名探偵は伝説のオネェ〜ジェネリックたか子マカブルの事件簿〜
「ヤダー! 何このおブスなご遺体!」
ゴツい体にバブリーなレッドスーツを纏わせた彼女の名は、ジェネリックたか子マカブル。永遠の二十二歳である。
「んもぅ、だから事件現場ってイヤねぇ。せっかくのアルマーニが泣いちゃう!」
「だからあれほど香水つけて現場に来るなと言ったでしょう、源三郎さん」
「ちょっと鑑識ちゃん! 今アタシの本名呼ばなかった!?」
さて、今回の事件の被害者は海水で溺れた水死体である。けれど死体が発見されたのは、とあるビル内のオフィス。当然現場近くに海は無い。
「流石のたか子さんもこれは難問でしょう」
「そうねぇ……」
呟くと、たか子は自身の長い髪をかきあげる。そうして口に火のついていない煙草を咥えると、足を組んで空気椅子をした。
「出た……! ジェネリックたか子マカブルの推理ポーズ!」
警察官の一人が眼鏡を直しながら言う。
「彼女はかつて歌舞伎町でバーを開き、数多の難事件を解決してきた! 逃げた猫の行方、浮気した夫の逃亡先……。あのポーズから逃れられたターゲットはいない! 見られるぞ、たか子の名推理が……!」
たか子の目が開く。彼女はカツカツとヒールを鳴らし、ある男の前に立った。
「アナタが第一発見者の警備員、狭山千万太サンね。聞いた所だと、見回りに来て遺体を発見したとのことだけど」
「はい。いきなりオフィスに遺体が現れたので驚きました」
「監視カメラには、不審者もビルを出た者も映ってないわね」
「はい」
「これで繋がったわ。犯人は……!」
たか子は、天井に人差し指を突きつけた。
「大きなクーラーボックスを持ち込んだマッスルよ!」
「マッスル!?」
「ご覧なさい、被害者は暴れた形跡があるけれど殆ど抵抗できていないわ。これはすごい力で押さえられたからよ。そしてクーラーボックスに入っていた海水で溺れさせられた」
「何故海水を……」
「後で死体を海に捨て、そこで溺死した事にさせたかったのでしょうね。けれどクーラーボックスに入った海水を捨てている間に、死体を見つけられてしまった」
「なるほど、すぐにビル内を探してきます!」
「フフ」
かくして、犯人はすぐに捕まった。日頃から被害者に悪質なセクハラをされていた犯人の女性は、彼を殺す為ムキムキに鍛えていたという。
全てを解決したたか子は、夕陽に向かって顎をさすり言った。
「今回も、髭が生まれる前に解けたわね」
彼女の名はジェネリックたか子マカブル。伝説のオネェ探偵である。