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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章-3 革命軍の砦

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42.新生革命軍

ノエル(主人公)目線です。

 ユリウスに案内された大広間にはロキとアーロがいた。

 竜神ミツハの復活は眷族なら肌で感じる。

 ノエルと白竜の姿を見た二人が、面食らっているのが分かった。


(そりゃ、そうだろうな。こんな姿の私が現れるとは思ってもいなかったはずだ)


 色んな意味で期待を裏切ったことに、申し訳なさを感じる。


「本当に、ノエル? なんだよね? もしかして桜姫の姿?」


 驚いた顔で歩み寄ってくるロキの目線がいつもより低い。

 そのことに自分が違和感を持ってしまう。


「うん。驚いたよね。ミツハの影響、でね。今だけらしいんだけど」


 ロキは眷族の影響でミツハを通して桜姫の事情も知っているのだろう。


「色々ありがとう、ロキ。眠っている間も、すごく助けてもらった」


 ロキが動き回ってくれたから、革命軍の内情も知れた。外の情報が入ってくるのは、とても安心できたし助かった。


(ごめん、なんて、今更いうのは、きっと自己満足だろうな)


 魔族にしてしまって、ごめん。眷族になんかしてしまって、ごめん。ロキには自由でいてほしかった。なんて、それこそ失礼な発言だろうと思う。


「ノエルの役に立てたなら、良かったよ。それに今のノエルを見て、ちょっと安心した」


 ロキが微笑んでいる。その顔は少しだけ辛さが滲んでいた。


「俺、好きな子できたよ。だからさ、これからも友達でいてよ。もちろん、眷族としても役に立つけどね」


 思わずロキに腕を伸ばしてしまいそうになった。

 肩を抱きたい衝動を、胸に留めた。


「そう、なんだね。ロキには幸せになってほしいから、嬉しいよ」


(けど、ちょっと悲しい。とは、絶対言えない)


 胸に広がったのは安堵とほんの少しの切なさだった。

 こんな時まで、自分はやっぱり狡いと思う。


「姿が変わっても、やっぱりノエルはノエルだね」


 手をギュッと握られて、そのままユリウスに渡される。


「ほら、ちゃんと繋ぎ留めておきなよ。誰かに持っていかれても、俺は助けてあげないよ」


 ユリウスの胸に収まって、肩を抱かれた。


「今のロキになら、手を握るくらいは許してあげるよ」

「その油断は危険だと思うけどね。俺にとってノエルが特別ってことは変わりないんだからさ」


 ユリウスとロキのやり取りは、新鮮だった。


「二人とも、何かあった?」


 ノエルの問いかけに二人が顔を見合わせる。


「同じ眷族になって、ちょっと仲良くなったんだ」

「俺はユリウスに遠慮しなくなっただけ」


 はにかむユリウスと、つんとするロキの表情は、どちらも今まであまり見たことがない表情だった。


「二人とも変わったよなぁ。俺も驚いたよ。今のノエルが一番、驚くけどなぁ」


 アーロが変わらず人のよさそうな顔で笑う。


「私も驚いてる。普通にノエルの姿で戻りたかった。でも、これも作戦に使えるかなって、思ってるんだ」

「作戦か。ノエルがどんな作戦を立てるか、皆楽しみにしているぜ」


 アーロが丸めた紙をノエルに手渡した。


「ノエルの言霊魔法は、ちゃんとノアに届いた。安心して、次の段階に勧め。精霊国との中継ぎなら、俺がしてやる」


 文書の内容は計画の進捗を知らせるものだ。


(これ、ロキが戻ってきたら読んでねってミツハに伝言した文書だな)


 ユグドラシルの大樹とウルズの泉にはレイリーとウィリアム、カルマが向かっている。ローズブレイド領にはユミルとマリアとアイザック、気になる貴族の身辺調査にはノアとシエナが当たってくれている。


(配置も完璧、さすがノア。あの手記だけで、私の意図を汲み取ってくれた)


 ノエルが残した手記は、乙女ゲームのシナリオを思い出して書き留めたものとは別のものだった。

 ユリウスに初めて相談したあの夜以降に、二人で練り直した作戦を認めたものだ。

 簡便に書かれた手記から、これだけ完璧な指揮をしてくれるのだから、やはりノアに頼って良かったと思う。

 シエナとアーロを味方に付けてくれたのも大きい。


「で、これが最新の情報だ。革命軍の人身売買の取引先の情報な」


 メモを眺めて、ノエルは眉間を寄せた。


(メイデンバルク家。やっぱり私が知らない情報だ。それに、リンリーという女の子も知らない。どちらも作っていないキャラだ)


 国王ジャンヌから与えられたミドルネームと同じ名を持つ女性。フレイヤの剣に選ばれながら、それを退け魔国に嫁いだ国母であり、カルマの母親だ。


(多分だけど、奇石に関わる人物や事件に関する部分が、すっぽり抜け落ちている。私が創作していないから? 他に何か理由が……? 理由……)


 どうにも胸に引っかかる。

 他にも、とても大事なことを見落としている気がする。


(精霊国神話、創世の物語。この世界に来てすぐ、私はあの話を読んでいた。なのに何故、気付かなかった? それに、ユリウスに関わる設定だって……。設定……、あれ? 何、だっけ? 何に、疑問を持ったんだっけ? 大事なことのはずなのに)


 疑問の答えが、頭の中から消えた気がした。何に思い至ったかすら、思い出せない。まるで記憶の一部が消しゴムで消された感覚だ。


(何かが、おかしい。でも、何がおかしいのか、わからない)


 考え込んでいると、部屋の扉が開いた。

 入ってきたアジムとムラドが顔色を変える。

 すぐさま、ノエルの前に跪いた。後ろから付いて来たテュールも、二人に習い傅いた。


「竜神ミツハの眷族として、復活を心待ちにしておりました」


 ノエルが肩に乗るミツハを突く。

 心の中で声を掛けた。


『ミツハ、ちゃんと返事してあげないと』

『ん? 違うよ。返事をするのは、ノエルよ。私は眷族にノエルに従うように命じているから』

『え? でも、ずっとミツハを待っていたのに、一言もあげないのは、酷いと思う』

『んー、そっか。じゃぁ』


 白竜が羽を広げて、二人の前に降り立った。


「カリシアの眷族よ。私のために尽力してくれたこと、礼を言う。これからはノエルと共に歩みなさい。私はノエルの同朋として、彼女が作りたい未来を共に歩む」


 アジムとムラドが深く、頭を下げた。


「私は眷族の従属を望まないので、今まで通りに自分の意志を優先してください。ただ、恐らく革命軍とは向かう先が同じだと思うので、協力していただけたらいいなとは思っています」


 ノエルの言葉に、アジムが難しい顔をした。


「ならば眷族として、俺たちを従えればいい。裏切りの懸念もないし、面倒もないだろう」

「血で眷族を縛る行為をミツハは望んでいません。貴方たちに眷族の縛りを放棄させるには回りくどいけど、これしか方法がありません。ミツハが直接切ることは出来ないので。だからこれは、ミツハの意志だと思ってください」


 白竜がノエルの肩に戻る。


「その上で、貴方たち革命軍に協定を申し込みます。私たちと一緒に、反乱軍になってもらえませんか?」


 アジムの顔が引き攣った。

 慌てたアーロがノエルの肩を掴む。


「待て待て、発想が突飛だぜ。一体、どこに対する反乱軍になるつもりだ」

「精霊国と魔国の連合軍に対する反乱軍ですよ。今は精霊国と魔国の王族が協定を結んでいる状況です。つまり、敵がいないんですよ。それだと、都合が悪い。私にとっても、敵を潰したい人たちにとってもね」


 ノエルはニヤリと口端を挙げた。


「なるほど、炙り出しか。元々、革命軍は魔国の王族に対して反旗を翻した体を取っている。今更、反乱を起こしても不思議じゃない」


 テュールが納得したように頷く。


「竜人を拝した革命軍が二国を相手取り宣戦布告したとなれば、この機に乗じて、戦争を仕掛けたい人たちがいるはずです。ごく自然に乗ってきます」

「俺たちの真意は精霊を介して仲間たちに伝わる。ノア先生が国王にも上申してくれる」


 ロキの補足に、ノエルは頷いた。


「だからこその、反乱軍です。思いっきり悪役になり切ってやりましょう」


 ノエルが拳を握る。

 アジムが頭を抱えて笑い出した。


「全く面白いことを考える。この後に及んで、悪役を買って出るか」


 立ち上がったアジムがノエルに手を差し出した。


「良いだろう。ただし、街に被害を出すのはなしだ。ここには、普通に生活を営んでいる奴らが住んでいる。挙兵場所は、移すぞ」

「勿論です。戦において、自国を戦場にしては負けは確定です。場所は吟味して、新たに仮城を築きましょう。一夜城で構いません。宣戦布告は、それからです」


 ノエルはアジムの手を握った。

 かくしてここに、竜神率いる新生革命軍が誕生した。

活動報告に書いた通り、ここまでで、しばらく休載します。

お読みいただき、ありがとうございました。

再開時期は未定です。

面白かったら、『いいね』していただけると嬉しいです。




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