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僕が仮面を取ったとき  作者: ご飯おかわり。
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第1話

時刻はもうすぐ19時を回ろうとしていた。クーラーが効いた部屋にずっといたから気づかなかったのだろう。こんな時間だというのに外は驚くほど暑かった。夏だなぁ、なんて間抜けなことを考えていたら、スマホの通知音が鳴った。


”明美”

”何時に帰ってくるの?”


定時で帰ると言っていたのに、連絡もできないままこんな時間になってしまったのだから、きっとご立腹だろう。すねた顔をして待ってるのだろうと思いながら、謝罪のメッセージを打つ。



家に着いた頃には、20時近くなっていた。謝罪のメッセージを送った後、既読はついたものの返信はなかった。怒られる覚悟を決めて、恐る恐る玄関を開ける。


「ただいま」


自分でもびっくりするほど小さく弱弱しい声が出る。玄関が開く音でか、はたまた覇気のない「ただいま」でなのか、僕が帰ったと分かると、明らかに怒っている様子でこちらに向かってくる姿があった。


「言い訳は?」


仁王立ちで冷ややかな視線を向けられると、言おうと思っていた言葉も全部引っ込んでしまいそうだ。


「まずは定時に帰れなくてごめん。それと、連絡できなかったことも。急遽PCトラブルの対応に追われちゃって……」


「仕事だからしょうがないってわかるけどさ……」


怒った顔から急にしょげた顔に変わると、今にも泣きだしそうな感じで肩を落とすのが分かった。


「ごめん」


抱きしめた体がいつもより小さく感じた。


「今日何の日かちゃんと覚えてるよね……?」


「付き合って9年の記念日」


「今日は特別な日じゃないの……?」


「特別な日に決まってる」


「もう……、作ったご飯冷めちゃったよ……」


「冷めてもおいしいから大丈夫だよ」


「そういう問題じゃない!」


パコっと僕の胸を叩いて、すねた子供みたいに唇を尖らせる。


「ごめんって……ほら、ごはん食べよ?デザートに明美の好きなお店のフルーツタルト買って帰ったからさ」


「そんなので機嫌とろうとしても駄目だからね」


そう言いつつも声色は少し明るかった。


「ごはん温めなおすから、先にお風呂入っちゃいなよ」


「うん、ありがとう」


明美はすねているような笑っているような、むずがゆそうな顔をしてリビングに向かった。



風呂からあがると、テーブルの上に並んだご馳走に食欲がそそられる。テーブルの中心には、メインディッシュであるからあげが堂々たる風貌で鎮座している。どう見ても2人暮らしにしては多すぎるけど、僕の好物だからって張り切って作ってくれたんだろうと思うといとしさがこみあげてきた。


「からあげ、作ってくれたんだ」


「ちょっと作り過ぎちゃった」


「こんなのペロッと食べられちゃうよ」


「小食のくせに」


明美は、憎まれ口をたたきながらも嬉しそうに口角をあげた。


席についてご飯を食べ始めるころには、21時になろうとしていたが、久しぶりに2人でゆっくり食卓を囲むことができると思うとなんだか心が弾んだ。


「予定よりだいぶ遅れちゃったけど、今年も明美と記念日を祝えてうれしいです。これからもよろしくお願いします」


「「乾杯」」


今日のために買った少し高めのワインで乾杯すると、明美は何か言いたげにこちらを見つめた。僕はからあげを頬張りながら、尋ねる。


「どうひは?」


「んー?もう付き合って9年経ったんだなって思うとしみじみしちゃってさ」


「もうそんなに経つんだもんなぁ」


「こんなに経っても、全然変わんないのが面白いよね」


からかうように笑う明美を見て、出会った当時を思い出す。

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