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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
8/43

piece.8 ギルドと呪い憑き

 やあ

 田中ソーマだよ


 守衛さんの協力のおかげで無事商人の馬車に乗り込み、次の街へ向かうことが出来た。

 馬車に揺られること数時間。


「少年、もうすぐ街に着くぞ。降りる準備しとけよー」

「はい! わかりましたー」


 準備も何も、着の身着のままで旅をしているので、馬車から降りるだけでいいんだけどなーと思いつつも、商人の到着の合図を聞き、荷台から飛び降りる。


「ここまで運んでくださり、ありがとうございました!」

「金もらってやってんだ、これも一つの商売さ。礼を言われる筋合いはねえよ」

「それでも、お世話になりましたので!」

「そうかい」


 商人は馬車や馬の専用窓口がある様で、そちらへ向かっていった。俺は普通に守衛さんに話しかけて入れて貰えばいいんだよな?


「すみません、この道の先にある町から来ました。中に入れていただきたいのですが⋯⋯」

「んん? 中に入るなら身分を証明できるものと税として銅貨5枚を徴収している」


 あちゃー、どっちもないぞどうしよう。⋯⋯あ、そうだ。


「あ、あの、その町の守衛さんからここの守衛さんに渡してほしいと」

「む、アイツからか? どれ⋯⋯」


 俺から手紙を受け取ると中身を確認し、後半に行くにつれ俺と手紙を交互に見る様にし、やがて手紙を閉じた。


「ふむ、少年ソーマ、お勤めご苦労。中に入り旅の疲れを癒すといい!」

「え、いいんですか? 俺どっちも持ってないんですけど⋯⋯」

「これからギルドでどちらもゲットできるだろ? ささっと通っちまえって。⋯⋯他の守衛には内緒だぞー?」


 ニヤニヤしながら俺の背中を押し、街へ押し入れる守衛さん。どうやら俺はまたあの人に助けられたらしいな。


「ありがとうございます。では入らせていただきます」

「おう! ギルドは入って真っ直ぐ行ったところにある、迷わず行けよー?」

「わかりました!」


 教えてもらった通りに道を真っ直ぐ進むと洋風の大きめの建物があった。冒険者ギルドと看板がある隣にビールジョッキの様なマークの看板もあるということは、酒場と合体している作りなのだろうか。

 とりあえず大扉を開き、中に入ると目の前にカウンター、右手には机と椅子が並べられた、ファミレスみたいな空間がある。


 俺は迷わずカウンターへ向かい、受付の女性に声をかける。


「すみません。冒険者登録をしたいのですが」

「あら小さな男の子。冒険者になるには職を授かっていることが前提よ?」

「大丈夫です、これでも剣士です」

「そう、まあチェックはさせてもらうから、この問答には意味がないんだけどね」


 そう言ってカウンター下から手乗りサイズの台座付きの水晶を取り出す。


「これに触れると、名前、年齢、職業が明記されたカードが作成されるわ。欠けがあったりするとカードができないから、嘘はバレるわよ?」

「綺麗なお姉さんに嘘なんてつけませんよ。手を乗せればいいんですね?」


 サラッとキザなこと言ったなぁ。まあ言われた女性も微笑んでいるだけで、子供の冗談だと受け取ってくれているんだろう。

 俺は水晶に手を乗せ⋯⋯ようとした瞬間、大扉が勢いよく開かれ、少女が走り寄ってきた。

 少女は受付の女性に向かって叫ぶ。


「お願いします! 友達が危ないんです! 助けてください! お願いします!!」


 これが異世界転生特典ってやつか、トラブルからは逃げられないと。内心頭を振りながら、ため息をついた俺でした。


*****場面遷移*****


 友達が危ないと半狂乱になって繰り返す少女を女性が落ち着かせ、話を詳しく聞いてみると、友人の女の子が修行と称して1人でダンジョンに向かったらしい。女の子の職は魔法使いとの事で、流石に心配し過ぎじゃないかとも思うが⋯⋯。


「わかりました。当ギルドはその依頼を受領したく思います、して報酬は幾らお支払い頂けますか?」

「ほう⋯⋯ってお金ですよね⋯⋯?」

「はい、流石に無償となると冒険者に依頼を出すのも難しくてですね⋯⋯」


 女性は眉を寄せ、申し訳なさそうに告げる。そりゃ少女には悪いが商売だしな、ギルドが負担するってのもおかしな話だし、仕方ないよな。


「お金⋯⋯これしか⋯⋯」


 少女は懐から銭貨を6枚ほどカウンターに出し、女性を見つめる。


「ダンジョン内にて対象の捜索依頼、緊急性は⋯⋯その様子であれば高ですよね⋯⋯」


 尚も渋い顔をする女性。条件と報酬が釣り合わないのだろう、ギルドの中抜きを考えたらそこそこの金額になるんじゃないだろうか。

 俺は指輪から銅貨を2枚取り出しカウンターへ置く。


「お姉さん、これでもまだ足らないかな」

「銅貨2枚に銭貨6枚⋯⋯ギリギリ最低限ですが、受領は可能です。ですが⋯⋯宜しいのですか?」

「構いません。この子の顔を見ていたら、知らんぷりなんて出来ませんので」


 ごめんなさい守衛さん。俺のためにくれたお金使っちまいます。


「君⋯⋯ありがとう!」

「喜ぶのは早い、この依頼を受けてくれる冒険者がいればいいんだが⋯⋯」


 そう、最低限の報酬という事であれば、この依頼を受けてくれる人間は、多少の善意どころか、善意満タンで動いてくれる人物でもなければ受けてくれないだろう。

 そんな事を考え、思案に耽っていると。


「おいおい何だこのしけた報酬は、こんなんじゃ誰も受けてくれねーだろ」


 酒場の方からでかい斧を背負った大柄のおっさんが近づいて来て、カウンターと俺たちを交互に見てそう言う。

 俺は咄嗟におっさんを睨み付けるが、おっさんはどこ吹く風と受け流してしまう。


「おいおっさん、そんな「ま、困ってる少年少女の為に俺様が一肌脱いでやっかね」⋯⋯は?」


 そう言うとおっさんは女性へ向き直り、依頼を受けることを伝える。


「おっさん⋯⋯」


 俺は一転おっさんに尊敬の眼差しを向けると、照れた様に俺から目を逸らし、少女へ向き直る。


「嬢ちゃん、お友達ってのはどんな子だ?」

「え、っと、髪が綺麗な金色で、私より背が大きくて、胸は小さくて⋯⋯あとは⋯⋯あとは⋯⋯」

「おうよわかった、そんじゃ俺様がささっと見つけてきてやるからここで待「あと呪い憑き⋯⋯なの」ってろって⋯⋯は?」


 その言葉を聞いて俺や女性、おっさんは凍りついた。俺は俺以外の呪い憑きとの初めての出会いとなる可能性に、そしてそんな人間が一人でダンジョンに入ったと言う危険性で。

 だが二人は違った様で。


「すまねえ嬢ちゃん、この依頼俺様はパスだ」

「「えっ!?」」


 俺と少女はおっさんに対し驚きの声を上げる。


「そうですね⋯⋯ギルドとしても、呪い憑きの保護となるのであれば、金貨1枚は最低でもいただかなければなりません⋯⋯」

「なんで!? どうして!?」

「呪い憑きってだけでなんで差別みたいな事されなきゃならねえんだよ!? おかしいだろうが!」

「ちげえよ坊主、差別みたいじゃなく差別なんだ」


 俺はどこか軽く見ていたのかもしれない。呪い憑きというものを。この世界は、世界の人々はすべてに優しいと思ってたのかもしれない。

 おっさんは一拍置いて、俺と少女へ説明をする。


「噂話ではあるけどよ、呪い憑きは感染るんだと」

「うつ⋯⋯る?」

「ああ、呪いが伝播したって噂があるんだよ。条件はわからんが、接触しないのが一番だろ」

「なんの根拠があって!」

「感染る根拠なんざねえよ、感染らない根拠もないだろうが。仮に感染らない根拠があるなら俺様だってすっ飛んで助けに行ってやるよ」


 そんなの⋯⋯あるわけがない⋯⋯! 神ですら把握出来てない事態なんだぞ? 

 おっさんはボリボリと頭を掻く仕草をし、申し訳なさそうな顔を浮かべその場から離れていく。


「なんで、どうして、どうすればいいの? ちーちゃん⋯⋯」


 少女はその場に座り込み泣き出してしまう。ちーちゃんというのが友達の名前だろうか。

 俺に何が出来る? どうしたらいい? そう考える俺の脳裏に一つの案が浮かぶ。

 それと同時に今まで言われてきた恩人の言葉が脳裏をよぎる。


───身を滅ぼすぞ。

───軽い気持ちでダンジョンに入ってはいけない

───危険な真似はしない


 俺は⋯⋯。


 俺はおもむろに水晶に手を置く。

 出来上がったカードには名前と年齢、職業が明記されていた。


「これで俺も冒険者、そうだな?」


 俺の行動と発言に女性は少したじろぎつつも、頷きを返す。とともに、驚愕の表情を浮かべる。


「アナタ⋯⋯まさか!? ダメよ! ただでさえ呪い憑きが関わる話なのに、成り立てがダンジョンに単身で行くだなんて!」

「安心してくれよ、その問題の一つは既に解決済みだ」

「え?」


 俺は息を吸い、一拍置いて告げる。


「もしこれで俺が帰ってこなくても、1人の少女が泣き、2()()の呪い憑きがこの世から消えるだけだ。何も問題ないだろう?」

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