出会い
『あれ?』
『なんかこのシーン過去に見たことがある。』
松井竜二は新宿駅に向かう通勤電車の中で一瞬そう思った。
新型コロナウィルスの感染拡大のため、竜二が勤める会社も昨年からテレワークが当たり前になっていた。
しかし竜二は、それでも週に1、2度は会社へ出勤しなければならなかった。
理由は会社のパソコンでクライアントのマーケティングデータを収集していたからだ。
自宅に持ち帰っている仕事用のパソコンにはデータ収集のためのアプリがインストールされていない。
データ収集用のパソコンはスタンドアローンと言って、データ収集のためだけに設置されている。
だからどうしてもデータの確認には会社に出勤する必要があった。
すっかりテレワークに慣れてしまった竜二は、最近はこの週にたった1回の出勤でも億劫になっていた。
よくこんな満員電車に乗って毎日毎日通勤していたなと竜二は思う。
テレワークが始まってまだ1年も経ってないというのに、この満員電車の中のよどんだ空気を吸うのが耐えられない。
『満員電車ってほんと嫌だな・・・』
人間ってどこまでも怠惰にできているものだ。
甘やかされるととことんその甘えに慣れてしまう。
竜二はなるべく車内の空気を吸わないように、電車のドアからはいってくるわずかな外の空気に鼻を寄せた。
ドアガラスとの距離は5cm。
ちょっとだけドアガラスが白く曇る。
竜二は曇ったドアガラスを手の甲で拭いた。
そして大きくあくびをしながらドアガラスに映っている女の顔を見た。
赤の目立つキャップに赤のマスク。
雰囲気からしていい女っぽい。
マスクの下はどんな顔をしているんだろう・・・
と思った瞬間!
女がマスクの紐を耳から外しマスクをかけ直そうとしている。
女の顔が見えた!
『いい女だ!』
『しかも胸でかっ!!』
竜二は股間がムズムズするのを慌てて手で押さえた。
こんな満員電車の中で勃起でもしたら、『この変態野郎!』と女の乗客から車掌に突き出されてしまう。
あ!!
その時だった。
ガラス越しにそのいい女と視線があった。
『え〜!向こうも俺を見ている!』
こ、この女。
なぜガラス越しの俺の視線がわかるのだ!?
女の視線はまっすぐに竜二の目に向けられていた。
勃起していることすら見透かされているような、すべてを射抜くような強烈な視線だ。
竜二は思わず股間を手で隠す。
しかし女の強い視線に驚いた竜二の股間は、みるみる間に萎えてしまった。
自慢じゃないが竜二のメンタルは豆腐並みだ。
あんな目で見られたら勃つものも勃たない。
『はぁ〜助かったぁ〜。これで変態呼ばわりされずに済む。』
と竜二が心の中でつぶやいた瞬間!
突然、あの不思議な感覚が竜二の脳をよぎったのだ。
『あれ?』
『なんかこのシーン過去に見たことがある。』