6.社畜OL、ご意見番から解決策をもらう
「それではこれより、原告の訴えを打開するための解決策を考えていくものとする。
何か意見のある者はおらぬか」
”主が社畜だと、昔みたいに小説書く時間取りづらいよな・・・”
”でも書かないとカリナちゃんたち助けられなくね?”
”助けるためには続き書かないと・・・”
“ニートのワイが代わりに書いてあげたい“
“草“
“俺らでリレー小説でもするか“
“主にワイの有り余ってる時間をあげたい“
“主、転職しよう“
“まだ若いし、身体壊す前にホワイト企業へ“
”お願い主!!! カリナちゃんたちのために続き書いて!!!”
”主が書いたとおりの展開になるなら、簡単に書いてもその通りになるんじゃね?”
”別にそんな難しく考えなくてもさ”
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バンッ! とえんま大王が笏で台を叩き、そのまま自分の真上に突き上げる。
すると突然えんま大王の後ろで流れていたコメントの一部が切り抜かれ、
大きくなって私の目の前に現れた。
そしてそのままグルグルと私の身体の周りを回り始める。
「え!?」
”主が書いたとおりの展開になるなら、簡単に書いてもその通りになるんじゃね?”
”別にそんな難しく考えなくてもさ”
「切り抜かれしコメントよ、ご意見番としてお主の意見を申してみよ」
えんま大王がそう言うと、回っていた文字たちが私の身体から離れ、
そしてまた私の目の前に大きな文字の状態で現れた。
”今日のご意見番に選んでいただき光栄です!”
”主の書いたとおりの展開になるなら、小説みたいに文字数多く書かなくても”
”『カリナたちはマチを引き留めることに成功した』”
”『その後みんなで力を合わせて敵を倒し、ミンジュ国に平和が訪れました』”
”『平和が訪れたミンジュ国で、カリナたちはいつまでも仲良く暮らしましたとさ』”
”って感じで簡単にまとめるだけでもいいのではないでしょうか?”
「ふむ・・・」
“これなら主もすぐに書くことが出来るでしょうし、カリナちゃんたちのことも救えるはずです“
確かにそれくらいの文字数でいいなら、社畜の私でも書く時間を取ることが出来る。
でも、本当にそんな簡単にまとめるだけでカリナたちを救うことが出来るんだろうか・・・
不安げな私をよそに、えんま大王は笏で手を打ち、大声で叫んだ。
「よし! お主の意見を採用する!!! 後ほど褒美をやろう!!!」
“ありがたき幸せ!!!!“
先ほどまで私の目の前にあったコメントの文字が、ゆっくりと動きを止め、そのままスッと消える。
「被告人・美園まち。お前はこれから自分の世界に戻り、真っ先にこいつらの物語を簡潔にまとめるのだ。そうすれば、こいつらの世界に平和が訪れ、また仲間を失うこともないであろう」
「・・・」
「何か言いたげな面をしているな。申してみよ」
「・・・一応私の頭の中では、続編もそれなりに長編です。それをコメントの言うように簡潔に書いただけで、本当にカリナやユウリたちを救うことができるのでしょうか」
確か途中にしていた段階でも、第6章くらいまで書いていたはずだ。
それでもまだまだユウリが大怪我するところまで達しておらず、マチもまだ王宮から去ろうとはしていない。
いくら私が作った物語だからといって、そんな簡単にまとめただけで本当に話が完結するんだろうか・・・。
「私を誰だと思っておる? 我こそは“黒歴史界の王“、えんま大王であるぞ。私は行き場を失った多くの黒歴史を救済するために存在しておるのだ! お前が心配せぬとも、私はこいつらをしっかりと救済してやる。だが、そのためにはこいつらの妄想主であるお前が物語を簡潔させる必要があるのだ。お前が完結させたら、後は私がどうとでもしてやる。任せろ」
弱気な私とは裏腹に、えんま大王は自信ありげな表情でそう言い切る。
えんま大王にそう言われると、なんだか本当になんとかなりそうな気がするから不思議だ。
「なんとかなりそうな気がするんじゃない、必ずなんとかなるのだ」
・・・とうとう私の心の中まで読まれた。
「心の中を読もうとしなくても、お前は大体顔に出るからわかりやすい。さて、解決策も出たことだしそろそろお前を元の世界に戻すつもりだが、最後に何か言っておきたいことはあるか?」
「じゃあカリナとユウリに1つだけ。私は小説の束を確かにシュレッダーにかけようとした。でもそれは誰かに見られたくなかっただけで、『カリンバルものがたり』の存在をなかったことにしようとしたつもりはない。『カリンバルものがたり』は私の妄想の原点だし、あなたたちがいなかったらその後の妄想や他の物語だって生まれることはなかった。私にとってあなたたちは大事な存在だから、それだけは信じてほしい・・・」
私はカリナとユウリを見つめる。
「大丈夫です、信じてますよ。まちさんは私たちの存在にすぐに気づいてくれた。私たちの物語を書かなくなってから、もう何年も経っているはずなのに・・・」
「それに、1度物語を完結させたのに続編まで考えてくれてたってことは、それだけ俺たちのことを好きでいてくれたんだろう。お前がいてくれたから、俺たちはこうやって仲間と出会うことができたんだ。そこは素直に感謝する」
「まちさん、私たちの物語を作ってくれてありがとう」
「カリナ・・・ユウリ・・・」
思いがけずうれしい言葉をもらい、私は泣きそうになった。
そうだ、この子たちは本当にいい子なんだ。
人との繋がりや感謝を大切にできるとってもいい子。
そんな子たちだったから、私は『カリンバルものがたり』を長編で書くほど好きになったんだ。
「2人とも、信じてくれてありがとう・・・絶対に物語完結させるから、待っててね」
私が真剣にそう言うと、カリナとユウリはしっかりとうなづいてくれた。
その様子を見ていたえんま大王が、思いっきり笏で台を叩いた。
そしてそのまま笏を頭上に突き上げると、私の周りが眩しい光で包まれ始める。
「原告、カリナ・フォーリュおよびユウリ・ロビスタ!
次に目を覚ました時には、お前らの国に平和が訪れているであろう!
お前らの物語、救済致す!!!」
――――その言葉が聞こえてきたのを最後に、私の意識はふっと途絶えた
◇◆◇
「・・・ん?」
気がつくと、私は自分の部屋のベッドの上にいた。
「・・・さっきまでのは夢?」
そう思いおでこに手を乗せると、なんだかカサッとした手触りが。
取ってみると、「有罪!」と書かれた白い紙だった。
「・・・うん、夢じゃなかったわ」
夢じゃないのなら、私が今からやることは1つ。
自分が作り出したあの子達をしっかり救ってあげなきゃ。
――――私はベッドから起き上がり、パソコンの電源を立ち上げた。
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