クリスマスパーティ
ーこれまでのあらすじー
竜二はある日通勤電車の中で偶然に赤い帽子の女を見かける。
マスクを外した女の顔を見た竜二はあまりの美しさに一目惚れしてしまう。
しかし同時にその顔はどこかで見たことがある顔だと思った。
デジャブのように・・・
そして同じ日の夜、また竜二はその赤い帽子の女を見つける。
竜二の前に何度も現れる赤い帽子の女・・・
この女はいったい誰?
クリスマスパーティでついに竜二は謎の女の正体を知る。
最近、宙に浮き気味だった竜二が今日はさらに地面から高く宙に浮いている。
あの赤い帽子の女がなぜこのお店にいるのか。
いくら考えてもわからない。
しかし今日はあの赤い帽子は被ってない。
赤いミニのサンタ姿だ。
赤い帽子の代わりにトナカイの角がついている。
帽子をとると長い黒髪がサラサラとなびいてきれいだった。
女はこのお店に勤めているのか?
とりあえず女の案内に従って席に着くことにした。
竜二が案内された席はカウンターの席だった。
パーティに一人で来ているやつはいない。
だからカウンター席に座っているのは竜二だけである。
店内はバーと言うには広々としていて、なんとビルの地階から3階までフロアがあるらしい。
落ち着いてよくよく見るとなかなかオーセンティックなバーである。
竜二がいつも通っているビアバーとはちょっと比較にならない。
パーティに来ているゲストも割と年齢が高めだ。
そりゃそうだろうな。
あのおばさんがくれたチケットだから。
一通り店内を観察し終えた竜二はカウンターの中にいる例の女を見た。
女も竜二を見ている。
『やっぱりこの女は俺のことを知っている』
女の視線だけで竜二はそう確信した。
そして竜二は女に話しかけた。
『俺たちどこかで会ったっけ?』
すると女が口を開いた。
『私はずいぶん前からあなたを知っているわ。
でも会ったのは今日で2度目。1度目は3ヶ月前の電車の中よ。』
やっぱり!
あのとき女は俺を見ていたんだ。
『なんで俺のことを知っているの?』
と竜二が聞く。
すると女の答えは意外なものだった。
『あなたが私の会社に営業に来てるからよ。
いわゆる取引先?仕事で話したことはないけど、オフィスでいつも見かけるからそれで知っていたの。』
『あ、そうなんだ!』
そういうことだったのかと竜二は思った。
『このお店はいわゆる副業ってやつ?』
『う〜ん、副業ってほどじゃなくて、私の知り合いがやっているお店だから忙しいときだけ手伝ってって頼まれているだけなの。
カウンターでお酒を注いでるよりカウンターに座ってお酒を飲んでる方がいいわ。』
女は悪戯っぽく微笑みながらそう言った。
『私の名前は白井華よ。』
白井華・・・
竜二は名前を聞いて知らない名前だと思った。
それに取引先の女って言ってるけど、もっと距離が近いところで会ったような気がしてならない。
しかし竜二はそれ以上思い出せなかった。
『俺の名前は・・・』
と言いかけた時、華が被せて口を開いた。
『松井竜二君でしょ?』
『え!?なんで俺の名前を知っているの??』
と驚く竜二に華はすぐさまこう言った。
『だって会社に何枚も名刺があるわよ。
最初の頃は営業に来てずっと断られてたでしょ?
その度に名刺を置いて帰ってたから、あなたの名刺はたくさんあるわ。』
そっか。
本当に取引先の女なんだな。
白井華。
竜二はいい名前だと思った。
そして竜二は今日のチケットをくれたあのおばさんに『ありがとう』と心の中で礼を言った。
今夜は素敵なイブになりそうだ。
竜二はさらに宙に浮いた。
すでに気分は麻原彰晃に負けないくらいに浮いている。