piece.30 恐怖心と脳筋
こんにちは!
絶壁ヒロインのチウです!
え? いやー前回は絶壁なこの胸に助けられましたからね! もう感謝しかないですよ!
⋯⋯大きい胸が欲しい
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俺が意識を取り戻してどれくらいそうしていただろうか。チウはまだ泣いている、俺はというと既に立ち上がり、黒兎馬の顔を撫で回していた。
「黒兎馬ありがとな、怖い思いさせただろうに、残ってくれていて良かったよ」
当たり前だというように吠え、頭をなすりつけてくる黒兎馬。
同じ様にチウにも接してあげたいけど、何を言えばいいのかわからない。
大丈夫、取り戻す? 守れなくてごめん? 何を言っても空虚で、意味の篭ってない言葉になる。
第一アルフを守ることも、立ち向かえもしなかった俺に何が言えるか。言えたものか。
「黒兎馬⋯⋯俺は⋯⋯間違ってたのかな」
呪い憑きなんて物にはなっちまったけど、それを補うスキルを手に入れて、チウという頼もしい仲間を手に入れて。なんでも出来る気になって。人の事情に中途半端に手を出して。あげく最悪の結末になって。
「アルフを助けなければ⋯⋯」
アイツはまだ別の土地で生きれたのかな。
そう言葉にしようとした時、後ろから微かに声がかかる。
「間違ってなんて、ないです」
「え?」
言われて振り返ると、そこには立ち上がり涙を拭うチウ。
「確かに私たちが手を出さなければ、という仮定はあります。でも、少なくともアルフさんは楽しそうでした」
チウに言われ最後に見た涙を流しながらも、微笑みながらありがとうと言った、アルフの顔を思い出す。
「嬉しそうでした⋯⋯! だから、間違っていたなんて言わないでください!」
チウの言いたいことはわかる、でも、でもさ。
「でも⋯⋯俺たちより強い冒険者だったら」
「っ」
「俺たちに関わらずに、人族の領地を渡り歩いていたら。アイツはまだ生きて」
「生きて、生きています! 今だって!」
チウは何かを求めるように俺を見つめる。
きっと俺がアルフを助けに行くことを宣言するのを待っている。
「⋯⋯ごめん。怖いんだよ、機人族の武器を見て、俺が死ぬなら⋯⋯いや、俺が死ぬのも怖い。それ以上にチウが死ぬ、もう失うのは嫌なんだよ⋯⋯!」
俺の絞り出した言葉を聞いて、チウは顔を歪める。嫌悪とか軽蔑ではなく、純粋に苦しそうな、見ていられないものを目の当たりにしたような顔。
「ごめん。情けなくて⋯⋯。軽蔑したなら、黒兎馬を連れて俺から離れてくれて構わない」
俺はそう言い顔を下へ向ける。見せていられなかった、自分の情けない顔を。
そうして目も閉じてチウの言葉を待つ。
チウは、俺の頭を抱きしめるようにして、抱き寄せこう言う。
「私は死にませんよ。ソーマ君だって、死なせません。でも、それでも怖いなら⋯⋯ソーマ君は黒兎馬に乗って、人族の王都まで戻ってください」
「⋯⋯え?」
「私は行きます。アルフさんを、人に憧れる誰よりも人らしい人を助けに」
「だ、ダメだ! 殺されるぞ!」
「殺されません」
「お前はわかってないんだ! アイツらの持つ武器の恐ろしさを!」
「先程は油断しただけです。次からは避けられます」
「バカか! 人が避けられるような速度じゃねえんだよ!」
そう言い何としてもチウを留めようとする俺に、チウは優しい顔を向け、微笑みながら言う。
「忘れましたか? 私を筋力バカの超魔法使いにしたのは貴方なんですよ?」
「⋯⋯」
何を言っても無駄だと思った。チウは決めてしまっている。助けに行くと。
「⋯⋯自分を責めないでください」
俺はもう何も言えず、チウの服を握りしめることしか出来ない。
このままいかせたら、チウは死ぬかもしれない。でも俺は動けもしない。自分より大きな狼だって、なんだって怖いけど立ち向かえた。だけど今回は違う、立ち向かうことすら出来ず、土俵に立つ前に射殺されるかもしれない。
鍛えた程度じゃ、銃弾なんて避けられるわけがない。
「少しの間お別れですね⋯⋯。大丈夫です! 私がアルフさんを助けて、直ぐに帰ってきますよ!」
そう言って俺の手をほどき離れる、離れていってしまう。
チウは黒兎馬の頭を撫でながら。
「黒兎馬、ソーマ君をよろしくお願いします。今はちょっと疲れてるだけで、きっといつものソーマ君に戻りますから!」
そう言って眩しい笑顔を浮かべるチウ。
無理だよ。俺にはできない。
「では2人とも⋯⋯はちょっと変ですかね。何はともあれ、行ってきます!」
そうしてチウは走り去っていった。人族領とは逆方向の、機人族の王都へ向けて。
*****視点変更*****
私は身体強化をかけ直し続け、走る。
どれぐらい掛かるかわからないけど、きっとこのまま走っていれば、機人族の王都まで行けるはず。
道案内のアルフさんがいないことで、道のりは若干不安だけど、街に近づけば建物やら何やらが見えるはず。
「ソーマ君⋯⋯」
私は小さくて強い、恩人である彼の事を思い浮かべる。
どんなに強くても、いろんな事を知っていても彼はまだ10歳なのだ。
自分の目の前で仲間が倒れ、挙げ句の果てに何も出来ないまま連れ去られる。トラウマものだろう。
私はそんな時、痛みに悶え何も出来なかった。彼が非常な選択を迫られている時、支えにもなれなかった。足枷になってしまった。
だから、今度は私が助けるんだ。アルフさんと、彼の心を。
ほら、大丈夫だったじゃないですか。ってアルフさんと一緒にソーマ君にいってあげよう。きっと苦笑いしながら、敵わねえな、とか言ってくれるはずだ。
だから私は!
「うおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉ! やるぞぉおおぉお!」
叫びながら王都を目指す。自分を鼓舞するように。
*****場面遷移*****
走り続けて小一時間。
ようやく見えてきた建物は大きな壁と門。
「あちゃー、あれはあの門通らないと中に入れない感じですかね」
ど、どうしよう。観光です、で通るかな? いや無理があるよね。じゃあ北東の⋯⋯獣人領を目指している旅人です? 荷物は? あーダメだ、通れる気がしない。
「か、壁を殴って壊す⋯⋯」
いやいやいやいや、即犯罪者だよね。あれ? と言うか私⋯⋯鋼杖! ソーマ君の指輪にしまったままじゃない!? ど、どうしよう、魔法は問題ないけど武器がないのは不安で仕方ないよ!
「あわばばばば、どどど、どうしよう!?」
勢いで飛び出してきた挙句に色々問題を思い出し、頭を抱えたい気持ちを抑え、私は機人族の居る関所へ向かい走る。
武力じゃダメだ、頭を使って⋯⋯頭突き? じゃなくて!!
「呼。止まりなさい!」
機人族の守衛さん? からの呼びかけに応じ、ズササササーと急ブレーキをかけ、止まる私。
「問。人族が何用か。見たところ商人ではなさそうだが⋯⋯」
「わ、私は⋯⋯」
考えろ、考えろ⋯⋯。旅人! そう! ソーマ君が言ってたじゃあないですか!
「たび「悩。旅人であった場合は、残念ながらこの街には入れることが出来ないんだが」人なわけないじゃないですかー! やだなーもう!」
旅人NG!! 他は!? あああああ、何も浮かばないぃ!!
こういう時は時間稼ぎ! 何か会話が続きそうな話題⋯⋯話題⋯⋯!
「ち、ちなみに、旅人だと何故この中には入れないんでしょうか?」
「解。人族には関係のないことだ。それで、如何様で?」
ああもう! 機人族さん職務を全うしすぎです!! ど、どうしましょう⋯⋯!
考えに考えた私の頭はパンク寸前で、というかもはやパンクしていて、何故このような行動を取ったのかは、のちの私でもわからないだろう。
私はバックステップで機人族と距離をとり、その場で後方宙返り。着地後に回転足払いをし、そのまま飛び上がり空中で二段回し蹴り。着地と同時に左手をパーで前へ突き出し、右手を顔の横へ掌は外へ向け、足を前後に広げ腰を落とす。
「わ、私は老師チウ。機人族の方々に体捌きを教えに参ったぁ!!」
一陣の風が吹き、機人族の冷たい様な視線が私に突き刺さる。
い、痛ぁ〜、この空気。痛ぁ⋯⋯。
やめてくださいぃ、そんな目で見ないでくださいぃ。頭がまともじゃないのは自分でもわかってるんです。誤魔化すにしてもなんでこんな方法を取ったの私!
「解。貴方が体術指南の先生でしたか。我が軍のために遠路はるばる良くいらっしゃいました」
「ほぇ?」
機人族の言葉が理解できず、反射的に返答してしまうが、どうやら上手く⋯⋯? いった⋯⋯のかなぁ?
「勧。どうぞ中へお進みください」
「あ、ありが⋯⋯うむ! ご苦労である!」
モード老師になりきり、門を潜る私。
すると背後から守衛さんの声。
「告。忘れるところでした、老師チウ、こちらを」
「はい?」
守衛さんに後ろ手に両手を揃えられ、直後に両手首あたりに硬い感覚が。
冷や汗を流しながら、勘違いと信じつつ問う。
「⋯⋯あのぅ、なんか手錠の様な感触がするのですが」
「解。機人族の軍に体術指南など雇うわけがないだろう。賊だ! 賊が入り込んだぞ!!」
微妙にズレた回答! けど両腕を後ろ手に縛られたのは事実! 私はピンチ! 機人族はファンキー!
ってやってる場合か!!
私は門を潜り街へ侵入。中には見慣れない金属の筒の様なものを向ける機人族が、私を包囲する様に大勢いた。
「ソーマ君、やっぱり私、ダメかもしれません」
半泣き半笑いになりながら、私は数時間ぶりにあの破裂音を聞いた。
シリアス一辺倒は疲れるからね
というか続かないわ、あのテンション
ここだけの話、前話は投稿前の誤字チェックで感情移入しちゃって泣きました、だから今回はギャグ多め!!