piece.20 黒髪と真実
やあ
ソーマの振りをした田中だよ。
面倒ごとって忙しい時に限って列挙してくるよね。
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「ちぇ、チェンジ⋯⋯?」
ニヤリとした顔で、口元と眉を震わせながらそのように呟く黒髪ロング。
「チェンジだよチェンジ。俺たちは今疲れてるんだ。今ぐらいはそっとしておいてくれ」
俺はそっと目を瞑ると、しっしと手を振る。
「どうしたんですか? ソーマ君? 独り言がすぎますよ?」
「お前さぁ、俺1人に押し付けるなよ。見えてない風やめろって」
「ワターシナンノコートカワカリマセーン」
「お前地上に戻ったら覚悟しとけよ」
チウがビクゥと身体を震わせ、こちらを見る。
俺はあえてチウを見ず、深くため息をついてから、身体を起こして黒髪ロングと向き合う。
「⋯⋯で? 全部教えてくれるのか?」
俺が問うと、黒髪ロングは少し悩んだ風に顎に手を当て、少し考えたのち、俺に向けて何かをつまむような手の形を見せ、言う。
「ちょっとだけねぇ」
ムカつくこの女!
と額に青筋を浮かべながら、返す。
「じゃあそのちょっととやら話せ。今最高に頭にきてるから気を付けろよ?」
「え〜ちょっとした冗談じゃなぁい」
「俺疲れてるって言ったよね? あれ? 話通じてないのかな?」
そう言いながら右腕を剣とし、地面へ突き刺す。
「わかったわぁ、じゃあ気になることちょっとだけ教えてあげるからぁ、質問なさぁい」
「クネクネするな、シナを作るな! あーもうこいつうぜぇ!!」
俺は頭を掻き毟りながら、叫ぶ。
チウも少しばかり回復したのか、身体を起こし、黒髪ロングへ問う。
「じゃ、じゃあ貴女の名前をお聞きしてもいいですか?」
「あ〜言ってなかったわねぇ。私の名前はアルバ。この質問はちょっとに入れないでおいてあげるわぁ」
「あたりめーだろうが、ぶっ飛ばすぞ」
「そ、ソーマ君! 落ち着いて!」
立ち上がり拳を握り込む俺を抑えるチウ。
「やだぁそんなに怒らないでよ田中くぅん」
「⋯⋯」
一瞬で俺は頭に登った血がスッと下がり、冷静になった。
ここよりこいつの一挙手一投足を見逃すわけにはいかず、言葉についても聞き逃すことは許されないことを理解したからだ。
「えっ? タナカ? え? ソーマ君タナカ君?」
「落ち着けチウ、後でちゃんと話す。⋯⋯で? それを話すことでお前は何を望んでいるんだよ」
「あらぁ別にぃ? 貴方の慌てふためく姿が見たかっただなんてぇ、思ってないわよぉ?」
俺はまた頭に血が登りそうになるのを、グッと堪え、アルバを睨みつける。
次いで息を大きく吸ってゆっくり吐くと、アルバへ問いかける。
「一つ目だ。お前は俺の敵なり得る存在か?」
「⋯⋯敵にはならないはずよぉ?」
なんだその曖昧な回答は。
「ただし、今後対立することがないとは言えないわぁ。本質的に敵ではない、と言っておきましょうかぁ」
「二つ目。お前はこの呪いと言われるものの関係者だな? 何故俺のピンチに現れた?」
「サラッと2つ質問するのはずるいわねぇ。まぁいいけどぉ」
「あ! 私の時もいらっしゃりましたよね!」
チウがそういうと、アルバはチウの頭を撫でながら俺たちへこう告げる。
「本来の能力を取り上げられた人が、どうやって戦うのか、どう成長するのか、気になるからよ」
先程までののったりした話し方ではなく、キチッとした話し方で話す。
「取り上げたのはお前だろうが」
「決めつけはダメよぉ」
躱されたか。そこは話せないところという事か? まあ、まだそこはいい。
「じゃあ三つ目。これは呪いなのか?」
「え? ソーマ君、能力を奪われているようなものなんですよ? 呪いじゃなくてなんなんですか」
「そりゃそうなんだが、ここまで聞いた話をまとめると、俺の中でこれは呪いではなく、枷なんじゃないかと思ってな。重りと言ってもいい」
「⋯⋯驚いたわぁ。聡明ね田中君」
「田中はやめろ、今はソーマだ」
アルバは驚愕を顔に浮かべ、本当に驚いているようだったが、ここまで材料が揃えば予想はつくだろ。
まあ、全てブラフでただの嫌がらせとかという線もあるが。
「だけど、それも今はひ・み・つ」
人差し指を口に当てウィンクするアルバ。
「⋯⋯はぁ。まあいい。じゃ最後だ」
「あらぁ? もう良いのかしらぁ?」
「どうせもっと踏み込んだ話をしても全部躱すだろ。時間の無駄だ。俺はもう帰って寝たい」
「ぶっちゃけすぎですソーマ君⋯⋯」
「正直なのは美徳だけどぉ⋯⋯」
うるせえ。何で2人揃って残念そうな顔を俺に向けるんだよ。
「あーはいはい。じゃ最後な。⋯⋯この異常はお前が起こしたのか?」
俺の言葉に薄く笑い、徐々に透過していくアルバ。
あ! この野郎煙に巻いて逃げる気か!? そう考えた矢先、脳内に声が響く。アルバとは違うあの時の声だ。
───貴方は1人目
───彼女は2人目
───異常は何回目?
その声に集中している間にアルバの姿は消えていた。どうやらチウも同じように声を聞いていたらしく。
「ソーマ君、私すごい嫌な予感がするんですけど」
「奇遇だな、俺もだ」
取り敢えず地上に戻ったら、爺さんに同じような事が起きてないか確認するのと、飛びっきりの報酬を貰わないとな。
俺とチウは再度地面に仰向けで倒れ、目を瞑る。
遠くから扉の開く音と、俺たちを呼ぶ声が聞こえながらも、眠りに落ちていった。
*****視点変更*****
一面真っ白な世界に、椅子が2つに机が1つ。黒髪の女性と、同じく黒髪の少女が向かい合って座っている。
女性はアルバ。もう片方は⋯⋯。
「ねえ、ワルド? あれでよかったのかしらぁ?」
アルバに問われた少女、ワルドは薄く笑いながらこう返す。
「うん。ありがとうアルバ」
「どう致しましてぇ」
アルバは手元のティーカップを口元に持っていき、中身を啜ると顔を顰める。
「⋯⋯ワルド。このカップには合わないから、緑茶はやめたほうがいいんじゃないかしらぁ?」
「カップと中身で味が変わる事はない」
そう言いズズッと緑茶を啜るワルド。
「うん。んまい」
「⋯⋯はぁ〜。それでぇ? ほとんど答えを話してきちゃったわけだけどぉ」
「うん。アルバのおかげで、気づいたはず」
「覚醒の条件?」
アルバの問いをふるふると首を振って否定し、ワルドはこう告げる。
「私たちの目的。きっと彼なら、新しい成長の、進化の方向を見つけ、そして導いてくれるはず」
だから、とワルドが続けようとするのを遮りアルバが続ける。
「彼らに試練を、世界に進展を、ね」
「うん。ごめんねアルバ。悪者にしちゃって」
「良いのよぉ、私は調停者だからぁ」
2人は顔を合わせて微笑み合う、仲の良い姉妹に見えた。