表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブに転生した原作者は世界を救って、攻略対象と恋をする⁉  作者: 霞花怜(Ray)
第2章:親密度アップのための甘々イベント『月の言霊』
68/137

5.魔性スズランの花畑

 禍々しい気が澱む道をひたすらに進む。

 瘴気が混ざり、濃くなってきた。浄化結界の内側にいても息が詰まりそうになる。

 時間としては、きっと五分も歩いていない。しかし、酷く遠い道のりに思えた。


(こんなにしんどい工程だなんて、聞いてない。てか、もっと簡単に手に入るはずなのに。この辛い工程を私は全カットしたのか。大変だった、で済ませたのか)


 己のシナリオと、「巻きで」と指示した制作班を呪う。


 しばらくして、視界が明るくなってきた。

 遠くに、ぼんやりと淡い光が浮かび上がる。

 皆の足が徐々に速まる。光を目指して走り出した。

 木々を抜けた先で、開けた場所に出た。

 大きく開いた白いスズランが、辺り一面に咲き広がっていた。


「本当に、あった」


 レイリーがぽつり、と零した。

 脱力したのか、膝を折る。屈んで顔を近づけると、スズランの白が顔に反射した。

 月明かりを受けた魔性スズランは、より白く輝いて、金色の蜜をたっぷりと含む姿は神々しささえ感じる。

 指で揺らすと、蜜がとろりと滴り落ちた。


「良かった……」


 安心して、ノエルは膝から崩れ落ちた。


(ここまで皆を巻き込んでおいて、なかったらどうしようかと思った)


 この花がなければ、多分マリアは目覚めない。設定的にあるだろうとは思っていた。だが、確信がなかった。何せ、シナリオはもっと雑でシンプルだからだ。


(魔性スズランの生態から生息地から御伽噺まで、学院の図書館で調べたんだ。この世界でシナリオ書いているようなもんだ)


 花畑に座り込んだ。

 遠くでアイザックが花の選別をしている。

 どの花を摘むか迷ってるレイリーに、ウィリアムが積んだ花を手渡している姿が見えた。


(皆、ちゃんと自分で選んでね)


 魔性スズランは、ゲームの中では一人一回しか使えないアイテムだ。この世界でのルールがどうかはわからないが、おそらく似たようなものだろう。


(自分で摘んだ花しか使えないからな。私も一輪、摘んでおこう)


 目の前で、蜜をたっぷりと含んだ魔性スズランを手折る。

 傷付かないように保管魔法でくるんで、ポケットにしまった。


「お疲れ、ノエル」


 見上げると、ロキが満面の笑みでノエルに向かって手を差し伸べていた。

 その手を取って立ち上がる。

 辺り一面に咲き誇る魔性スズランの花畑を見渡した。


「綺麗だね。まさか御伽噺に出てくる花を本当に見られるなんて、思っていなかったよ。全部、ノエルのお陰だ」

「皆のお陰だよ。謙遜とかじゃなくて、本当に。私一人じゃ、怖くて絶対、たどり着けなかった」

「それって、俺が手を繋いであげたお陰ってことでも、ある?」

「うん。すごく、心強かった。実は本気で怖かったから」


 こんな時ばかりロキに頼るの自分は狡い、と思う。

 そう思うから、顔を見られない。

 腰に手を回して、ロキがノエルの体を引き寄せた。

 俯いていた顔が上がる。


「じゃぁさ、月の言霊をノエルに使っても、いい?」


 ロキの顔が月明かりに照らされて、妖艶に浮かび上がる。

 

「私は、起きてるよ……」

 

 そんなことを聞いているのではないと、わかっている。

 だが他に、言葉が出てこない。


「眠っているようなものだよ。ノエルの気持ちを起こす蜜を、流し込まないと」


 ロキの顔が近付く。

 ノエルは慌てて、両手を伸ばしロキを止めた。


「待って、待って、皆いるのに」

「いなければ、いいの?」

「そういうことじゃない。ロキ、変だよ。どうしたの?」


 さすがに他人がいる時に、ここまで大胆な行動は、今までしなかった。


「変じゃないよ。俺、わかったんだ。ノエルは本当の気持ちに気付いていないだけだよ。俺が今、気付かせてあげるからね」


 蜜を口に流し込んだロキが、花を捨てる。両手でノエルの顔を包んだ。


「ロキ、離して……ん!」


 押し付けられた唇から蜜が流れ込んでくる。

 顎を上げられて、喉が反射的に嚥下した。


(飲みこんじゃった。え? これって、どうなるの?)


「ほら、これでノエルは俺の……」


 ロキの体が傾いて、ノエルの肩に凭れ掛かった。

 脱力した体が重くて支えきれずに倒れ込んだ。


「……え? ロキ? ロキ!」


 虚ろに目を開てはいるが、返事がない。


(まさか、いつの間に)


 気付いたら、辺りに瘴気が充満していた。

 異変に気がついたウィリアムが駆け寄ってくる。


「レイリー、浄化結界をはって! ロキに浄化術を!」


(ロキは自然属性だから、光属性のウィルたちと違って瘴気の影響を諸に受けていたんだ)


光属性の魔術師は加護のために瘴気に抵抗力がある。ノエルも光属性適応者だ。加えて闇属性特化のため抵抗力は更に高い。

だから、気付くのが遅れた。


(花畑に入る前に感じた瘴気は敵意を隠していなかった。まるで私たちを威嚇するような。でも、今の瘴気は気付かれないよう静かに充満させたような流し方だ)


 人為的な意図を感じる。嫌な予感がした。

 駆け寄ったレイリーが結界を展開し、ロキに浄化魔法をかける。


「俺も手伝おう」


アイザックが重ねて浄化術をかけ始めた。


(二人掛かりでも、マリアの浄化術には及ばない。今ここに、マリアがいてくれたら……。いや、違う、そうじゃない。私がもっと早くに気付くべきだったんだ)


 ロキの様子がおかしいと気付いていたのに、瘴気の可能性を考えなかった。己の至らなさに腹が立つ。


(よく考えたら、私自身も変だった。いつもだったら、ここまでロキに甘えたりしない。ロキの気持ちを知っているのに、応えられないって思っているのに)


 自分も瘴気の影響を受けていたことに、今更気付く。ロキが流し込んでくれた魔性スズランの蜜のせいか、頭がはっきりし始めた。


ノエルはウィリアムを見上げた。


「早く、この場を離れよう。魔獣にしては、瘴気のコントロールが巧すぎる。もしかしたら、近くに魔族が……」


 後ろから、引っ張られる感じがした。

 体が宙に浮いて、森の中に連れ込まれる。


「ノエル!」


 ウィリアムが伸ばした手を掴めずに、空をかく。

 ノエルの体は森の奥の闇へと連れ去られた。







==========================================

お楽しみいただけましたら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。

お読みいただき、ありがとうございました。        (霞花怜)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ