piece.26 機人族と掟
やあ
ソーマの形をした田中だよ
こういう役回りの宿命だけど、おかしなやつしか俺には寄ってこないらしいね
チウも最初はまともだったんだけどなぁ⋯⋯
え? 俺のせい? ハハッワロス
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「謝。失礼いたしました」
「いや、失礼とかそういう問題じゃなかったんですけど」
「ま、まあ個性がある事は素晴らしい事だな、うん。普通より全然いいぞ、うん」
俺たちはギャル語で騒ぎ立てるアルフと共に司書さんからお叱りを受け、逃げる様に図書館を出た。
逃げる様にというか実際逃げたんだけど。だいぶ早い昼食兼休憩と称して、近場の飯処に入り落ち着いたアルフと話をしていた⋯⋯が。
「いやいや、あれ? 何でいるの?」
「解。お二人と共に図書館を追い出され、目的を達せなくなった為です。ぶっちゃけ暇なので」
「あれー? 段々キャラ崩れてますよー?」
ソーマ君大丈夫なんですかこの人、と耳打ちしてくるチウ。いや、わかるけどさ、目の前で耳打ちって失礼だよチウ君。
かという俺もだいぶヤバイ気配をこのロボ娘から感じていたわけで、大丈夫じゃないだろと返すと、ですよねーと顔を引きつらせるチウ。
そんな俺たちを正面に捉えじっと見つめてくるアルフ。
「あ、悪い。目の前で内緒話なんざ気分悪いよな」
「否。気になさらず。仲良きことは美しきかなですね」
「そ、それで、アルフ⋯⋯さん?はどうして図書館に?」
「あがる〜」
「もういいってそれ」
「解。機人族の呪い、いえ特性ですか、について調べごとを少々」
今何つった? 呪い?
「アルフ、呪いって」
「マヂやばたん!」
「いちいちうるせぇな! そのエセギャルやめろや! 言葉のチョイスが古いんだっつーの!」
「しょぼーん」
「え? 何なのコイツ? まともに会話できないの? 上げてやろうか? 神のところまで」
「ソーマ君抑えて抑えて」
立ち上がり拳を握った俺をチウが羽交い締めにする。
何だこのブレっブレのキャラ設定。これ考えたやつ頭おかしいからな? 俺は深く深呼吸をし、改めて問う。
「で、呪いってのは?」
「解。機人族は職に就けないという事象です」
一瞬、なんだよただのニートの言い訳じゃねえかって思ったが、ここは異世界。
職に就けないというのは、10歳に行われるアレがないって事か?
「つまり機人族は皆、職なし⋯⋯って事か?」
「解。私達には剣士や魔法使いなどの職がありません」
「うー? でもでもそれって、機人族さん達が」
「生命体、人間として認められてねえって事か?」
俺の言葉に顔を伏せるアルフ。どうやら当たりみたいだ。
「ふむ。だがそうなると、冒険者はおろか、まともな職につけないんじゃないか?」
「否。機人族は生まれた瞬間に、機人族の領地にある施設の管理人として就業することになります」
「野垂れ死ぬよりはマシだが、職業選択の自由が本当の意味でないのな」
俺の言葉に2人揃って首を傾げる。知らんで当然だ。
となると⋯⋯疑問は。
「別にお前が初というわけではないんだろうが、なぜ今更そこについて調べてるんだ?」
それこそもう何年も何十年もそうなんだろ? と問うとアルフは歯痒そうな表情を浮かべ答える。
「解。私は⋯⋯一生をモノの様に過ごすのは嫌です」
「というと?」
「悲。生まれてから機能を停止するその時まで、パーツの様に歯車の様に、その施設だけをみて終える⋯⋯そんなの、人じゃないじゃん!」
声を震わせそう言うアルフ。言ってることは分かるし、なんとかしてあげたい。
だが神の定めた法を捻じ曲げるのは、この世界に住む人間じゃ不可能に近い。
こういう時にアルバがひょっこり出てきてどうにかしてくれりゃいいのに。
「呼んだぁ?」
「あん? 何だアルバか、今忙しいから⋯⋯って、は?」
「げぇ!? アルバさん!?」
いや何も、そんな某三国志風に驚かなくても、チウの女子指数も下がりつつあるのか?
そんな事より今はアルバだ。
「おいアルバ。お前には聞きたいことが⋯⋯」
「田中君、機人族のそれは仕様よぉ。どうにもできないわぁ」
「その仕様を捻じ曲げて、俺やチウの様な呪い憑きを発生させたのはどこのどいつだよ」
「さぁ? 私しーらなぁい」
数日ぶりに感じるこのイラつき。正しくアルバ。
拳を握りしめプルプル震えている俺へアルバが続ける。
「田中君? 貴方達囲まれてるわよぉ?」
「は?」
「そこの機人族のボインちゃん。もしかして仕事放っぽり出して来ちゃったんじゃなぁい?」
「⋯⋯アルフさん?」
俺が呆け、チウが恐る恐るアルフへ問い掛ける。
「⋯⋯てへぺろっ☆」
右手をグーで、軽く頭に当てウィンクするアルフに俺が飛び掛かったのと、飯処のドアが乱暴に開け放たれたのはほぼ同時のことだった。
「申し訳ございません。ここに我ら機人族の不良品が紛れていないか調査にきた次第です。人族の皆様方にはご迷惑をおかけいたします」
ドアを開け放ち入ってきた男性は、スラッとした長身の男性。耳にはアルフと同じ様な機器が付いている。
俺は厄介事に巻き込んでくれた文句をグッと飲み込み、アルフへ事態を問う。
「おい、コイツはどういうこったい」
「焦。まさかこんなに早く追っ手がかかるとは」
「あの人に捕まると、アルフさんどうなるんです?」
「良くて記憶消去、悪くて廃棄ねぇ」
「どちゃくそピンチじゃねえか!」
コイツを放っておくか、それとも。
チウが俺を見つめる。
「お任せします、といってももう決めているんでしょう?」
「んだよ、察しがいいじゃねえか」
「懇。見捨てて下さい。今なら私を差し出した報酬も出るでしょう。貴方方に非は有りませんし、庇う理由も「うっせーよ」⋯⋯!」
迷うそぶりは見せたが、入ってきたアイツが発した言葉を聞いた瞬間に、取る行動は決まっていた。
「俺はよ、人に対して“使えねえ”とかいうやつ嫌いなんだよ」
「疑。何の話を」
俺はアルフの言葉を遮り続ける。
「お前はモノ扱いされて嬉しいか?」
「っ」
「嫌だよな、さっきもあんなこと言ってたんだ」
俺はゆらりと立ち上がり、入ってきた男の前に立つ。
「問。少年、そこの機人族の不良品を回収に来た。渡してくれるかな?」
「おい」
俺は完全に不意打ちで、男の顔面を小ジャンプと共に殴り飛ばした。
「てめぇの仲間、モノ扱いしてんじゃねえよ。何だ不良品って。舐めたマネも大概にしろよ」
「g、疑! 少年何を!?」
「黙れや、お前らが自分のこと鉄クズするなら俺は何にも言わねえよ。だけどアイツを、アルフを同じ鉄クズ扱いすんじゃねえ」
「⋯⋯嘲。少年は、我ら機人族の慣習を知らない様だ」
俺は機人族の男が話すのを黙って聞く。
男はゆっくり立ち上がり、続きを話す。
「告。機人族は生まれてから、与えられた事を従順にこなす機械でなければならない。これは慣習で有り掟だ。破る物は不良品と呼ばれてもっ!?」
男がドアを打ち破り外へ吹き飛ぶ。俺と男の間には拳を突き出したチウ。
「聞くだけ無駄でしたね。これからどうしますか?」
「⋯⋯アルフ、どうしたいんだよ」
俺はあえてアルフへ問い掛ける。
「⋯⋯どうして?」
「あ?」
「どうしてあんなことを! 知らないフリをすれば! 私を差し出せば貴方達は」
俺とチウはアルフの言葉を遮り告げる。
「俺はソーマってんだ」
「私はチウです!」
「っ、何を⋯⋯」
「もう知らねえ仲じゃねえな? それに繰り返させるんじゃねえよ」
俺は眉と口角を上げ、アルフに言う。
「俺はアイツがムカついたから殴った、それだけだよ」
「アルフさんはどうしたいんですか?」
「わた、私は⋯⋯」
顔を伏せて、アルフが小さく溢した願い。
───人になりたい
───機人族が人として扱われる様に したい
それを聞いて俺とチウは顔を見合わせて笑い、頷く。
「じゃ、決まりだな」
「ええ、それならやることは一つ」
「「機人族に殴り込みだぁ!!」」
俺とチウは拳をぶつけ合い、そう宣言する。
それを見てアルフは涙を流しながら、困った様な顔で笑う。
間違ってるかもしれない、機人族と他種族の関わり合いも、機人族の内情も何も知らないでこんな決断をするのは。
でもあの自称鉄クズが言っていることが本当なら、機人族全体が腐った掟と慣習という呪いに侵されているなら。
俺は助けたいと思う。アルフも、機人族も。
アルバ&他の客「( ゜д゜)」