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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章-4 ユグドラシルの大樹

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44.それぞれの向かう先へ

 部屋の扉が開き、ノアが姿を現した。


「なんだ、話し合いか。ちょうど良かった。私からもお前たちに話がある」


 一冊の手記と大判の地図をテーブルの上に乗せる。


「ノア先生、私たち、ローズブレイド領に行こうと思っているんです。ユリウス先生のお父様にお話を伺いに行こうと思っています」


 マリアを見詰めるノアが、一つ、頷いた。


「わかった、行ってこい。ついでに魔剣の在処を聞いてきてくれ」


 あっさりと許可が出た上に、ついでには出来ないような案件を任された。


「魔剣の在処? 魔剣は今、王族の手に無いのか?」


 ウィリアムが焦った様子でユミルに問う。

 ユミルは平然と頷いた。


「実は五十年くらい前から所在不明だ。後継者も選ばれていない」

「平然としている場合か? 魔国の瘴気の異常発生はそのせいじゃないのか?」


 精霊国のフレイヤの剣と同等の扱いをされる魔剣だ。ウィリアムの焦りっぷりの方が正しい。


「恐らく、その通りだ。少なくともノエルは、そう考えていたようだ」

 

 ユミルに迫るウィリアムに対して、ノアが手記を掲げて見せた。


「何故、ローズブレイド侯爵に魔剣の在処を尋ねろと?」


 アイザックの問いかけに、ノアが手記を開いて見せた。


「この手記はノエルの作戦書のようなものらしいんだが、何者かが隠すならローズブレイド領が妥当だと書いてある。だが、《《隠していない》》なら、思い当たる場所は、この三か所だそうだ」


 ノアが指さした先に書かれていたのは、魔国の王室内、ユグドラシルの大樹の周辺、精霊国の王室内、だった。


「何処も有り得そうだな」


 頷くアイザックをウィリアムが慌てて突く。


「精霊国の王室にあったら、大変な事態だ。下手をすれば戦争になる」

「しかし、これまでの話を聞いてしまうと、無い話でもないだろ。我ら王族がすべて正しいなんて妄想は、もう捨てたほうが良い」


 ウィリアムが口を噤んで目を逸らす。

 アイザックの性格を考えると思考を切り替える速さに然程違和感はない。むしろ、ウィリアムの方が受け入れるのに時間がかかるだろう。


「何処にあるか現時点でわからんが、ヒントになる話は聞けるかもしれん。誰かには行ってもらおうと思っていたから、ちょうど良かった」


 大判の地図を指して、ノアがローズブレイド領への道のりをアイザックに説明し始めた。

 その姿はあまりにも淡白で、マリアには冷徹にも映った。


「ノア先生は、ノエルが心配じゃないんですか? 国は助けに動かないんですか」


 本当ならローズブレイド領ではなく、革命軍の砦とやらに今すぐにでも助けに行きたい。竜神なんかにノエルを殺されたくない。

 ノエルもマリアも聖魔術師の一員だ。国が動くには充分な理由だろう。


「今のところ、国が動く予定はない。革命軍は人攫いに成功して静まっている。今のうちに出来ることをやってしまいたい」


 あまりに事務的なノアの反応に頭に血が上った。


「ノエルがどうなろうと、その手記さえ手に入れば良かったんですか!」


 だん、とテーブルに手を突いて、マリアはノアを睨みつけた。


「勘違いするな。この手記など、ノエルの思考の一角に過ぎん。アレの頭の中には手記の倍以上の思考が詰まっている。ここに書かれてある程度のこと、こなしておかないと、帰ってきたときに嫌味の一つも言われかねん」

「帰って、来た時に」


 呟いたマリアをノアが振り返る。


「アレが竜神如きに魂を喰われるタマか。そんな可愛げが備わっている娘なら、既に私が手懐けている。どうせ竜神も味方に付けて帰ってくるだろうよ。今、私がこうやって遠隔でこき使われているようにな」


 ノアが呆れ顔で言い捨てる。

 よく見ると、いつも綺麗な肌が荒れている。目の下に薄らクマがあった。

 レイリーが、ぷっと吹き出した。


「兄様は冗談が上手になりましたね。ノエルがユリウス先生の婚約者でなかったら、兄様が娶れたのに、残念でしたね」

「お前こそ冗談はやめろ。アレを嫁に貰ったら、一生こき使われる」


 げんなりするノアが、どこか可愛く見える。

 マリアも吹き出した。いつの間にか声を出して笑っていた。

 ノアが気まずそうに咳払いした。


「とにかく、ローズブレイド領からなら、難なく魔国に入れる。話を聞いた後、お前たちがどうするか、判断は任せる」


 マリアは息を飲んだ。

 ローズブレイド領に行ったあと、革命軍の砦にいけるかもしれない。

 力強く頷いた。

 ノアが精霊を呼び出した。


「全員、自分の精霊としっかりコンタクトを取っておけ。遠方からの連絡は精霊を介して行う。私の精霊たちとは、繋がりを作ってあるな?」


 マリアとアイザックが手を繋ぐ。

 背中に羽を纏ったつがいの精霊が現れた。

 マリアとアイザックは二人で、この番の精霊と契約している。


『僕たちは大丈夫』

『ユグともスルともウルとも仲良しだからね』

『でも、スーと話せないね』

『どうしてだろう?』


 ソールとマーニが不思議そうな顔をする。

 スーはロキが契約している風の精霊だ。


「革命軍の砦は特殊な結界が張ってあるらしいからな。精霊の気すらも遮断できるんだろう」

「ノア先生、やけに詳しいですね」


 アイザックの何気ない疑問に、ノアがとんでもないことを口走った。


「アーロが潜入捜査で何度も潜っているからな。また行ってもらう予定だ。次は、我々と協定する算段を付けさせる」

「協定? 精霊国と革命軍がか?」


 カルマの渋い質問に、ノアが首を振った。


「いいや、あくまで我々有志の集団とだ。国を挙げての協定となれば向こうも身構えるだろうし、さすがに国王が首を縦に振らんからな」

「革命軍にメリットがないぜ? さすがに難しいだろ」


 ノアが口端を上げた。


「きっと乗ってくる。それだけの材料をアーロに持たせるからな。その為にも、お前たちには動いてもらわねばならんのだ」


 ノアが地図を指さす。ウィリアムを見据えた。


「ユグドラシルの大樹。ここにレイリーを連れて行ってくれ。この樹は今、枯れかけている。レイリーの高揚術なら、再生できるかもしれん」

「魔国側にある、大樹ですね」


 ウィリアムが俯いた。


「国が別れる前は大陸の中央にあった樹だ。この樹が枯れれば精霊国側も異常気象に見舞われるかもしれねェ。お前が行っても、問題ねェと思うぜ」


 カルマがしれっとフォローを入れた。

 ウィリアムとしては、精霊国の王族が魔国側の問題に手を出すことに抵抗があるのだろう。


「お前も一緒に行くんだ、カルマ。お前たち三人は共に行動して術の完成度を高めろ」


 ノアの言葉に、カルマがあからさまに嫌な顔をした。


「いやいや、俺はいーけど、ウィリアムは嫌なんじゃねェの? レイリーの高揚術は既に開花しているんだし、俺が行かなくっても問題ねェだろ」

「ダメだ。魔国の王族として、ユグドラシルの大樹は放置できない。それに、最近、全く会えていない。久しぶりに様子を見てきてくれ」


 ユミルに含みのあるお願いをされて、カルマは言葉を失くした。

 ウィリアムとカルマが目を合わせる。


「お前が行くなら私も行かねばな。レイリーには指一本触れさせない」

「何もしねェよ。面倒くせェ皇子様だなァ」


 ウィリアムに見下ろされて、カルマが息を吐く。


「仲が良さそうだな。ユグドラシルの大樹は任せたぞ」


 ノアに向かい、レイリーが頷いた。


「仲良くないですよ」

「仲良くねェけどな」


 声を合わせる二人をレイリーが笑って眺める。


「きっと二人は仲良くなれるよ」


 レイリーの言葉にウィリアムもカルマも、ぐうの音も出ない様子だ。

 この三人の組み合わせはマリア的には、とても好みだ。どっちがレイリーを射止めるのか、大変気になる。


「全員、行動の過程でメイデンバルク家の情報が入ったら、即座に連絡をくれ」


 ノアの言葉に全員が首を傾げた。


「メイデンバルク家っていえば、聖騎士団団長の家系のアノ、ですか?」

「加えて、曽御婆様の御実家だ」


 ウィリアムとアイザックの手前、言葉にはし辛いが、あまり良い噂は聞かない家だ。人身売買だの禁忌の術式に手を染めているだのの噂が絶えない。

 最近では、一人息子が魔術を使えず頭を悩ませている噂が専らだろうか。


 マリアとウィリアムの言葉にノアが頷いた。


「私が大司教時代から吊り上げたいと思っていた大物だ。今度こそ必ず尻尾を掴んでやる」


 拳を握り意気込むノアの目は燦燦と輝いていた。

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