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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第2章:親密度アップのための甘々イベント『月の言霊』

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3.後ろめたいことは内密に

 レイリーが淹れてくれたカモミールティを飲んで、ほっと息を吐く。

 頬はまだ火照っているが、気持ちは落ち着いてきた。


「それで、魔性スズランはどうやって手に入れるんだ?」


 空気を引き戻してくれたのはアイザックだった。


「そうだ、あの花自体、御伽噺の産物だ。図録に掲載されている以上、実在はしているのだろうが、実際に見たことなんてない」


 レイリーがアイザックに続く。

 ノエルは本のページを捲った。


「魔性スズランは、魔国の植生を持つ花で、瘴気が濃い場所に多く咲くと言われているんだ。開花は夜で、月の光を浴びることで言霊の薬効を発揮する」


 テーブルの上に地図を開く。


「この国で最も瘴気が濃い場所は、ここだよ」


 精霊国の北側の森を指さした。


「病院の裏手の森だな。進入禁止区域だ」


 アイザックの言葉にウィリアムが続く。


「この場所が進入禁止区域に指定される理由は、生息する魔獣の数が多いため、更に数が減らないためだ」

「つまり、瘴気も濃い場所ってことだね」


 ロキの言葉にノエルが頷く。


 精霊国の王都が何故、国の中心部ではなく北側に位置しているのか。国の北側は魔国と隣接している。結界が破られれば、真っ先に魔獣や魔族が侵入してくる場所だからだ。進軍と防衛を優先した配置だ。

 その北端に広大に広がっているのが、進入禁止区域である『魔獣の森』である。


「魔獣の森に夜間、入り込むなんて、死にに行くようなものだ。いくら何でも危険すぎる」


 レイリーの心配は尤もだ。しかし、そこで怯んでは先に進めない。


「結界術に長けているレイリーがいれば安全だよ。それに、闇魔術師の私がいれば、魔獣を払えると思う」


 レイリーの光魔法は戦闘向きだが、守備の結界や治癒魔法も得意とする後衛型だ。ノエルの闇魔法で魔獣に近い気を放ちながら結界で守りを固めれば、襲われる危険も減らせる。


「結界術なら私も兄上も多少は使える。魔獣相手なら、何とかなるだろう。戦闘になってもロキがいる。このメンバーなら、無謀ではないと思うよ」


 一番反対すると思っていたウィリアムが賛同してくれた。


「治癒術師がいないのが、ちょっと心許ないかなぁ。レイリーにばかり負担は掛けられないよ」


 ロキの心配は、ノエルも考えていたことだった。


「それなら、心配ない。俺は神官希望だ。卒業後の進路は治癒院の予定だ。マリアほどじゃないが、治癒魔法は得意だ」


 アイザックが手のひらに光を凝集して見せる。

「おお!」と、ロキとノエルが同じ反応をした。

 ロキと顔を見合わせて、思わず目を逸らす。


「こら、そういう顔しない。いつも通りにしててよ、ね?」


 ロキがノエルの頭に、ぽんと手を置く。

 ノエルは素直に頷いた。


(逆にロキに気を遣わせてる。今までなら普通にしていられたのに)


 変に意識してしまう自分が嫌になる。


「兄上は洗礼を受けているから、瘴気や毒系への耐性も強いし、解毒もできる。これで、決まりだね」


 ウィリアムがレイリーに笑いかける。

 諦めたレイリーが肩を落とした。


「他に手がないのなら、仕方がないな」

「レイリーは今、浄化術を練習しているよね? これは、レイリーの訓練にもなるよ」

「剣の後継者としての訓練かい?」


 ウィリアムの問いかけに、ノエルは頷いた。


「浄化結界の効果を試すチャンスになる。瘴気がある場所に行くことって、ほとんどないから、いい機会かなと思うんだ」


 レイリーが最も得意とするのは結界術だ。恐らくこの学院でレイリーより綿密で多彩な結界術を使える生徒はいない。


(レイリーが浄化結界を使えるようになってくれれば、後半の展開が有利になる)


 魔族との対立で、瘴気は避けて通れない。アイザックの神官の術と合わせて考えれば、魔獣の森程度は今の時点でクリアしておきたい所だ。


「そうか、なら、私が尻込むわけにはいかないな」


 レイリーが、やる気のある顔を見せた。


「ユリウス先生には、もう許可をとっているのだろう?」


 レイリーの「当然」と言いたげな質問に、ノエルは顔を背けた。

 全員の表情が固まる。

 レイリーが確かめるようにノエルに問い掛けた。


「まだ、話していないのか? まさか、何も言わずに行くつもりだった、わけではないよな?」

「話したら絶対に付いてくると思うし……。色々、面倒くさいと思うんですよね。反対されたら困りますし」


 虚ろな目で首を傾ける。


「ノエル、敬語。敬語になってるよ。後ろめたさが出ちゃってるから」


 ロキに指摘されて、すん、と宙を眺める。


「最近のノエルが敬語を使う時は、後ろめたい時だな」

「あと、何かを誤魔化したい時と、嘘をついている時だ」


 ウィリアムとアイザックが呆れ顔で付け加える。


(私が王族二人に敬語を止めたの、最近なのに。どうしてわかるんだろう)


 顔に出やすいとは、よく指摘されるが、そんなにわかりやすいのだろうか。と考えると少し凹む。


「いっそ、ユリウス先生に付いてきてもらった方が安全だと思うんだが」


 アイザックはいつも、至極真っ当なことをサクッと言い切る。


(色々理由はあるけど一番は、ユリウスと一緒にいることに、まだ慣れない)


 婚約を申し込まれて、自分の気持ちを自覚してから、ユリウスにどう接していいかわからなくなっている。


(自分がこんなに不器用だったとは、知らなかった。高梨先生、助けてください)


『君は、愛や恋には疎いから』


 今更ながら、あの時の恩師の言葉を痛烈に理解した。


(あれは、私自身のって意味だったんだなぁ。ユリウスにも、きっとそう思われているんだ。高梨先生の記憶を持っている訳だし。魔力を通して感情も伝わっちゃってる訳だし)


 だんまりを決め込むノエルの代わりに、ウィリアムが口を開いた。


「今回はクラブ活動ではなく、個人的な集まりとでも言訳しようか。それだけ嫌がるんだ。ノエルなりに理由があるんだろうからね」


 ウィリアムと視線がかち合う。訳知り顔の笑みが、とても痛い。


(勘付かれたかな。いやいや、さすがにそれは。だとしたら、ウィル、鋭いな)


 ちょっと、モヤっとする。


「ノエルの事情は察するが、ユリウス先生は顧問だ。報告くらいしておかないと、先生が責任を問われる。何より迷惑を掛けてしまうよ」


 レイリーがウィリアムに反論する。


(事情、察してるの? レイリーも気付いてるの? なんで?)


 切ない気持ちで二人を眺める。


「そもそも許可は下りないと思うよ。進入禁止区域に学生が入るなんてさ。話した時点で魔性スズランは手に入らなくなるんじゃないの?」


 ロキの言う通りである。

 進入禁止区域に入るには、管理している教会の許可が必要になる。時間がかかる上、余程の事情がないと許可など下りない。

 以前にウィリアムとノエルの侵入が許されたのは、神官(リヨン)の死が絡んでいたからで、異例中の異例なのだ。


「魔性スズランの薬効が最も高まるのは、満月の夜か。次の満月は、明日だな」


 本の記述に触れて、アイザックが呟く。


「明日を逃せば次のチャンスは一月後、か」


 ウィリアムの言葉に、レイリーが被せる。


「マリアの状態を鑑みれば、教会も許可を出すかもしれない。一月あれば、申請の時間は充分だ」


 確かに正論だ。魔性スズランを摘んで帰るだけなら、それでいい。


「来月になれば、魔獣の森は寒波で踏み入れなくなる。チャンスは、今月しかない」


 魔獣の森には、この国の何処より早く冬が来る。寒波が流れ込めば、魔性スズラン自体が凍り付き、蜜も凍結する。


「凍結した蜜は成分が変化する。人を殺す瘴気の塊に変わってしまう」


 ノエルが本の記述を指さす。

 全員が、息を飲んだ。


「では明日の日没、寮の裏手に集合しよう。くれぐれも見付からないようにね」


 ウィリアムの決定に、誰も反対しなかった。

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