表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】2度愛された女  作者: ぺこりーの
3/28

デジャブ



そんな事件があってからすでに1年あまりがたとうとしていた。


久しぶりに電車で会社に来た竜二は、ちらほら出勤している社員がいることを確かめてから自分の席に座った。


と言うより、例のあの女二人が出勤していないかどうかを確認したかったのだ。



どうやら二人とも会社へは来ていないらしい。





ホッとしながらコソコソと席につく竜二に、部下の康平が突然声をかけてきた。





『お疲れ様です!今日は出勤ですか?』





『おわっ!!びっくりさせんなよ〜!お前・・・』


涙目の竜二が康平に言う。





『相変わらずの豆腐メンタルすね!』





康平は竜二のチームの部下だが竜二の大学時代の2歳年下の後輩でもある。


大学が一緒だったせいで康平とは昔からよく遊んだ仲だ。


康平は竜二に対して会社の上司と言うよりも友達のような感覚で接していた。


それをよく竜二から注意されたこともある。





『お前も出勤か。どうだ今日は久しぶりに昼飯でも一緒に食うか?』


康平は嬉しそうに『あざーす!』とおどけて答えた。





お昼になったので、竜二は康平を連れて会社のビルの向かいにある中華料理屋に来ていた。


この店のランチは安くてうまかった。


中華料理と言ってもいわゆる街中華と言われるお店で、ここの五目焼きそばが竜二のお気に入りだ。





竜二は焼きそばをうまそうに食べながら部下の康平に聞いた。


『お前さ〜、なんかこの光景過去に見たことがあるって思ったがことないか?』





康平は竜二の質問に軽口を叩いた。



『あ〜、先輩!そういや、大学の時にも二人の女から詰め寄られて土下座してましたっけ。


あのシーンを思い出しちゃいました?』



康平はにやにやしながら、上目遣いで竜二の顔を見上げた。





『お、お前!そういう意味じゃねえよ!それってもう1年前の話だろ!』


『なんだか今のこのシーンが、過去にも経験したような気持ちになることがないかって聞いてんだよ。』





『それデジャブってやつでしょ?俺もたま〜にそういうことありますよ。』





『デジャブ?』





デジャブね〜。


そういうんじゃないんだよな。


もっとハッキリとした実感というか確信にも似た感じなんだけどな。





竜二たちはランチを食べ終わると後の客が待っているのを見てそそくさと店を出た。


そして康平とはそこで別れた。



竜二はひとり新宿駅の喫煙所に向かった。


康平は昔からタバコを吸わない。





竜二はタバコに火をつけながら、さっきの康平との会話の続きのことを考えていた。


デジャブなんかじゃない。


そうだ。


もっとハッキリとした実感がある。





今朝の電車の中で見た赤い帽子の女・・・


間違いなくどこかで見たことがある。


しかしそれがいつどこでなのかまったく思い出せなかった。





竜二は赤い帽子の女のことが頭から離れなかった。


美しい顔立ちに抜群のスタイル。


男なら誰もが一目惚れしてしまいそうないい女だった。





もう一度会いたい・・・


どこへ行けばあの女に会えるんだろうか。





竜二は会社の帰りにいつものビアバーへ顔を出した。


竜二はクラフトビールが大好きだ。


仕事帰りにはしょっちゅうこのバーに寄ってビールを飲んでいる。





その日も書類を詰め込んだ重いカバンを抱えてビアバーのカウンター席に一人で腰掛けた。


背が高いビアバーの椅子は安定は悪いが視線が高い。


ちょうど外を歩く人の顔がガラス越しに見える高さになっている。





竜二はいつものHAZY IPAをパイントグラスでマスターに頼むと、ズボンのポケットからスマホを取り出した。


竜二は、あの総務課の女のせいで女子社員ともめた事件のあと、女にインスタの写真を削除するようにLINEをしていた。


それからその総務課の女とはたまにLINEでやりとりをするようになっていたのだ。





女の名前はレイラ。


今時のキラキラネームだ。


漢字はどんな当て字だったか思い出せないほど難しい。





昨年大学を卒業して入社してきたばかりの新人である。


名前のとおり妙にキラキラした女だった。





あの日、そのレイラとはたまたま仕事の帰りが一緒になったのでこのビアバーで酒を飲んだだけだ。


ホテルに連れ込んだわけでもないのに、思わせぶりな投稿をしやがって・・・





竜二はいささか腹が立っていた。


レイラは見た目は可愛い。


しかしちょっとこじれるとめんどくさい女のようだと直感した竜二は、あの日手を握ることもなくまっすぐに家に帰したのだった。


それなのにあんなにこじらせやがって・・・





竜二は舌打ちするとビールをゴクゴク飲みながら視線だけを窓の外へ向けた。





あ!!





見覚えのある派手な赤いキャップに赤いマスク!





竜二の口元から盛大にビールがこぼれた。


なんだか口元に締まりがないじじいのようにダラダラとビールをこぼしている。


そんなこともおかまいなしに、竜二は背の高いカウンターチェアから飛び降りた。





あの女だ!





なんとビアバーの外を通り過ぎたのは、今朝の電車の中で見たあの巨乳女だった。


あのド派手な赤いキャップとマスクを見間違えるわけがない。


つうか、赤のキャップなんて広島カープファンくらいしか被ってないだろ。





なんでこんなところにいるんだ!?





ここは新宿南口の高島屋のすぐそばだが、めったに人が通らない路地裏である。





竜二は千円札を2枚カウンターに置くとマスターに手をあげて店から飛び出した。





女の後ろ姿を目で追いかける。


女はジョギング姿だった。





半裸のようなコスチュームでかなりのスピードで走っている。





知っている。


あの後ろ姿を知っている。





やっぱり俺は以前あいつに会ったことがある。



竜二は遠ざかる後ろ姿を眺めながら確信した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ