35.意外な来訪者①
ロキ目線です。
革命軍の砦に来てから、気付けば二週間以上が経過していた。
ロキから吸血して以来、ユリウスは幽閉が解かれた。現時点で幽閉の理由がなくなったからだが、繋いでおける枷がなくなったのも実情だった。
ノエルは未だに眠り続けている。正確には、心の中でミツハと楽しく女子トークしている様子だった。
「いい加減、出てきてほしいな」
ぽそりと本音が漏れる。
ミツハから日に何度か流れてくる情報に、少しだけげんなりし始めていた。
ユリウスは一日に一度、ノエルから吸血して少しずつ自分の中の竜人因子を覚醒させている。因子が暴走しないためのアジムからの提案だった。
「ローズブレイドの竜人因子は暴走すれば悪鬼だ。何せ神と神の子孫だからな」
魔国側の竜人領であったカリシア家の当代アジムに言われると、説得力がある。
ユリウス自身も、眠っているノエルから吸血することに抵抗があるらしく、状況は遅々として進まなかった。
「焦ってんのは、俺だけか」
焦る理由も特にないが、精霊国に残っているウィリアム達が気掛かりだった。ノエルたちが魔族に攫われたことは、恐らく国もすでに把握しているだろう。
聖魔術師が国王の指示で魔国に攻め入る理由には充分だ。
(でも、そんな話は聞かない。ってことは、誰かが動いてくれているってことだよな)
クラブメンバーの誰かが指揮を執ってノエルの計画を進行しているのだろう。国が動かない所を見ると、ウィリアムかノア辺りだろうか。
「情報が欲しいなぁ」
ボヤキながら、長い廊下を歩く。
やけに静かだと感じて、気が付いた。
(この辺り、幹部の私室があるあたりだった)
よくムラドの部屋に付き合わされるので、いつの間にか足が向いていたらしい。
「ん? 何だ、これ」
足元に落ちている紙切れを拾い上げる。大雑把に折られたメモには、走り書きが認められていた。
『牡牛5頭 牝牛3頭 / 狼3匹 鬼1匹』
「鬼、一匹……?」
横を見やる。恐らくはテュールの部屋だ。
(吸血した時に見えた記憶から考えると、人身売買の取引メモっぽいな)
精霊国から奴隷を買い付けているのは、間違いなくテュールだ。魔獣のエサであり、自身の吸血用なのだろうと考えていた。
しかし、このメモから考えると、魔国側からも生き物を取引している。
(仮に、牛が人の隠語と考えると。狼が魔獣だとして、鬼ってまさか、魔族のことかな。どうして魔族を精霊国に……? 買う人間がいるってことか?)
「ロキ、ここにいたのか」
後ろから声が掛かって、ロキは咄嗟にメモをポケットに仕舞った。
アジムが手招きしている。
「お前たちに客人だ。早く来い」
「俺たちに? 俺たち、捕虜だよね? 客とか、通していいの?」
隠されている革命軍の砦に会いに来れる者がいること自体が驚きだ。
「会えば、わかる。俺はお前たちを捕虜とは考えていない。ミツハの復活次第だが、協定も出来ると考えている」
アジムの視線がロキのポケットに向いた。
「だから、こそこそ嗅ぎ回らずに、知りたいことは何でも聞け。出来る範囲で答えてやる」
アジムと視線を交える。
ロキは、ニコリと笑んだ。
「わかった。これからは、そうするよ。聞きたいことは沢山、あるからね」
(答えられる範囲で、か)
テュールの人身売買について、アジムはどこまで知っているのか。黙認しているだけなのか。聞くのは、尚早に思えた。
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