3.社畜OL、配信上で黒歴史を掘り返される
【えんま大王が配信を開始しました】
<コメント欄>
”お、始まった”
”こんちゃー”
”待ってたぞー”
”さて、今日はどんな黒歴史を拝めるかな”
”初見”
”初見です~”
”掲示板で噂になってたので見に来ました”
”黒歴史界の王ってなんぞ?”
”今日の妄想主はどんなやつ?”
・
・
・
・
配信を開始すると、次々とコメント欄が流れていく。
「なぁ、あんた本当に俺たちを助けてくれるんだよな?」
「さぁな? お前らが助かるかどうかは、全部妄想主次第だ」
◇◆◇
「・・・は?」
ふと気がつくと、そこは私の部屋じゃなかった。
「なにこれ・・・証言台?」
なんだか白すぎて殺風景な場所だ・・・
いつの間にか私は証言台なるものの上に立たされている。
「ここは人間界と黒歴史界の狭間の空間にあたる。被告人、今からお前に有罪判決を下す」
「は?」
声が聞こえてきた方向に顔を向けると、さっきまでいなかったはずの少年がいた。
少年だけじゃない。殺風景で証言台だけがある部屋だと思っていたが、いつの間にか裁判所のような場所に風景が変わっている。
そして私に声をかけてきた少年・・・。なんだあの恰好?
少年の見た目は10代後半ほど。なんだか閻魔大王を思わせるような恰好をしてるんだけど、今の若い子たちの間ではあんな感じのコスプレが流行っているのだろうか?
ハロウィンにしては時季外れだ。今はまだ8月の夏真っ盛りだもの。
他に気になるのは、少年が座っている王座の後ろにあるもの。
少年の後ろでは文字が流れていて・・・なにあれコメント欄?
”おー! 被告人の登場だ!”
”おら、ワクワクすっぞ!”
”この女が今日の妄想主?”
”はやくはやく!”
”今日はどんな面白いもの見せてくれるんだ?”
”えんま大王様ー! 今日も麗しゅうございますね!”
”好きですえんま様ー!!”
・
・
・
・
被告人? 妄想主? あの文字たちは一体なにを言ってるんだ?
「被告人・美園まち、お前は凶悪な妄想主として様々な世界の者たちを苦しめている。その自覚はあるか?」
「いえ、まったくないです」
いきなり何言ってんだ? この少年。
「お前のような凶悪な妄想主は、みな一切自覚がないのだ。
私は”えんま大王”。お前ら凶悪な妄想主を裁くために生まれた”黒歴史界”の王だ」
「・・・頭大丈夫ですか?」
この子はいわゆる”痛い子”なのだろうか・・・?
なんだ、黒歴史界の王って。痛々しいにも程があるだろ。
「こちらとしてはお前の頭の方が心配なんだがな」
「うーん、この少年なかなか辛辣」
初対面のくせに思いっきり刺してくる子やな。
「被告人・美園まち、お前が過去に作った黒歴史たちが今どうなっているのか、お前は知っているのか?」
「く、黒歴史・・・?」
「そうだ。お前が次々と生み出した、妄想の産物たちのことだ」
なんだか嫌な予感がする・・・。
すると少年は手帳を開き、早口でその中身を音読し始めた。
「美園まち、28歳。就職のために地方から都会に出てきた社会人。初めて作ったオリジナル小説の題名は『カリンバルものがたり』。クラスメイトと自分自身をモデルにしたキャラクターを登場させた王道ファンタジーものである。自分がとある国のお姫様であることを知らずに生まれ育った主人公のカリナ・フォーリュが、ある日自分を迎えにきた少年と共に冒険しながら自分の国を目指し、その旅の過程で魔法使いとしても成長していくといった内容となっている。また、旅の途中で出会う召喚魔法つよつよのクール系少女のモデルを自分自身とし、物語を担う3人目の人物として物語を書き綴っており・・・」
「うわああああああああああああああああ!!!!」
少年の言葉を私は叫び声で遮った。
なんでなんでなんで!? なんで私が書いた小説の内容を知ってるの!?
しかも自分自身を魔法つよっつよの最強モデルにしてたことまで知ってるなんて・・・
”おぅふ、これはなかなか・・・”
”俺の心にもクリティカルヒットした・・・”
”マジもんの黒歴史で草”
”いや、わかる。気持ちはわかるよ・・・”
”誰だって自分のことを強キャラにしたくなる時期はあるさ・・・”
”魔法使いっていうのがまたね・・・”
”これで涙ふきなよ・・・”
「自身のモデルの名前はマチ・ミソノ。実は主人公の国の生まれであったため魔法もつよつよの最強少女であったが、主人公が生まれた時期に国が盗賊に襲われ、自身も家族と国外へ避難したものの、数年後に家族と死別し孤児となる。その後は同じく孤児の少女2人を魔法で助けだしたことからその少女たちと縁ができ、行動を共にするようになる。主人公と出会うまでは森の番人として森の生き物たちを守っていた・・・。主人公と行動を共にした後は主人公の隠された能力に気づき、その能力を引き出すために陰ながら・・・・・・」
「もうやめてえええええええええええええええええ!!!」
”自分の名前そのまま使ってて草”
”まぁ自分がモデルだからそうなるよね”
”自分の設定、良いとこどりの要素モリッモリじゃねぇか”
”ありきたりな内容すぎないか?”
”痛い・・・心も耳も痛い・・・”
”おかしいな、俺まで涙出てきたよ・・・”
”もうやめてあげて!! その子のライフはゼロよ!!”
”ここまで言われると、その物語に興味でてきた”
”わかるw ちょっと読んでみたいw”
.
.
.
.
コメント欄の動きもますます加速する。
その内容が私の目にも入ることで、私の心のダメージゲージも半分以上を超えていく。
「どうだ? ここまで言ってもまだ黒歴史を生み出してきた自覚はないか?」
「すみませんすみませんすみませんでした。もう勘弁してください」
「まだだ。私にはお前を裁く義務があるのだ。こいつらに見覚えはないか?」
「え・・・?」
――――目を向けた先には、私が作りあげた『カリンバルものがたり』の主人公たちがいた
カリンバルものがたり・・・
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
良ければブックマーク、評価等よろしくお願い致します。
励みになります。




