piece.40 調整力と対策会議
お ま た せ
挨拶。御機嫌よう皆様。
機人族かつ錬成士のアルフです。
職業というのは意外と不便な点もあるのですね。
以前本で読んだ錬成士というのは、万物を使いあらゆる道具で活躍するものだと記憶しておりましたが⋯⋯。
⋯⋯え? もしかしてコレがお二人の言っていた? ⋯⋯どうしましょうか、浅ましくも今私は喜びの感情を得ております。
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「アルフ、少しアルバと話がしたい。耐えられそうか?」
「皆無。機人族の武器ではこの防壁は突破出来ないと予想します」
「わかった。負担をかけるが、よろしく頼む」
「御意」
やっぱり何だかアルフの印象というか⋯⋯うーん、何が変わったんだろ。それは後でで良いか、っと。
「やいアルバ」
「なぁに坊や」
「この状況お前のせいだろ、吐けること全部ゲロしろや」
「やぁだこの子ったらぁ、口悪いわぁ」
「今は真面目な話だ、その作り口調もやめろ」
マジトーンでそうアルバへ告げると、それまでニヨニヨとしていたアルバは一度目を瞑り、キッと目つきを尖らせる。
「⋯⋯ゴホン。この状況はアンタとチウちゃん⋯⋯超呪の旅団、だったかしら? を狙って引き起こされているのよ」
「狙って? お前が俺たちにちょっかいを出している⋯⋯というのはないのか」
「当たり前でしょう? 誰がわざわざケツ蹴り上げた坊やを殺しちゃわないといけないのよ」
お前も大概口悪いぞ。
「だとすると? この事態も、前回のアレもお前が原因ではない⋯⋯とそう聞こえるんだが?」
「ピンポーン。正解」
「じゃあ俺に語りかけてきたあの声が」
「それは違うわ、断じて」
引っ掛けようとした意味もあったが、予想以上に強い返しが返ってきた。
あの声、はじめはアルバかとも思ったが、全然印象が違うし、性格悪くなさそうだし、別人ということにしていた。
この反応なら、そこそこ仲が良いか、主従関係にある⋯⋯と、まあ今は良いか。
「⋯⋯じゃあなんでこんな事になっているのか、説明求む」
*****場面遷移*****
俺の問いに答える様、アルバは俺たちの存在と世界の調整力について説明をする。
呪いを超え、新たなスキルに目覚めた者⋯⋯便宜的に”超呪者“と称そうか。
超呪者の存在、或いは新たなスキルの存在が、この世界の枠に収まらない事が原因で、世界がスキルごと超呪者を消し去ろうとしている⋯⋯と。
「それは⋯⋯本当なのか?」
俺は俯きながら、震えた声で言葉を発する。
正直な話、話の筋は通っている、が。信じたくないし信じられようものか。
俺たちが呪いを乗り越えたことで、世界から消される? 何故俺やチウばかり呪いに調整と理不尽ばかりが襲い来るのか。
「本当よ⋯⋯と言っても素直に信じ、受け入れられるような話ではないと思うけど」
「そりゃそうだよ⋯⋯俺たちが頑張ってきた事で、更に⋯⋯厄介な事象を呼び寄せるだなんて」
今回の機人族だって全くのとばっちりじゃないか。俺たちがいなければ、俺がいなければ⋯⋯。
「坊や⋯⋯アンタの頑張りは」
「全部無駄、いやむしろ余計な事だった。俺もチウも、あんな力に目覚めなければ⋯⋯いや、俺があのときチウ達を助けなけれ「ソーマ君!!」っ!?」
鋭い声で名を呼ばれ、ハッとし顔を上げる。
いつの間に目覚めたのか。
腕を組み、俺を鋭い目付きで見つめるチウと目が合う。
「ち、チウ⋯⋯」
「ソーマ君、それ以上は聞き流せません」
「でも俺は、俺が、お前達に関わらなければ!」
「死んでいました。あの場でウルフ達に無残にも食い荒らされて」
「⋯⋯!!」
言葉を失う、とはこういう事だろうか。
チウを助けなければ、チウは死んでいたし、あの少女も悲しみに暮れるのみであった。
「貴方が居たから、貴方が行動したから、救われた命が、想いが存在するんです」
「同調。ソーマ様がいらっしゃらなかったら、機人族は今後ずっと人として認められることはないでしょう」
「ある⋯⋯ふ⋯⋯」
膝をつき、地面に手を置いた状態でこちらを見るアルフ。
「歓喜。貴方様のおかげで、私は人である事を天へ吠えられました。人である事の喜怒哀楽、それを知る事ができました。知識ではなく、心で」
ニッコリと笑いそう告げる。
アルフの言葉を聞いたのち、チウがゆっくりと俺へ向けて歩き出し、俺の目の前で止まる。
「ソーマ君がやってきた事は無駄などではなく、ましてや余計な事だなんてありません」
「チウ⋯⋯」
「ソーマ君は何も間違ってません! ソーマ君は胸を張って良いんです!」
「俺は⋯⋯」
「困った人を助けた、死を超え呪いを超えた、それの何が悪い事なのでしょうか!」
俺へ向けて手を差し出し続けて告げる。
「ソーマ君、それでもまだ貴方は自分がいなかったら、自分が何もしなかったらと思いますか⋯⋯?」
チウの言葉を反芻し、考える。
俺がしてきた事。決して多くなく、大層なことは出来ていない。だけどそれで救われたと、そう言ってくれる人がいる。
だがその結果として、調整だなんて理不尽が俺たちを襲い、周囲を巻き込んでしまっている。
チウとアルフは言う。俺は悪くないと、悪いのは調整だなんていう力、そのものだと。
俺は⋯⋯このまま進んで良いのか? 俺が動くことで不幸を、理不尽を振りまいてしまうならば、今この場で果てるのが、呪い憑きやこの世界のため⋯⋯いや、違う。
俺が? 違うだろ俺。アルバの話であれば、死ぬのは俺だけじゃない、チウも対象となる。一緒にいるアルフが死なない保障は? ないだろうが。
俺は差し出されたチウの手を取り、顔を上げる。
「わりぃ。弱気になってた。何より俺がこんな事言うのはお前達に失礼だった」
俺は俺のしたいように行動してきた。それでチウやアルフと出会えた。それによって迷惑をかけた人や街もあるだろうし、今後増えるかもしれない。でも俺は。
「俺が進む事で理不尽が振りまかれるなら、全て俺が振り払ってやる。巻き込まれた奴らには、悪いが腹括ってもらう」
そう告げる俺を見て、チウもアルフも笑顔を浮かべる。アルバはやれやれと言った表情をしていたが。
「それは、随分な我儘ね」
「だろうな。だがもう立ち止まるのも、膝を抱えて泣くのもごめんだ」
「教示。私の恩人曰く人間は我儘な生き物らしいですよ」
「じゃあ私達はもっと我儘に! 調整力だか何だかがこようとも、全部跳ね除けて自分たちも周りも全部守りましょう!」
チウが俺の手をぎゅっと握り、上へ掲げる。
「ああ。変化や進化を許容できない世界なんて間違ってる。ハマらないピースならハマらないなりに、抗ってやるさ!」
「微笑。世界を敵に回す⋯⋯ですか。中々に鼓動が高鳴りますね」
「そのものだしな。お前にも手伝ってもらうぞ?」
「驚嘆。今更な話です」
俺は世界の異変について調べにきた筈だったんだがなぁ⋯⋯ったく。どうしてこうなったんだか。
「じゃ、坊やあとは頑張ってねん」
「アルバ?」
そう言うアルバへ目を向けると、先程は1/3ほど透けていたアルバがほとんど全身透けていた。
「お前⋯⋯大丈夫なのか?」
「死ぬわけじゃない⋯⋯というか私に死という概念があるのかわからないけどね」
「⋯⋯また来れそうなら顔を出せ」
「あら、てっきり私のことは嫌いなんだと思ったのに。どういう心境の変化?」
「うっせ。まだお前には聞かなきゃいけない事がクソほどあるんだ」
アルバはニヤリと口角を吊り上げ、俺へ向けて親指を立てた手を向ける。
「まったくぅ素直じゃないんだからぁ⋯⋯なんてね。アンタ達に不都合を押しつけて悪いけど、生き残りなさいよ」
「それこそやかましい。さっさと消えて、体調万全にしてこい」
アルバはやれやれと首を振ったのち、スッと消えていった。
「何者なんでしょうか⋯⋯」
「なんとなくだが予想はついた⋯⋯が。今はそれよりもこの状況から脱する事を優先しないとな」
「苦言。恐れながら、この防壁を解いた瞬間に、周囲の機人族が私達へ襲い来るでしょう。先程より銃弾や何かで叩くような感覚をひっきりなしに感じてます」
「多勢に無勢⋯⋯さてどうするか」
あの黒いモヤ。あれが世界の調整力そのものであるなら、なぜ俺たちを直接操ったりしないのか。
機人族のみしか操れない⋯⋯わけではないな。俺はチラリと地面に転がる鎧と、地面に手をつくアルフを見やり、その考えを断つ。
仮説を立ててみた。
あのモヤは調整力ではないとして、この状況は調整力により歪められた魔物か、あるいはその他の何かによって引き起こされているのではないか。
これは以前の迷宮での経験をもとに考えた仮説だ。アレはボスが歪められた影響で、ダンジョン全てに異変が広がった結果だと考えられる。アルバの話を聞いたあとだから考えられるわけだが。
とする場合、次に考えるのは⋯⋯。
「チウ、対象を意のままに操る魔法なんて物はあるか?」
「⋯⋯精神操作や身体操作の魔法はあります。ですが、基本的には気を失っていたり、気を許している者からのものでなければ、発動しても効果は得られないはずです」
では魔法の可能性は薄い⋯⋯か。ならば次は。
「スキル⋯⋯という事はないか?」
「不明。そもそもスキル全てを知る存在など⋯⋯いえ、いるのかもしれませんが、私は聞いたことがありません」
「スキルは不明⋯⋯あとは」
あとは⋯⋯電波?
「特殊な電磁波で機人族の脳にあたる部分を」
「否定。不可能です」
「⋯⋯まだ全部言ってないんだが」
「当然。機人族の脳にあたる中央処理装置は、外部から干渉されないよう、厳重にプロテクトされています」
中央処理装置⋯⋯地球ではCPUとか言ったか? 厳重にプロテクトねえ。
昔やったゲームで、脳につながるチップをハッキングして脳死状態にするなんてのがあったのを思い出したので、聞いてみようかと思ったが。
「厳重にってのは、どういった風に?」
「落胆。詳しいことは記憶してません」
「じゃあ出来ない保証はないんじゃ?」
「不可。プロテクトについて詳細を知るものは、今代に存在しません。それこそが最大のプロテクトとなっているのです」
どんなプロテクトがかかっているか分からないから、解除も突破も出来るはずが無い⋯⋯とアルフは言いたいんだろうな。
一理ある⋯⋯が完全に切り捨てるには根拠が足りないな。
「とりあえず今の方法については保留で⋯⋯チウ、他に何か思いつくものはあるか?」
「うぅん⋯⋯」
チウが顎に手を当て、考えこむ。
もしかしたら現存しないスキルや魔法で、何てことも一瞬考えたが、俺たちというイレギュラーを処理するために、調整力自らがイレギュラーを生み出すようであれば本末転倒だろう。
勿論完全にありえないと切り捨てるのは危険なんだが⋯⋯。
「問。横からすまんが、その調整力というのは摩訶不思議な力ということで良いのか?」
横合いから声を挟んだのは鎧、もといアルフ父。
「まあ、その認識で間違ってないな」
「了。俺の所感だが、兵士たちは洗脳というよりも、悪感情を植え付けられているように思えたのだが」
「悪感情を植え付ける?」
言われてみれば、洗脳された奴らの動きとしては、なんだかトロイというか、動きが燦然としていた気がしなくもない。
ともすれば、原因となっている人物のなんらかの能力で機人族自体の変革を拒むように、俺たち全員が悪と認識するように感情を制御されている⋯⋯?
アルフ父の言をもとに考え込んでいると、アルフが声を上げる。
「疑問。悪感情を植えられるだけでは、あのような状態になるのでしょうか」
「うーん⋯⋯確かにあの人達の状態は普通ではなかったですよね」
突然自我を失ったように遅い来る兵士たち。
王であるアルフ父を問答無用で押さえつけていた。
うわ言のように呪詛のような言葉を吐き続けていた。
悪感情を植えられただけ? 植えられただけじゃなくて、他に何かをされている⋯⋯?
「感情を増幅させる⋯⋯?」
俺の呟きに全員がハッと俺の顔を見る。
「肯定。可能性はあります」
「となると、その路線で対策を考えるべきか?」
「はい、感情を増幅するものであれば魔法でも十分に出来ますし、対象者側で拒んだりなどは難しいはずですので、可能性は大いにあります」
「解。それをあの調整力とやらで更に強固なものにしているのであれば⋯⋯」
現存する魔法技術で十分に実現が可能かつ、あの黒いモヤの説明もつく⋯⋯か?
いや待て。
「まだだ、悪感情の植え付けなんてものの説明が付かない」
「そもそも調整力なんておかしなものですよ? それぐらいあり得るんじゃないでしょうか」
「いや、イレギュラーを狩るのにイレギュラーを作っては⋯⋯」
「肯定。本末転倒ですね。ですがそのイレギュラーすらも潰してしまえば良いのではないでしょうか」
アルフのいう通りか? 自ら生み出したとはいえ、それすらも潰す⋯⋯そうすれば不都合は何もなくなるわけだが⋯⋯。
「そもそもソーマ君、あのウルフだってイレギュラーだらけだったじゃないですか!」
「⋯⋯言われてみれば」
そりゃそうだな。理屈で考えすぎていたか。
相手は現象そのものな訳で、細かいことなど考えちゃいねえのかね。
「うーん⋯⋯じゃあ原因は調整力で感情を操る魔物、もしくは他の何か。ということで良いか?」
「解。一旦はそれでいいだろう。あとは対応方法だが」
「肯定。兵士は相手にせず、元凶を潰すのが一番です」
「そいつがどこにいるか、誰なのか。そこが問題だな」
「あれが魔力を伴うものであれば⋯⋯」
「どうにか出来るのか?」
チウのスキルは魔力制御を乗っ取り、チウの呪いで消し飛ばす物だと聞いているが。
「魔法っていうのは、現象を発生させている間は、使用者とのパスが繋がっている筈なんです」
「驚愕。チウ様はそれを見て追えると?」
「可能です、が。私もそれを使っている間はほとんど身動きが取れません」
「じゃあこの安全圏から追えば?」
「近辺に使用者がいれば良いのですが、スキルでそこまで遠くは追えないので⋯⋯」
使用者の位置次第では移動する必要があるって事か。
「じゃあやっぱここから出る必要はあるか」
「提。ならば俺がチウ殿を背負おう。ソーマはチウ殿が攻撃されぬように、周囲を牽制してくれるか」
「おう。多少無理やりに行くしかねえか」
「微笑。ふっふっふ」
「何だその邪悪な笑い方は」
俺とアルフ父が作戦を立てていると、アルフが微笑み⋯⋯ではない悪役っぽい笑みを浮かべる。
つーかそれは微笑じゃねえ! 暗黒微笑だ!
「揚々。私の職業をお忘れでしょうか?」