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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
21/43

piece.20 黒髪と真実

 やあ

 ソーマの振りをした田中だよ。

 面倒ごとって忙しい時に限って列挙してくるよね。


********************


「ちぇ、チェンジ⋯⋯?」


 ニヤリとした顔で、口元と眉を震わせながらそのように呟く黒髪ロング。


「チェンジだよチェンジ。俺たちは今疲れてるんだ。今ぐらいはそっとしておいてくれ」


 俺はそっと目を瞑ると、しっしと手を振る。


「どうしたんですか? ソーマ君? 独り言がすぎますよ?」

「お前さぁ、俺1人に押し付けるなよ。見えてない風やめろって」

「ワターシナンノコートカワカリマセーン」

「お前地上に戻ったら覚悟しとけよ」


 チウがビクゥと身体を震わせ、こちらを見る。

 俺はあえてチウを見ず、深くため息をついてから、身体を起こして黒髪ロングと向き合う。


「⋯⋯で? 全部教えてくれるのか?」


 俺が問うと、黒髪ロングは少し悩んだ風に顎に手を当て、少し考えたのち、俺に向けて何かをつまむような手の形を見せ、言う。


「ちょっとだけねぇ」


 ムカつくこの女!

 と額に青筋を浮かべながら、返す。


「じゃあそのちょっととやら話せ。今最高に頭にきてるから気を付けろよ?」

「え〜ちょっとした冗談じゃなぁい」

「俺疲れてるって言ったよね? あれ? 話通じてないのかな?」


 そう言いながら右腕を剣とし、地面へ突き刺す。


「わかったわぁ、じゃあ気になることちょっとだけ教えてあげるからぁ、質問なさぁい」

「クネクネするな、シナを作るな! あーもうこいつうぜぇ!!」


 俺は頭を掻き毟りながら、叫ぶ。

 チウも少しばかり回復したのか、身体を起こし、黒髪ロングへ問う。


「じゃ、じゃあ貴女の名前をお聞きしてもいいですか?」

「あ〜言ってなかったわねぇ。私の名前はアルバ。この質問はちょっとに入れないでおいてあげるわぁ」

「あたりめーだろうが、ぶっ飛ばすぞ」

「そ、ソーマ君! 落ち着いて!」


 立ち上がり拳を握り込む俺を抑えるチウ。


「やだぁそんなに怒らないでよ田中くぅん」

「⋯⋯」


 一瞬で俺は頭に登った血がスッと下がり、冷静になった。

 ここよりこいつの一挙手一投足を見逃すわけにはいかず、言葉についても聞き逃すことは許されないことを理解したからだ。


「えっ? タナカ? え? ソーマ君タナカ君?」

「落ち着けチウ、後でちゃんと話す。⋯⋯で? それを話すことでお前は何を望んでいるんだよ」

「あらぁ別にぃ? 貴方の慌てふためく姿が見たかっただなんてぇ、思ってないわよぉ?」


 俺はまた頭に血が登りそうになるのを、グッと堪え、アルバを睨みつける。

 次いで息を大きく吸ってゆっくり吐くと、アルバへ問いかける。


「一つ目だ。お前は俺の敵なり得る存在か?」

「⋯⋯敵にはならないはずよぉ?」


 なんだその曖昧な回答は。


「ただし、今後対立することがないとは言えないわぁ。本質的に敵ではない、と言っておきましょうかぁ」

「二つ目。お前はこの呪いと言われるものの関係者だな? 何故俺のピンチに現れた?」

「サラッと2つ質問するのはずるいわねぇ。まぁいいけどぉ」

「あ! 私の時もいらっしゃりましたよね!」


 チウがそういうと、アルバはチウの頭を撫でながら俺たちへこう告げる。


「本来の能力を取り上げられた人が、どうやって戦うのか、どう成長するのか、気になるからよ」


 先程までののったりした話し方ではなく、キチッとした話し方で話す。


「取り上げたのはお前だろうが」

「決めつけはダメよぉ」


 躱されたか。そこは話せないところという事か? まあ、まだそこはいい。


「じゃあ三つ目。これは呪いなのか?」

「え? ソーマ君、能力を奪われているようなものなんですよ? 呪いじゃなくてなんなんですか」

「そりゃそうなんだが、ここまで聞いた話をまとめると、俺の中でこれは呪いではなく、枷なんじゃないかと思ってな。重りと言ってもいい」

「⋯⋯驚いたわぁ。聡明ね田中君」

「田中はやめろ、今はソーマだ」


 アルバは驚愕を顔に浮かべ、本当に驚いているようだったが、ここまで材料が揃えば予想はつくだろ。

 まあ、全てブラフでただの嫌がらせとかという線もあるが。


「だけど、それも今はひ・み・つ」


 人差し指を口に当てウィンクするアルバ。


「⋯⋯はぁ。まあいい。じゃ最後だ」

「あらぁ? もう良いのかしらぁ?」

「どうせもっと踏み込んだ話をしても全部躱すだろ。時間の無駄だ。俺はもう帰って寝たい」

「ぶっちゃけすぎですソーマ君⋯⋯」

「正直なのは美徳だけどぉ⋯⋯」


 うるせえ。何で2人揃って残念そうな顔を俺に向けるんだよ。


「あーはいはい。じゃ最後な。⋯⋯この異常はお前が起こしたのか?」


 俺の言葉に薄く笑い、徐々に透過していくアルバ。

 あ! この野郎煙に巻いて逃げる気か!? そう考えた矢先、脳内に声が響く。アルバとは違うあの時の声だ。


───貴方は1人目

───彼女は2人目

───異常は何回目?


 その声に集中している間にアルバの姿は消えていた。どうやらチウも同じように声を聞いていたらしく。


「ソーマ君、私すごい嫌な予感がするんですけど」

「奇遇だな、俺もだ」


 取り敢えず地上に戻ったら、爺さんに同じような事が起きてないか確認するのと、飛びっきりの報酬を貰わないとな。

 俺とチウは再度地面に仰向けで倒れ、目を瞑る。


 遠くから扉の開く音と、俺たちを呼ぶ声が聞こえながらも、眠りに落ちていった。


*****視点変更*****


 一面真っ白な世界に、椅子が2つに机が1つ。黒髪の女性と、同じく黒髪の少女が向かい合って座っている。

 女性はアルバ。もう片方は⋯⋯。


「ねえ、ワルド? あれでよかったのかしらぁ?」


 アルバに問われた少女、ワルドは薄く笑いながらこう返す。


「うん。ありがとうアルバ」

「どう致しましてぇ」


 アルバは手元のティーカップを口元に持っていき、中身を啜ると顔を顰める。


「⋯⋯ワルド。このカップには合わないから、緑茶はやめたほうがいいんじゃないかしらぁ?」

「カップと中身で味が変わる事はない」


 そう言いズズッと緑茶を啜るワルド。


「うん。んまい」

「⋯⋯はぁ〜。それでぇ? ほとんど答えを話してきちゃったわけだけどぉ」

「うん。アルバのおかげで、気づいたはず」

「覚醒の条件?」


 アルバの問いをふるふると首を振って否定し、ワルドはこう告げる。


「私たちの目的。きっと彼なら、新しい成長の、進化の方向を見つけ、そして導いてくれるはず」


 だから、とワルドが続けようとするのを遮りアルバが続ける。


「彼らに試練を、世界に進展を、ね」

「うん。ごめんねアルバ。悪者にしちゃって」

「良いのよぉ、私は調停者だからぁ」


 2人は顔を合わせて微笑み合う、仲の良い姉妹に見えた。



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