piece.9 ダンジョンと遭遇
やあ
勢いに身を任せる奴は身を滅ぼすっていうよね
田中=ソーマです
俺が口にした内容にギルド内が唖然としているうちに、俺は少女の手を取って走り出した。
ギルドを出て少女へ問う。
「悪いな、ドタバタに巻き込んじまったみたいで。それでダンジョンはどこだ? 情けない話、さっきこの街に来たばっかだから、何もわかんねえんだよな」
はははと笑いながら少女へそういうと、少女は泣いてた顔を今度は驚きに染めていた。
「助けて⋯⋯くれるんですか?」
「おいおい、ここまでやったんだから信用してくれよ。てか俺も呪い憑きだし、お仲間を助けるのにためらいはねえさ」
今度は驚きから笑顔へ、忙しいなこの子。
「あり、ありがっありがとうございます!」
「お礼を言うのも喜ぶにもまだ早い。まだスタート地点に立っただけだ。で? 案内してくれるのか?」
「! はい! コッチです!」
俺を先導する様に走り出す少女。俺は彼女の後を追い走る。
内心やっちまったなぁと思いながらも。
*****場面遷移*****
俺たちはダンジョンの入り口と思わしき場所から少し離れたところで、それを見ていた。
「あちゃー、やっぱ塞がれてるよなぁ⋯⋯」
入り口には警備の人間が2人おり、誰も入れないと言った様に立ち塞がっていた。
対応早すぎだろ、と内心独言るも状況は変化しない。
「君はここまででいい。案内ありがとう」
「えっでも⋯⋯」
「ここから先は俺の仕事だ」
そう言って俺は入り口へ走る。
俺に気づいた警備が止まれと怒鳴るが関係ない。
俺は指輪から身の丈以上の鎌を取り出し、なおも速度を上げて走り叫ぶ。
「ど、どけぇ! 殺されたくなかったら⋯⋯そこを開けろぉ!!」
吃ってしまったのは許して欲しい。何ぶん人間へ向かいこんな暴言を吐くのは初めてなのだ。
それでも警備は退かない。職務を全うしやがって⋯⋯いい警備だな!
俺は鎌を横へ大きく振り被り警備へ迫る。
ついに鎌の射程圏に入るかと言うところで、警備は俺が本気なのだと察し、短く悲鳴を上げ傍に逸れる。
「すまん警備さん!」
隣を通る際に一応の謝罪をし、俺はダンジョンへ飛び込んだ。
*****場面遷移*****
俺はダンジョンへ飛び込んだのち、後ろを振り向き追手が無いことを確認し、足を止める。
「あー⋯⋯控えめに言って犯罪者だなぁ⋯⋯」
そう呟き、鎌を指輪へ収納し歩き始める。
本当なら走り回って対象を探した方が良いのだろうが、ミイラ取りがミイラとなっては意味がない。脳内に構造をマッピングしながら先へ進んでいく。
少し歩くと目の前に黒いモヤが集まっているものを見つけた。しばし観察すると、モヤが形どり狼になるのを目撃。
どうやらダンジョン内ではああして魔物が作られるらしい。
狼は俺に気づくと臨戦態勢を取り、こちらへ向かってくる。そのままの勢いで飛びかかってくる狼を、指輪から出した槍で串刺しにする。
前日の経験ゆえか、ここまでくるのにやらかした行為によるアドレナリンの分泌ゆえか、命を奪う行為に昨日ほどの嫌悪感はなかった。
「魔物だからかな⋯⋯?」
流石にそれだけでは無いと思い、この不自然な心の落ち着きを魔物だからと結論付け、槍と狼を収納し先へ進む。
ラノベとかでよくあるダンジョンはダンジョン毎に生息する魔物が統一されていたりするが、この世界はどうなのだろうか。
などとダンジョンについて思案しながら先へ進むこと、十数分。
僅か十数分で倒した狼は6匹となり、最初感じていた嫌悪感はほぼ消え去り、考え事をしながら相手取る程度まで慣れてきた。
しかし⋯⋯ダンジョンに入ってからと言うもの身体が軽い。何故だか外で運動する時よりも動き易いのだ。恐らく戦闘時に発生するアドレナリンなど、気分の高揚から来る現象だと思っていたが、流石に落ち着いている今も感じるこの感覚は異常であった。
狼を相手取りながら暫く歩くと、悲鳴と硬いものがぶつかり合う音が聞こえる。
俺はその音を頼りに近付いていくと、金髪貧乳の女の子が2匹の狼に襲われている現場を見つけた。
狼からの攻撃を手に持った長杖で防いでいる様だが、魔物の力に敵わず、段々と壁際へ追いやられている。
俺は槍を指輪から出し、全力で少し離れた位置にいる狼へ投擲。その後短槍と盾を取り出し全力で女の子へ走り寄る。
仲間が槍に貫かれるのを見た狼が、一瞬でこちらへ向くがもう遅い。杖にかじりついていた狼を短槍で串刺しにする。
女の子は何が起きたのか状況が把握できないのか、目をパチクリさせて俺と狼を交互に見やる。
俺は確認のため女の子へ語りかける。
「大丈夫か? 君が⋯⋯ちーちゃんって子でいいのかな?」
「はぇ? ふぁ、はい! 私がちーちゃんです!」
何だか自分を愛称で呼ぶ彼女を見て少し吹き出してしまった。
自分を見て笑う男に不機嫌そうなを顔を向け、少し大きな声で彼女は言う。
「し、失礼ですよ! 人の顔を見て笑うのは!」
そ こ じ ゃ な い 。
そう言う彼女へ俺はこう返す。
「じゃあ助けられてお礼が言えないのも失礼じゃ無いか?」
「あっ、えと⋯⋯ありがとうございます?」
「なんで疑問形なんだよ」
目の前の面白生物にクツクツと笑いが止まらない。
笑う俺を見て今度は頬を膨らませ、プンプンと擬音が目に浮かぶ様に怒る女の子。
少し落ち着いた俺は、短槍と盾を収納し彼女に向き合う。
「笑っちまって悪かった。俺はソーマ。君の友達からのお願いで助けに来たんだ」
「えっ? 助けに?⋯⋯あ、そう言うことですか。また私は心配をかけちゃったんですね⋯⋯」
「でも、今回ばかりは心配が功を成したんじゃないか?」
「⋯⋯そうですね。うん。ソーマ⋯⋯君? 助けてくれてありがとうございます!」
「ん、礼には及ばないさ」
俺は放った槍をそのままにしていたことを思い出し、回収に行こうとするが、彼女の言葉に止められてしまう。
「先ほどからいろんな道具を出したり消したり⋯⋯どうやってるんですかっ? 魔法ですかっ?」
目がキラキラしている⋯⋯。これはアレだ、機械ヲタクがUSBの新規格を話す時と同じ目だ。むしろ分かりづらいな。
「えーっと、これはだな⋯⋯」
俺は中指に嵌めた指輪を一度外し、彼女へ見せる。
「母からのプレゼントでな、これが収納箱になってるんだ」
「ほぇ〜! すっごい魔道具ですね! 私見たこともありません!」
「そ、そんなに凄いのか?」
異世界御用達の道具なのかと思ってたけど、やばい代物なのかな? ママン貨幣といいいろいろとヤバいもの渡しすぎっす⋯⋯。
俺の疑問に返答が返ってこないので、おかしいと思い彼女の顔を見てみると、俺⋯⋯いや、俺の後ろに焦点を合わせ青ざめた顔をしていた。
マズい、と思い振り返ろうとするも、直後脇腹に強い衝撃。俺が彼女から遠ざかる様に転がり回る。
脇腹に走る鈍痛に顔をしかめながら、起き上がり俺が元々いた地点を見ると、そこには二本足で立つ狼がいた。