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なろうラジオ大賞3

交差点で踊るおばあちゃん

掲載日:2021/12/21

「昔は毎年、ここで盆踊りをしたのよ」


 祖母が言う。


 病院へ彼女を連れて行く道の途中。

 今はもうすっかりさびれてしまった商店街。

 その中心地の交差点。


 信号待ちをしている時に、ぽつりとそんなこと言うものだから、ついつい質問をしてしまった。


「へぇ、どんな風だったの?」


 気軽に聞いただけなのだが、祖母は留め具が外れたように話し始める。

 普段はソファに座ってテレビばかり見ている彼女が、生き生きと話すのは珍しい。


 当時の様子を聞いた私は、ああ……昔の人はお祭りが大好きだったんだなと思った。

 ただそれだけの出来事だったのだが……。




「え? お誕生日のイベント?」


 祖母が通っているデイサービスから電話が来て、祖母のお誕生日のお祝いにイベントを開きたいというのだ。

 私はなんとなく盆踊りのことを思い出す。


 そして、昔こんなことがあったみたいですと伝えた。


「そうですか、分かりました。ありがとうございます」


 電話口の職員が通話を終わらせようとしたその瞬間――


「交差点! 交差点じゃないとダメなんです!」

「え? 交差点?」


 何故だか分からないけど、どうしても伝えないといけないと思った。


「わっ……分かりました。検討してみます」


 通話の相手は若干引き気味。

 これはやってしまったなと思ったのだが……。




 当日。

 祖母のお祝いのイベントに招待された。


 広いホールには、あの交差点の風景が再現されていた。

 大きな用紙に写真を印刷してダンボールに貼りつけ、当時の建物を再現。

 もちろん、中央には手作りのやぐら。

 それを見て父と母、そして私は何度も礼を言って頭を下げた。


 BGMが流される。

 お年寄りたちは職員と一緒に輪になって踊り始めた。


 いつも自宅でぐったりと過ごしていた祖母は、昔の元気を取り戻したかのように生き生きと踊っている。

 手の動き、ステップの踏み込み、全てが洗練されていた。

 あまりにキレイに踊るので思わず見入ってしまう。


 しばらく踊り続けたお年寄りは、疲れ果てて席に着く。

 祖母はやり切った顔で私に向かってVサインをした。


「おばあちゃん、カッコよかったよ」


 私がそう言うと祖母は「でしょう」と言って歯のない口でイーっと笑う。




 その数年後に祖母は亡くなった。

 安らかに息を引き取る、穏やかな最期だった。


 あの交差点を通りかかると、祖母のことを思い出す。

 そして見たこともない盆踊りの風景に思いをはせるのだ。


 できれば一度、自分の目で見たかった。

 交差点で踊る祖母の姿を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元介護福祉士です。 これはまさに「回想法」の1つですね。 お祖母様、嬉しかっただろうなぁ、、 じわっと来ました。素敵な物語をありがとうございました。
[良い点] 認知症(アルツハイマー)でホームに入り、五年ほど前に亡くなった私の祖母を思い出しました。 私がとても小さい頃、祖母の家にお盆休みで遊びにいくと、近所の自動車教習所の敷地に櫓を立てて盆踊り…
[一言] おばあちゃんたちはいくつになっても、踊りを覚えていました。手が勝手に動くような。 楽しかった記憶が体に残っていて、動いてしまうのでしょうね。(*´ー`*) おばあちゃんが亡くなった後も残るエ…
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