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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章:本編Ⅱ 原作者も知らない、本当の物語の始まり

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1.降り積もる雪から君を守る①

第3章-0 『前哨戦・まずはシナリオに沿って』


 二月になった。寒さは底をついて、冬の庭でなくても雪が降る。

 ノエルは秋の庭の奥に向かった。


(雪が降る中で見る桜も、今ならきっと綺麗だと思えるだろう)


 秋の庭に咲くノエルの桜は、いつも花が満開で風に花弁が舞っている。

 今日は降り落ちる白い雪に薄紅が混じって、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「綺麗だなぁ。ノエルは、すごいな。色褪せない魔法を、この世界に残していった」


(桜が嫌いだった私の心にも、魔法をかけていってくれたんだ)


 ノエルの手紙を読んでから、少しは素直に人の言葉を受け入れてみようと思うようになった。この桜を見るたびに、もっと伸び伸び生きようと思わせてくれる。


『だから、貴女も楽しんで。シナリオ通りにいかなくても、人生は普通、先がわからないものだから』


 大切な言葉を思い出させてくれる。桜姫にとって桜は、そんな木になった。

 木肌に手をあて、撫でる。ざらりと冷たい感触が心地いい。


 ふと、足元に人影があるのが見えた。


(またユリウスが来ているのかな?)


 覗き込むと、ウィリアムが幹に背を預けて花を見上げていた。


「ノエル? どうしたんだい?」


 人の気配に気が付いたウィリアムが、ノエルを振り返った。


「ウィルこそ、こんな寒い日にどうしたの? 雪が積もる桜でも見に来た?」


 酒が飲める年齢でもないから、雪見酒という訳にもいかないだろう。


「サクラ……というのは、この花の名前かい? やっぱりノエルは博識だな」


 赤い鼻をすすって、ウィリアムが微笑む。


(そっか、こっちの人はこの木の名前、知らないもんな。ユリウスが特殊なんだ)


 ウィリアムがノエルに手招きする。

 近づいたら、腕を引っ張られた。


「うわっ」


 ノエルが膝の上に収まると、ウィリアムが改めて肩から大きな掛物ストールを羽織り直した。


「寒いから、こうして見よう」


 ウィリアムが上を見るよう促す。

 見上げると、薄紅の桜の合間に落ちた雪がキラキラと輝いていた。


「綺麗だね」

「ああ、とても綺麗だ。この花を見ていると、心が安らぐよ」


 ウィリアムをちらり、と見上げる。

 凍った息を吐きながら桜を見上げる顔は、いつもよりリラックスして見えた。


「ウィルは、よくここに来るの?」

「時々かな。ここは人気がないからね。考え事をしたい時に、たまに来る」

「そうなんだ。じゃぁ、私は帰ろうかな」


 立ち上がろうとしたノエルの腹にウィリアムが腕を回した。


「もう少し付き合ってくれないか。丁度、考えに詰まっていたところなんだ」

 

 チャイルドシートに座らされた子供状態で動けなくなった。

 仕方なく、ノエルは腰を下ろした。


「ノエルは、これから先をどう生きるか、プランはあるかい?」


 ノエルの頭に頬を乗せて、ウィリアムが問う。

 小さいノエルはウィリアムの膝にちんまりと収まってしまう。


「二年生からの選択コースのこと?」


 総合教科の座学がほとんどだった一年次と違い、二年生になると、専門分野に特化した授業が開始となる。

 大枠は魔術師と騎士の二コースで、更にその先の専門分野に分かれる。

 ノエルは魔術師コースで光魔法と闇魔法を選択するつもりでいる。


「それもあるが、もっと先だ。自分が何になって、何をして生きていくか」


 考え込んでしまった。

 そこまで先のことを、考えていなかった。


(とりあえず、世界が破滅しないように、自分のシナリオがあるところまでは物語補正をしようと思っていたけど、その先は?)


 シナリオがなくなった先にも、この世界でのノエルの人生は続いていく。


「何も考えていないかも」


 愕然としながら、呟く。

 日々を生きるのにいっぱいいっぱいで、先のことなんて、考えていなかった。


「そうか。俺と同じだな。ちょっと、安心した」


 ウィリアムが小さく笑った。


(俺? ウィルの一人称って私だけど、リラックスしている時は、俺っていうのかな?)


 そんな設定は作っていない。キャラの一人称が変わると紛らわしいからだ。しかし、ウィリアムの性格を考えると、そういう裏設定はありそうだなと思えてしまう。


(虚勢を張って生きてる人だから。彼の生き方は、さぞ疲れることだろう)


 だからこそ格好良いメインヒーロー足り得るのだが、実際に生きている本人にしてみれば、肩の力を抜きたくなる時もあって当然だ。


「ウィルは、なりたいものがないの? 王位を継ぎたくないとか?」


 アイザックが神官を目指した以上、王位継承はウィリアムが濃厚だ。


「自分が王位を継ぐのも、兄上が神官になるのも、別に嫌ではないよ。ただ俺は、何もないなと思ってね。自分の強み、みたいなものがね」

「強み? 魔法でってこと?」

「そう。ノエルなら中和術っていう、誰にもない特技がある。マリアは浄化術を極めているし、兄上は神官を目指してから、清払術が段違いに強まった。ロキは聖騎士団という子供の頃からの夢を追いかけて頑張っているしね」


 確かに、アイザックの司祭としての能力には目を見張るものがあった。呪いに対抗するため魔力量を増やしていたせいか、光魔法の、特に加護の力の伸びが著しい。








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お楽しみいただけましたら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。

お読みいただき、ありがとうございました。        (霞花怜)

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