警部補 黒田寛次郎
これまでのあらすじ
華は竜二が前世では誠という名前だったことを明かした。
そして華は女優であったこと。
誠が新聞記者であったことなども・・・・
住む世界が違う二人がどうやって知り合ったのか。
また誠と華が一緒に脱走したことなども話す華。
そして若くして死んだ誠の死の理由は・・・・・
生き残った華のその後の人生とは・・・・
黒田は自分のデスクで電話が鳴るのを今か今かと待っていた。
そうだ。
自分が警察署内にいながら、みすみす留置所から脱走させてしまった女優白井華。
あの女を捕らえたという報告の電話を朝から待っているのである。
しかし黒田のデスクの黒電話はなかなか鳴らなかった。
警察無線は、脱走を幇助したあの新聞記者なら簡単に傍受できるとふんで一切使用を禁止していた。
警察無線が使えないことで操作にあたっている警察官の情報が共有されず、それで操作が遅々として進まないのだ。
黒田は怒りが沸点に到達しているため、そんな状況に気づかないでいる。
短気で粗野で乱暴者!
この警察署内で一番警察官に似つかわしくない男が黒田だった。
黒田は脱走を幇助した新聞記者の名前を知らなかった。
今朝になって、女が脱走したという報告を受けた。
その後、脱走を手助けしたのがいつも警察に出入りしている新聞記者だったことを知った。
名前は荒川誠。
荒川と言えば、あの荒川財閥の息子ということになる。
なぜ荒川財閥の息子ともあろうものが新聞記者などやっているのだ?
しかもなぜ女優である白井華の脱走を手助けしたのだ?
理由は何なのだ!?
さっぱりわからん!
黒田は短く刈り揃えられたタワシのような剛毛頭を掻きむしった。
『おい!!署に帰ってきた警察車両はまだいないのか!』
黒田は苛立ち紛れに部下に怒鳴った。
部下はぺこりと頭を下げただけで、黒田に近寄ろうともしない。
黒田は昨夜、華を脱走させたことで警察署長からこっぴどく叱られていた。
『お前はたかが女一人もロクに見張れんのか!!!
この大馬鹿者が〜!!!』
現代ならすでにこれでパワハラだ。
しかしこの時代はパワハラもへったくれもない。
上司が部下をどれだけこっぴどく怒鳴り上げようと、それをハラスメントだと思うやつなど誰もいなかった。
さらに婦警の尻と胸は警察官みんなのもの。
パワハラがなければ当然だがセクハラという言葉もない。
婦警は年がら年中、上司に尻と胸を触られ続け最近では『キャッ』と声をあげる婦警すらいなくなった。
慣れとは恐ろしい。。。
警察署長に怒鳴り上げられた黒田もまた怒り心頭である。
ただでさえ人相の悪い黒田だが、機嫌まで悪いので警察官のくせに極悪人のような形相だ。
それにしてもこれだけの警察官を動員しているというのに、なぜあいつらは捕まらないのだ?
もしかして荒川財閥が二人を匿っているのでは?・・・・・・・
黒田は一部の部下にこっそりと、荒川財閥の周辺を見張るように指令を出しておいた。
しかしそれが逆に誠と華を逃げやすくしたことには気づいていない。
誠の父であり荒川財閥の会長である荒川頼三は、誠からアメリカへ亡命する話を聞いていた。
豪放磊落な頼三はその話を聞き『それは面白いな!』と言って豪快に笑った。
頼三は立場上直接関わることはできないが、何か困ったら言うようにと誠に伝えた。
頼三は他の息子たちよりも特に誠のことを可愛がっていた。
それは親の言いなりになって家業を継がず、自分の信念で新聞記者という職業を選んだことも、口にこそ出さないが頼三は感心していた。
その誠がまたとんでもないことをやらかそうとしている。
『あいつは長生きはできないな・・・』
頼三はふとそう思った。
明日は『新聞記者 畠山惣一郎』に続きます。




