヘイム。狡猾で好戦的な半魔、興味本位で吸血する狂人。森で出会った、アイツだ。

 

(今、思い出しても怖気が走る。ウィルにまで手を出しやがって。自分が生み出したキャラだけど、嫌いになりそうだ)


 ノエルは、頭を抱えた。


 皇子たちの編入は表向き、両国の友好関係強化のための視察だ。だが実際の目的は、フレイヤの剣の後継者の暗殺である。精霊国側に何としても結界を解かせたい魔国側の強硬策だ。


(でも、主人公(暗殺目標)と出会い、恋に落ちる。ハッピーエンドでもバッドエンドでも、マリアは殺されない。けど、この二人は、絶対にマリアと結ばれてはいけない)


 ハッピーエンドなら主人公が魔国に嫁いでしまう。フレイヤの剣の後継者が現れず、結界が解かれ精霊国が滅亡し、変わりに魔国が発展する。

 バッドエンドなら魔国がクーデターで陥落、皇子は主人公を残して国に戻り、二人は離れ離れになる。結果、フレイヤの剣を引き継ぎ、精霊国が救われる。


「後半のキーワードは、魔剣、だな」


 魔剣は二人の皇子との親密度が一定以下のときに現れるアイテムだ。跡継ぎを心配した魔王が主人公に無理やり宛がうことで、魔国に引き込む。

 簡単に言えば、親密度を上げるためのアイテムだ。二人の皇子のうち、どちらかに使用できる。


(でも、この剣を使うと、主人公は闇落ちエンドを迎える。主人公自らが魔国のために精霊国を滅ぼす)


 つまり、二人の皇子との親密度は、高すぎても低すぎてもダメ、ということになる。


「無理ゲーが過ぎんだろうが! こんなの、どうしようもねーわ!」


 だん、とペンを投げ捨てた。


(そもそも、マリアは今、アイザックといい感じなんだから、その路線で突っ走ってもらえれば、乗り切れる。でも……)


 闇落ち回避のためには、魔国の皇子との親密度もソコソコに上げねばならない。後半から出てくるキャラだから、イベントも甘めで親密度も上がりやすい。


(それでも、あんな危険な男とマリアを接触させるとか、考えられない)


 カルマルートのシナリオを作ったのは勿論、自分だ。吸血イベントも書いた。ゲームの吸血イベントは、もっとソフトな感じでエロ甘にしたはずだ。命の危険を感じる吸血シーンは書いていない。


(エロゲにならない程度にギリギリのエロさMAXでお願いしまーす、っていう制作班の要望に最大限答えた結果だ。ギリギリの致死率MAXにした覚えはないぞ)


 ギリギリのエロさMAXな吸血シーンを現実で体験するとアレなのか、もはやエロさなどなく死にかけただけ、としか思えない。


「実のところ、よく覚えていないんだよな。ただ、怖かっただけで」


 快楽と恐怖はしっかりと体に刻まれた。しかし、具体的に何をされていたのかは、覚えていない。吸血されていたのだろうが、他に何かされていても、きっとわからなかったと思う。だからこそ、恐怖と怒りが湧き上がってくる。


「マリアに、あんな経験させられない。どうしよう……」


 そもそもこの乙女ゲームは、マリアが攻略対象全員との親密度を一定以上に上げられなかった時点で詰む。

 それはマリアの魔法を高める感情が『慈愛』だからで、親密度が上がらなければ、慈愛も育たない、というロジックだ。


 誰とも結ばれず、友情エンドにすら持ち込めない場合、フレイヤの剣の継承者なしで結界が維持できず国が滅亡。

 魔剣を継承した場合、闇落ちした主人公により精霊国が滅亡。


 ノエルは机に突っ伏した。


「誰かと結ばれればいいんだ。アイザックとハッピーエンドさえ迎えてくれたら、他の攻略対象との親密度が上がらなくても、フレイヤの剣は継承できる。でもそれじゃだめだ!」


 フレイヤの剣はレイリーが継承しないといけない状況になった。

 主人公マリアがアイザックルートを順調に進んでいる今、放置すればマリアがフレイヤの剣の後継者に選ばれてしまう。


「本来ならそれで良かったんだけどなぁ。なんで、こうなった」


 一つ、希望があるとすれば、アイザックが神官の道を選び、王位継承権を放棄したことだ。王位につかないキャラと主人公がハッピーエンドを迎えた場合、剣に選ばれるのはレイリーだ。


「とにかく、そこに懸けるしかない。あとは……、一番の問題は、没シナリオルートってことか。あれはカルマとの出会いイベントだったってことなのかなぁ」


 主人公とカルマは、初見が最悪からのスタートだ。吸血こそされないが、押し倒す勢いで壁ドンされた主人公が激怒する。

 前半で既出の攻略対象に好意を抱いている、もしくは満遍なく仲良くなっている主人公が怒るのは当然の流れ、なのだが。


(私は今、違う意味で、どうしようもないくらいカルマに怒りを覚えている)


「やっぱり、主人公、私ってことなのかな……。認めたくない」


 恋愛展開を思い返してみる。

 マリアと仲睦まじいのはアイザックだけで、ユリウスには婚約を申し込まれたし、ロキにははっきりと告白された。ウィリアムにも好意的な反応をされている。

 アイザックの友好的な反応も含めると、攻略対象の男子全員がノエルに好意的な反応を見せている。


(レイリーにだって、嫌われている訳じゃない。しかもマリアとは、月の言霊イベント以来、友情以上の気配すら感じる)


「自意識過剰、自意識過剰だ。なんでモブが突然、主人公に……」


 自分の言葉に自信が持てない。

 置き換わっているというより、主人公がマリアからノエルにスライドしたような印象だ。レイリーと同じで、マリアという友人から百合ルートが開くタイプの攻略対象がいるような。そう考えると、納得できてしまう。


「しかも没シナリオなら、ユリウスはサブキャラだ。もし私が主人公なら、攻略対象の誰とも恋愛していないことになる。それは……どうなの?」


 友情エンドで乗り切れる可能性もあるが、そもそもノエルはフレイヤの剣の継承者の条件にそぐわない。

 それに、フレイヤの剣さえ誰かが継承すれば、この世界は崩壊しない。


「そうだ! フレイヤの剣をレイリーが継承すれば! 問題ない!」


 とにかく、そこに総ての希望を掛けようと、ノートに目を落とす。


『ユリウスが攻略対象じゃなかった場合、ユリウスは主人公の敵になる』


 過去の自分が書き殴った一文を、指でなぞる。


「敵、か。ユリウスが、私の敵になる……? 絶対させるか、私は原作者だ。没ったシナリオだって、覚えてる」


 ノエルはノートに没になったシナリオを書き殴った。


(全部先回りして、カルマの行動を潰す。強引でいい。多少、皆に疑われても、この世界に住まう生き物総てがハッピーエンドを迎えるシナリオに、書き換えてやる)


 作戦書まで書いていたら、前世のように何徹もしてしまいそうだ。

 手記を持って、ノエルはユリウスの研究室に向かった。







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お楽しみいただけましたら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。

お読みいただき、ありがとうございました。        (霞花怜)

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