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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第二章の様なもの
38/43

piece.37 世界と調整

 み、みなさん初めまして

 謎の美少女⋯⋯美少女? わ、ワルドです

 未だ謎に包まれた私の秘密をちょっとだけ⋯⋯

 実は私、和の文化が大好きなんです!

 ⋯⋯え、知ってた? ええ!? とっておきの秘密だったのに⋯⋯


********************


「はぁ〜⋯⋯手がかかるわぁ〜」

「お疲れ様、いつもありがとう」


 前世の記憶から沸いた恐怖心でうじうじしている坊やのケツを蹴り上げたあと、私はワルドの元へ戻り彼女へ愚痴を溢していた。


「人間って意味不明だわぁ、なんであんな物に恐れる必要があるのかしらぁ」

「彼らは、普通に撃たれたら死んじゃうと思うよ? それに恐怖できる事は人が人である故の強みだと私は思うな」


 微笑みながらそういうワルドに対し、私は年甲斐もなく頬を膨らませる。


「チウちゃんはともかくぅ、坊やはあのスキルがあるじゃなぁい?」

「まあ、アレって防御のためのスキルじゃないからね」

「でも全身を剣とする、という事は自分の想像力に応じて硬さも鋭さも変化できるんじゃないのぉ?」

「うーん⋯⋯どうだろ。仮にそうだとしても彼は多分まだ気付いていないと思う。どちらにせよ銃は剣より強いと思っている今の状態だと危ういと思うよ」


 あれ? もしかして私、無責任に坊やを殺しちゃったのかしら? いやいやいや、ワルドが信じる坊やなら大丈夫なはず、ワルドが信じる坊やを信じろ!


「⋯⋯最悪、私が機人族を滅ぼしちゃうかも?」

「⋯⋯冗談よねぇ?」


 ふふっと笑うワルドに対し、背筋が若干ヒヤッとするが、流石にそんな事を簡単にやる子ではない⋯⋯はず。


「彼がもし死んじゃうような事態になったら⋯⋯どうだろうね?」

「⋯⋯冗談、ではなさそうねぇ⋯⋯」


 やだこの子ったらヴァイオレンス! そうなった場合は私じゃ何も出来ないし、機人族に合掌するしかないかもしれないわね。

 変な方向で覚悟を決める私の向かいで、ワルドが小さく吹き出す。


「ワルド?」

「ぷふっ、あ、いや、ごめんなさい。また彼が面白いことになってたから」

「ふーん、どれどれぇ?」


 私は目の前に四角を描き、坊やの状況を見る。

 どうやら機人族の街へはたどり着いたようねぇ⋯⋯で、なんで鉄のドア凹ませて、地面を転がり回っているのかしら。


「状況がいまいちわからないのだけどぉ⋯⋯」

「お馬さんに振り飛ばされて、人間砲弾で門を無理やり開けて中に入ったの」

「なんでいきなり宣戦布告みたいな真似してるのかしらぁ!?」

「見てて飽きないなぁ、ふふふっ」


 楽しそうにそう言うワルドだけど、私は気が気じゃない。

 坊やあるいはワルドによって、機人族は滅ぶんじゃないかと思っているためだ。

 出来れば世界のバランスを大きく変えてほしくはないのだけれど⋯⋯。


 ドキドキハラハラしながら行く末を見守っていると、どうやら意外な形で丸く収まったようだ。


「あの機人族がねぇ⋯⋯これは予想外だったんじゃなぁい?」

「ううん、彼は優しい人。口ではああ言っていても、結局機人族をぶちのめす〜だなんて実行はしなかったはず」

「単なるへたれじゃなくってぇ?」

「私が選んだ中の一人よ?」

「あーはいはい、そうですねぇ⋯⋯ってそうじゃなくてぇ! 機人族のほうよぉ」


 私の知る限り、機人族はそれこそ本当に機械のような種族。命令に背かず、疑問も持たない。そういう認識だったのだけれど⋯⋯。


「機人族も人間よ。神々は未だ認めていないようだけど」

「いやそうじゃなくってぇ⋯⋯私たちが知る機人族と坊や達と関わりを持った機人族、なにか違う感じがするのよぉ」

「感化されたんじゃないかな。目の前で突拍子もない事をアレだけやられれば、少しぐらい心動かされてもおかしくないと思うよ」

「機人族を庇ったり、仲間といったり、門を打ち破ったりぃ?」

「も、門を、ぶ、ぶちやぶっふふふっ」


 どうやらワルド的にはツボらしい。

 感化、心動かされる⋯⋯ねぇ。そもそもその心ってどこに宿るのかしら。機人族はその名の通り全身機械で臓器などの機関も全てパーツを組み上げて出来ている。

 人の心はどこに宿る? 脳? 心臓? では機人族は? ⋯⋯なんて、悩んだところで仕方ないのだけれど。


「ふふふふ⋯⋯ぐっ!」

「ワルド!?」


 可笑しそうに笑い続けていたワルドが急に苦しそうな声を上げて、お腹を抱える。


「ちょ、どうしたの!?」

「うぅ⋯⋯まさかもう起こるなんて⋯⋯。もう少し猶予はあると、1回目の周期で勘違いしてた⋯⋯」

「もしかして⋯⋯」

「彼らには、試練だなんて言ったけど⋯⋯言えないよね。新たな進化を遂げた人間の分、世界が帳尻合わせをするために、調整をしているだなんて⋯⋯」


 調整。

 世界を一つのパズルに例えると、住う人や環境はピースの一つ一つ。それらを内包するこの世界自体は縁枠と言える。

 ピッタリ収まっていたピースの形が突如変化したら? 普通はパズルの縁枠が勝手に変わることなどあり得ない、だがこと世界においては、調整が発生してしまう。

 坊ややチウちゃんが目覚めたスキル、アレは本来この世界には存在しないスキル。私たちの干渉によって偶発的に発生した、いわば世界のバグ。

 世界はピースに生えた不要な部分、もしくはそのピース自体を消し去ろうと動き始める。

 今の2人はパズルにハマっていないピースそのもの。枠組みはそれを良しとしないのだ。


「ワルド! 坊や達ならまた乗り越えられるはず、だから⋯⋯」

「平常時、ならね⋯⋯。今は⋯⋯満身創痍⋯⋯。世界から消されてしまうかもしれない⋯⋯」

「でもこのままじゃ貴女が!」

「だ、だい、じょー、び。も、少しなっ!? ああぁぁぁああ!!?」


 ワルドの体から勢いよく黒いモヤが吹き出す。

 凄まじい衝撃と謎の抵抗でワルドに近寄ることすらできない。


「ワルド!」

「だめ⋯⋯だめ⋯⋯やめて⋯⋯こわさ、ないで⋯⋯!」


 やめて! というワルドの悲痛な叫びを無視して、モヤは世界へ、坊や達のもとへ向かってしまう。

 やがてモヤが完全にこの場から消えた後、地面に横たわったワルドだけが残された。

 私はワルドへ駆け寄り、しゃがんで身体を軽く抱き寄せ、声をかける。


「ワルド! ワルド!」

「ごめ、なさ⋯⋯抑えられなかった⋯⋯」

「貴女のせいじゃないわ!」

「ある、ば」

「なに?」

「たすけ、て、あげて」

「っ! でも! ⋯⋯いえ、わかったわ」


 私はワルドを静かに横たわらせ、立ち上がる。


「あり、がと⋯⋯」

「要らないわよ礼なんて。だって私は」

「ちょうてい、しゃ。だもん、ね?」

「⋯⋯そういうこと!」


 そう言い残し私は再度坊や達の元へ向かう。

 願わくばまだ彼らが無事である事を、少女の祈りが無に帰さないことを願いつつ。

こういう裏側書いてるとワクワクする

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