魔王コスモス様は、麗しの勇者様と添い遂げたい。
「魔王様、勇者一行が終焉の間に」
「通せ」
我が生誕より幾千年。我は男の経験がない。
魔界随一の美貌と謳われ、そこに傅く夢魔さえも凌駕すると言うのに。
「いよいよですね」
「夢魔。勝負下着とやらは身につけたぞ?」
「よくお似合いです。魔王様」
──勝負下着。女戦士のビキニアーマーとやらに近い。
我に跪く夢魔さえも感涙しておる。
この日をどれだけ待ちわびたか。
猛者は、魔族にも人間にも居るが、我が魔力を目の前にしては立ち所に萎える。
が、勇者は違った。
あの立ち振る舞い。我を見つめる流麗なる視線。美しき鼻筋と唇。くっ……。想い出しただけで身震いする。
「早く会いたい……」
「魔王様?」
「な、何も言っておらぬ!」
──恋。悔しいが、負けたのじゃ。が、勇者が彼氏になってくれたなら。
人は喰わぬと約束する。そして、純白の婚礼衣装に身を包むのじゃ。
「お、お付き合いしたい」
「魔王様! 下着の肩紐が!」
「ぬっ! さ、サイズ感。せ、背伸びし過ぎたかの……」
☆
「こ、魔王様! 四天王が手違いで勢い余って勇者様を!」
「な?! バカどもめっ! ゆ、勇者様は!?」
「ひ、瀕死の重傷を……」
「ぐっ!」
(──バタン!!)
我は──。夢魔の言葉に、扉を蹴破り走っていた。
生まれて初めて、自分以外の誰かのために。
下着とやらがズレてるが、気にしてる場合ではない。
「どけぇーっ!!」
「こ、魔王様?!!」
狼狽していたのは四天王だけでない。我もだ。
(ガバッ!!)
「ゆ、勇者様っ!!」
「め、女神……様? ぼ、僕は、もう……」
「えぇぃっ!! しっかりするのじゃ!!」
この世に魔法はあれど、蘇生する呪文は無い。
が、命そのものに魔力を吹きこめばあるいは──。
「美しい瞳。優しさに満ち溢れている。僕は幸せ者だ。けど、世界は──みんな、ごめん」
「分かった。争いは終わりにしようぞ。が、そなたの命は終わらせぬ」
だが。く、接吻……。
う、生まれて初めてだ。お、想い人の勇者様と──なんて。
「ふ、うっ……。き、キス……。す、するぞ?」
「ぼ、僕は、助からな……」
「言うな。我が助ける」
そーっと。そーっと。唇を……。
うぐっ! ち、近い……。
い、いや。もはや、一刻の猶予も許されぬっ!
はぅぁっ!!? ハァハァ……。
ふぅっ! うぐっ!! な、何という柔らかみ!!
こ、これが、あ、あの、ゆ、勇者様の唇──あぁ……。と、溶けてゆく……。
世界など、どうでも良いと思った。
この、勇者様との接吻を──。永遠に。永遠に……。