クリスマスイブ
これまでのあらすじ
竜二はある日通勤電車の中で偶然に赤い帽子の女を見かける。
マスクを外した女の顔を見た竜二はあまりの美しさに一目惚れしてしまう。
しかし同時にその顔はどこかで見たことがある顔だと思った。
デジャブのように・・・
そして同じ日の夜、また竜二はその赤い帽子の女を見つける。
竜二の前に何度も現れる赤い帽子の女・・・
この女はいったい誰?
その謎が少しづつ解き明かされる。
あの赤い帽子の女に会ってから3ヶ月が過ぎた。
あの日、偶然に女が住んでいるマンションまで見つけたので、きっとまたすぐに会えると竜二は思っていた。
竜二は仕事で新宿のオフィスに用がなくても頻繁に新宿に出かけていた。
もちろんあの女に会うためだ。
あんなに電車に乗るのも億劫になっていたくせに、最近は新宿に向かう電車が大好きになった。
恋の力は恐ろしい。
『これは恋なのか?』
『恋と痛風は突然やってくると誰かが言ってたが本当だな。』
竜二はボソッと呟くと少し照れた。
竜二は若いながら豚骨ラーメンの食べ過ぎで痛風の発作を味わったことがある。
それから発作を抑える薬は飲んでいるが、相変わらず豚骨ラーメンはやめられない。
ラーメンばかり食べて酒は飲むしタバコも吸う。
これじゃあ長生きできないぞと何度も医者から言われてきた。
体に悪いものはなんでもうまいと決まっている。
しかし最近はラーメンよりも、あれっきり会えなくなった赤い帽子の女のことが頭から離れない。
竜二は完全に恋に落ちていた。
会えないとさらに気持ちは募るばかりである。
竜二はこの3ヶ月間、心がふわふわと宙に浮いたままだ。
今なら恋のポエムでも書けそうだと思った。
人は恋をすると誰もが一度は清水翔太になる。
『それにしてもなんで会えないんだ?』
最近はあの女が住んでいるマンションの玄関のすぐ前をウロウロするくらいに竜二の行動は大胆になっていた。
しかし赤い帽子の女にまったく会えないばかりか、あのマンションには人が住んでいるのかと思うほどマンションには人の出入りがなかった。
それで竜二の行動もだんだんエスカレートしていったのだ。
そして月日は経ち、早いもので今日はクリスマスイブ。
新宿駅南口の階段を降りるあいだも、あの赤い帽子の女に会うのではないかと竜二はあたりを見回した。
12月も終わりだというのに暖かい夜だった。
街はイルミネーションで彩られ行き交う人もみな浮かれているようだ。
ビルのフラッグビジョンのニュースが今年は暖冬だと言っている。
竜二は新宿駅の南口からアルタ方面へ歩き、いつぞやおばさんからもらったクリスマスパーティのチケットのお店に向かっていた。
新宿を歩けば誰でもわかるがビルの上はどこも大型ビジョンだらけだ。
アルタビルに設置されているアルタビジョンでは、誰かがサプライズプロポーズの動画を流していた。
そしてアルタビルの前の通りには白いリムジンが3台も並んでいる。
なんと、サプライズプロポーズの行列だ。
いつものクリスマスイブの光景だが、竜二もいつかこんなことをやる日がくるのだろうかとぼんやり考えた。
ふ。
その前にあの女に会わないとな・・・
そして竜二は目的のバーを見つけた。
ドアの横に置いてある黒板風の看板には『本日はクリスマスパーティのため貸切』と書いてある。
やっぱりこのお店に間違いない。
気乗りしない手でバーのドアを恐る恐る開ける。
するといきなり店内の熱気が竜二を飲み込んだ。
竜二が一歩店内に足を踏み入れる。
お店のドアが開いたことに気づいた女の店員が竜二の方へ歩いてきた。
『メリ〜クリスマス!』
と声をかけてきた女を見て竜二は仰天した!
竜二の目の前で『メリークリスマス』と声をかけた女はなんと!
あの赤い帽子の女だったのだ。
『な、なんでここにこの女がいるんだ??』