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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第2章:親密度アップのための甘々イベント『月の言霊』

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7.狂人の半魔 カルマ=ヴィアジェ=ヘルヘイム

 ノエルが腕を出すより先に、カルマの腕が伸びてきた。

 摑まえた腕に無遠慮にかぶり付く。


「いたっ…ぃっ」


 涙目になって腕が震えるるほど痛い。

 牙が肌を抉って内側にめり込む様が見える。傷口から、血が溢れて滴り落ちた。


(採血の針って全然痛くなかったんだ。噛まれるのってこんなに痛いんだ)


 病院の採血とは比べ物にならない痛みに、歯を食い縛った。


「我慢しろよ。そのうち、善くなる」


 ドクン、と心臓が揺さぶられる感覚がした。

 全身をめぐる血が徐々に熱を増して、沸騰したように体が熱くなる。


(なんだ、これ。息が、苦しい)


 苦しいのに、体の奥から、得も言われぬ快楽がふつふつと湧いてくる。

 血を舐めるカルマが、ノエルを見上げてニヤリと笑んだ。


(そうか、傷口から瘴気が流れ込んできているから……)


 吸血する際、魔族は無意識で相手に瘴気を流し込む。

 獲物に幻覚術を掛けて快楽をもたらすことで、楽に捕食するためだ。


(でも、こんなの、想定外だ……)


 体の芯が痺れて、疼く。

 息が上がって、熱が浮いた顔が熱い。

 頭の中に霞が掛かって、思考が鈍る。真っ白に塗られていくような感覚に、恐怖が走る。


「は、はぁ……ぁ、はぁ」


 前に倒れ込んだ体を、カルマが受け止めた。


「気持ちよくなってきただろ。脈が上がってんのは、俺の魔力を流したからだ」


(心臓が馬鹿みたいにうるさい。脈が速くて、苦しい。瘴気だけじゃないから、こんなに辛いのか)


「なんで、そんな……契約、違反……」


 足が震えて、力が入らない。

 座り込んだノエルの背中を、カルマが木に押し付けた。


「魔力を流さないなんて契約は交わしていねェよ。違反じゃァねェ。魔族(オレ)の魔力を流したら、魔石がどんな反応するのか、見てェだろ」


(魔石の反応? 魔石に働きかけているから、血が駆け巡って)


「ぁ……ぅ、ん……は、はぁ」


 言葉を発しようとしても、うまく発音できない。


「お前は今、魔石のせいで魔族寄りの魔力と体質になってんだろ。けど、魔族にはなれねェ。普通の人間でもねェ。魔石をもっと刺激したらどうなるか、見てみたいよなァ」


 声は聞こえるのに、ぼんやりしている頭のせいで、言葉の理解が追い付かない。

 カルマがノエルの襟元に手を掛ける。白いブラウスを引き千切った。

 抵抗しようと伸ばした手は空を彷徨い落ちた。


「知っているか? 核に近い場所から吸う魔術師の血は美味いんだぜ。こっから瘴気と魔力を流し込んだら、お前はどーなるだろうな。腕で、この有様だ。楽しみだな」


 カルマがノエルの胸元に噛み付いた。

 体がビクン、と跳ね上がる。


「いっ……、あ、ぃ、いたぃ……はぁ、ぁっ……ん」

「もう痛くねぇはずだ。むしろ、気持ち善くて、体が疼くだろ。ほら、もっと善くしてやる」


 カルマが強く吸うほど、瘴気が大量に流れ込んでくる。痺れと疼きが増して、体が悶え動く。

 動く左腕で、木枝を探し、自分の太腿を突いた。痛みで何とか覚醒を促そうとするも、それもカルマに奪われた。


「無駄な抵抗っていうんだぜ、そういうの。こんなに蕩けた顔して喘いでるくせに、まだ逃げようと頑張るのは、ひ弱な小動物みてぇでソソルけどな」


 ノエルの顎を掴み上げて、カルマが顔を寄せてくる。視界が涙で潤んで、顔もよく見えない。唇の端を噛まれて、血が流れた。それすらも気持ち善く感じる。

 口端から流れたノエルの血を、カルマが舌を這わせて舐めあげた。


「お前の血は、予想以上に美味いな。俺まで酔いそうだ」


 艶を帯びるカルマの声も、遠くに聞こえる。溢れた涙が流れて、血と混ざり合い、草むらに落ちた。

 体に力が入らない。

 首筋からも血を貪って絡みつくカルマに体を預ける姿勢になる。頭の中が真っ白で、何も考えられない。襲ってくる快楽の波に、飲まれそうになる。


「もっと欲しいか? してくださいって言えたら、もっと善くしてやる」


 首に掛かる息が熱い。

 ノエルの腰に回ったカルマの腕が強く締まって、体が密着する。

 まるで、カルマの方がノエルを欲しがっているみたいだ。


「はな、し、て……」


 力の入らない手で、カルマの体を押し返す。

 あっさりと腕を掴み上げられた。


「へェ、まだ抗うのかァ、強情な女。いいぜ、だったら体中、犯してやるよ。感じてる女から吸う血は美味いんだ。お前なら格別だろうなァ」


 欲情したカルマの目が迫ってくる。唇から流れる血を吸い上げる。吸われるたびに、腹の奥から気持ち善さが込み上げて、下腹部が疼く。

 カルマの手がスカートを捲って、太腿に伸びた。体がビクン、と大きく跳ねる。


 突然、カルマが顔を上げた。

 後ろをじっと見詰めて、気配を探っている。次の瞬間、何かが飛んできた。


「なんだ、もう見付かったのか。これから、だったのになァ」


 ノエルの頬に手を添えて、流れる涙と血をなぞる。


「俺の瘴気と魔力で、お前はどー変わるだろうな。次は、お前に会いに来る。逃がさないぜ、ノエル」


 カルマの姿が、闇に溶けた。

 動けないまま、ノエルはそれを茫然と見送った。

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