やぎのぬいぐるみ
エミリーはやぎのぬいぐるみ。柔らかい白の生地。中身は綿が沢山入っている。
フランス人形のお店の棚、一番下の片隅にキレイな人形達に埋もれる様に置かれていた。
フランス人形は色とりどりのドレスや可愛らしい洋服を着ているが、エミリーは何も着ていない。
それでもエミリーは柔らかな表情で他の人形達と同じ様に座っている。
時々フランス人形の一人から揶揄わられけど、エミリーは平気だった。
ふわふわの綿が沢山詰め込まれていて、可愛らしいやぎのエミリー。
友達も沢山いる。毎夜店が閉まると人形達が一斉に話し出す。
勿論人間は居ない。
「ああ、今日も私ここに残ってしまったわ」
やや頬がくすんでしまったフランス人形のジェシカが呟いた。
ジェシカは長い間人形のお店に居る。キリリとした顔立ち、華やかなドレスを身に纏っているけれど、中々買い手がつかない。
けれど優しく皆を気遣う、お姉さん的な存在。
勿論エミリーにも優しく話しかける。
「ジェシカはキレイなのに。それにステキなドレスも着ているし、大丈夫よ」
「ありがとう。エミリー…。 だけどこの間うちに来たばかりのあの子はもううちには居ないわ。 新しいお家に行ってしまった…」
ため息をつくジェシカにエミリーは口を閉ざしてしまった。
エミリーとていつまで此処に居られるか分からない。
そもそも自分はやぎ。人間みたいな顔すらしていない、動物のやぎ。
店主の趣味で置かれただけで、そもそも売り物ですらない。
「……ジェシカはステキよ。きっと…」
それ以上言葉が出てこなかった。
口にさえしたくなかった。ここのみんなは、いずれ新しい家に行くだろう。
最後に残るのは自分…。
新しい人形がやって来ても、結局はやぎ。フランス人形だったら。いや、せめてこの店ではなかったら…。
エミリーはいつもそんな事を考えては、一番下の棚から店をぐるりと見渡した。




