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モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない  作者: 霞花怜(Ray)
第3章-3 革命軍の砦

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28.アジムとの交渉

ロキ目線が続きます。

 ロキは砦の城壁の上から、街を眺めていた。

 手前の大通りに並ぶ市では、親子連れや年寄りが買い物をしている。通りを奥に入れば住居がある。洗濯ものを干している女性が見えた。さらに奥に目をやれば、農地が見える。畑の他に、牛や豚を飼う酪農の草原が見えた。

 この場所は、立派に一つの国だった。


 反対側に視線を変えると、まるで別世界の景色が広がる。 

 防御結界の向こう側には瘴気が溢れ、視界まで霞んで遠くが見えない。この場所以外の魔国の住人たちがどうやって暮らしているのか、不思議に思った。


「良い場所だろう。この国の現状が一目でわかる」


 気が付けば、隣にアジムが立っていた。


「気配を消すのが巧いね。自然の獣並みだ」

「俺も竜人の血族だからな。竜だって獣だろ」

「それ、何千年前の話?」


 ロキが笑うと、アジムも小さく笑みを零した。


「この防御結界はアジムの魔術なんだろ。闇魔術でも結界術が使えるなんて、知らなかったよ」

「魔法なんて、元は一つだ。細かく属性を分けたのは精霊国の事情でしかない。この太陽も、時々降る雨も魔法だ。やってんのは別の魔術師だけどな」


 アジムが空を指さす。

 つられて見上げて、目を眇める。眩しさは精霊国で感じる陽の光と同じだった。


「世界を作り上げたような魔法だね。まるで神様がいるみたいだ」

「神様みてぇな力を持った魔術師がここを維持してるんだよ。魔国全土にこれを施すことは出来ないから、この規模だけどな」


 ロキはアジムを振り返った。


「革命軍の本当の目的は、何なんだ? ここはまるで一つの国だ。これだけの力があれば、傾いた王室なんかいくらでも壊せるだろ。今更、竜神ミツハを復活させて、アジムは何がしたい?」

 

 アジムが街中を眺めながら答えた。


「魔国全土をここみてぇに住める場所にしたい。その為には、魔国に異常発生している瘴気をどうにかしなければならん。その活動拠点が革命軍だ」


 ロキは押し黙った。

 聞いていた話と違う。革命軍は人喰を肯定する保守派で人喰を禁ずる王室と対立していたはずだ。

 言葉を選んで、ロキは切り出した。


「アジムは、魔族の人喰について、どう考えてる?」


 横目にロキを眺めたアジムが、無音結界を張った。


「脳筋かと思っていたが、案外考えてんだな。精霊国でも魔国でも、革命軍は人喰を謳う狂人軍団てことになってんだろ。俺たちは、そんなスローガン、一度も掲げていねぇけどな」


 ロキは顔を顰めた。


「要は俺たちを悪者にしときてぇ奴らがいるってことだ。やりてぇようにやらせとくさ」

「泳がせてるってことだろ。その、悪者にしときたい奴が革命軍の中にもいるってことだ」


 だからこそ、アジムは無音結界を張った。この会話を聞かせたくない者が内部にいるからだ。


「見てわかる通り、ここには戦えねぇ奴らの方が多い。軍隊を作っている訳じゃぁねぇからな。戦闘場所にはしたくない。外部にどう思われていようが、目的が果たせれば、それでいい。吊るし上げる気もねぇよ」


 アジムの言葉に抑揚はない。けれど、どこか煮え切らない。


「ノエルなら、何か思いつくかもしれないけどな」

「ノエルが? どうして?」


 珍しくアジムがロキの呟きに食いついた。


「ノエルは初めから魔国や革命軍の現状をある程度把握していた。その上で詳細を知りたがっていたんだ。何か思い当たることがあったのかもしれない」


 ユミルを護りカルマを取り戻すと言い出した時、ノエルから大雑把な最終目的は聞いている。ロキにも心当たりはあった。


「あの小娘、何者だ? 魔国の情報は精霊国の国民には基本、伏せられているはずだ」

「そうだね。俺も魔国がこんなに荒れてるなんて、知らなかった。もっと言うと、魔族は人を喰う化物だと思ってた。こんな風に話が通じるなんて思いもしなかったよ。ノエルや精霊たちの話を聞くまでは」


 精霊国では基本、魔国や魔族を恐ろしい存在として教育する。指導の指揮は教会が取っており、疑う者もない。

 ロキが自分の常識を疑うことができたのも、『呪い』の一件で教会の暗部を知ったからだ。そうでなければ、きっと今、この場でも幼少から叩き込まれた常識の方を信じていたに違いなかった。


「ノエルにとっては人も魔族も同じ人間なんだってさ。結界なんかなくして、一つの国に戻ったらいいって、本気で思っているんだよ」


 アジムが絶句している。それを見て、ロキは苦笑した。


「荒唐無稽な話だ。神でも成し得ない、夢物語だろう」

「そう思うよね。でも、ノエルは本気だよ。夢や目標なんかじゃない。ノエルにとってはそれがゴールなんだ。決めたからには辿り着くまで走り続ける」


 今までが、そうだったように。

 覆せない常識だった教会を壊し、国を動かしたように、きっとまた、やり遂げてしまうのだろう。

 そう思わせる何かが、ノエルにはある。


「あれは、奇石に選ばれた依代だ。竜神が復活すれば消えてなくなる。ゴールには辿り着けない。ミツハの眷族に選ばれたお前なら、わかるだろう」

「それなんだけどさ、どっちも生かせるって言ったら、アジムは協力してくれる?」

「何?」


 滅多に表情が変わらないアジムの目が見開いた。

 ロキは街に目を落とした。


「ここには、人間が住んでいるよね。恐らく元は精霊国の住人だ。もしかしたら食料か奴隷として流れてきた人を保護しているんじゃないの?」


 アジムが口を噤んだ。

 その行為は肯定と取っていい。だとすれば、ノエルの推論が信憑性を帯びてくる。


「ここに住まわせておくくらいだ、アジムにも思うところがあるんだよね。ノエルを生かせば、その憂いを払えるかもしれないよ」

「どういう意味だ。お前たちは、どこまで知っている」

「さぁ? 俺は詳しく知らない。ノエルなら、もっと詰めた話も出来るだろうし、作戦も立てられると思うけどね」


 笑いかけると、アジムが閉口していた。


「本当に何者だ、あの娘は」

「この世界を救う英雄。ユリウス先生は、ある人にノエルをそう紹介されたらしいよ」

「英雄……」


 呟いたアジムが、小さく笑みを零した。


「英雄を見殺しには出来ないか。いいだろう、協力してやる。何をすればいい?」

「実は色々あるけど一番は、ユリウスを俺に委ねてほしい。あの人はノエルにもミツハにも必要だ。手出しはしないでくれ」

「いいだろう。他の話は、書斎で詰めるか」

「よろしく頼むよ」


 ロキが差し出した手をアジムが握った。


「魔術も剣技も達者で頭も回るとは、なかなかの人材だ。革命軍に欲しいな」

「全部ノエルの受け売りだけどね。革命軍に加わるかは、神様のお導き次第かな」


 ロキは空を見上げた。

 本物と遜色ない偽物の空の青が、酷く眩しく見えた。


読んでいただき、ありがとうございます。

面白かったら、『いいね』していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。




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