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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
19/43

piece.18 ボス戦とチウの想い

 やあ

 ソーマかと思った?残念田中でした!

 ずば抜けて慎重な人っているよね。細胞レベルで慎重な人というか。

 そういう人じゃないと油断をしないってのは無理なんじゃないかなって思いました。


 俺とチウが揃って駆け出し、魔物の軍勢へ迫る。

 魔物も見ているだけではなく、お供の最も外にいる奴らが一斉に動き出し、こちらへ向かってきた。

 魔物が俺たちの周りに集まり始めたその時、チウが鉄杖の末端あたりを両手で握り、横に大きく振りかぶる。


「ソーマ君! ちょっとだけ跳んでください!」

「ちょっおまっ!」


 俺は脳筋が何をするか理解し、チウの頭上あたりまで跳び上がり、それを確認したチウが集まりつつある魔物たちが射程圏内に入った瞬間鉄杖を振り回す。

 面白い様に弾け飛んでいく魔物たち。鉄杖に触れた魔物は体のどこかが吹き飛んでおり、辺りに魔物の肉片がばら撒かれる。


「うぇっぐっろい⋯⋯」


 チウが行動を終えた後に着地し、あたりを見渡しそう呟く俺。これが最新鋭の魔法使いの戦い方か。


「っとくだらない事考えてないで、働かないと、なっ!!」


 怖じけず飛びついてきたウルフ2匹を両手のみ剣とし、切り捨てる。

 これが俺の鍛錬の成果である部分剣(パーツ・ソード)である。

 指定した部位のみ全身剣(オール・ソード)の効果を及ぼし、部分的に剣と化すことが出来る。防御などを考えた場合、問答無用で全身剣(オール・ソード)を使用する方がいいのだが、魔力消費が激しいので、攻撃の瞬間のみ部分剣(パーツ・ソード)を使用することで、長時間の戦闘を可能とした。

 実はチウに習って俺も一日中全身剣(オール・ソード)を維持しようとしたことがあったのだが、結果は1時間も持たない結果となり、その後それを繰り返しても大して魔力が伸びなかったので、別の方法を模索したわけである。


「これだけの大群相手だと防御面が不安だが⋯⋯!」


 そう呟きながらも近づいてきたワーウルフをなます切りにし、キングウルフをチラ見する。

 この程度の数やられた程度では動かないということか? まあお供に集中出来るからありがたいんだが、不気味だな。

 その後背後のチウをチラ見すると、元気に鉄杖を振り回して魔物を撲殺していた。


「とぉりゃー!!」


 2週間で頼もしい前衛となったもんだ。これで更に後衛が増えればかなり⋯⋯っと。いかんいかん、チウを俺の都合で今後の旅に付き合わせるわけにはいかない。

 そう考え事をしている間も絶え間なく襲い来るウルフ・ワーウルフを処理し続けると、若干攻め手が緩くなった様に思い、一息つく。


「チウ、気付いてるか?」

「はい。魔物の勢いが大人しくなりましたね」


 俺たちは背中合わせに言葉を交わすと、周囲を見回す。魔物たちは先ほどまでの様に苛烈に攻めず、タイミングをずらし数匹ずつ襲いくる様になった。

 やべえな。この状態が続くとまずい。いつ来るかわからない攻撃に常に備えなければならないこの状態は、常に攻め続けられるよりも、心身ともにきつい。

 人数が少ない俺たちには体力切れ、集中力切れは致命的。どちらかが動けなくなった時点で終わりだ。


「一か八か⋯⋯。ぜアッ!!」


 俺は構えを解き、指輪から長槍を取り出すと同時に、キングウルフの顔面めがけ全力で投擲した。

 俺からの突然の遠距離射撃にお供は反応出来ず、キングへ槍が迫り、キングの左目に突き刺さる。


「グギャアアアアァァァアアアアアァアァア!!?」


 キングが悲鳴を上げた瞬間、お供が動きを止め一斉にキングの方へ視線を向ける。


「チウ!」

「わかりました!」


 その隙に俺たちは横並びになり、全力でキングへ向けて駆ける。道中のお供を蹴散らしながら。

 俺たちの急な攻勢に慌てるお供たちだが、キングが呻いている今、指揮系統が機能せず、動きに繊細さがない。

 どんどんお供を駆逐し、キングに迫る俺たちだが、もう少しと言うところで目の前にワーウルフが立ちはだかる。

 とは言えもうワーウルフ程度であれば、俺はもちろんチウの障害にもなり得ない。


「ソーマ君! 私が!」

「頼む! 道を開いてくれ!!」

「おおおおおりゃあああ!!!」


 チウがぴょんと跳び、上段から唐竹割りの要領で鉄杖をワーウルフに叩きつける。

 ワーウルフは崩れ落ち、キングへの道が⋯⋯っ!!


「チウ! 危ねえ!」

「えっ?」


 ワーウルフの後ろから高速で飛来する直径50cmほどの氷柱、キングウルフの怒りに塗れた表情が見える。

 あいつ魔法も使えるのか!


「くそっっっったれがぁ!!」


 俺は走っていた勢いそのままにチウの前に飛び出ると、氷柱の横っ面に回し蹴りを叩き込む事で軌道をずらす。


「⋯⋯はぁ、はぁ、ぎ、ギリギリセーフ」

「ありがとうございますソーマく、んっ!?」


 チウの声が跳ねる、何があったのか聞く前に俺は周囲を見渡しチウの驚きの理由を把握する。

 俺とチウを取り囲むお供の群れ。さらにその外から先ほどの氷柱がドーム状に、俺たちを覆っていた。

 あのデカイ氷柱を片腕で凌ぐのは不可能、圧倒的に手数が足りない。それ以前に面攻撃に対する対処方法を俺たちは有していない。

 流石に絶体絶命⋯⋯かもしれんな。


「⋯⋯なるべくお前を守る。だからお前だけでも」

「嫌です! どうにかなるはずです! 何かあるはずです! 突破口が⋯⋯何か⋯⋯!」


 そうしている間にもお供と共に、氷柱が迫る。

 俺は地べたに座り込んだチウを抱きしめ、なるべく俺にだけ攻撃が当たる様に包み、全身剣(オール・ソード)を発動。

 ただ死ぬのが先送りになるだけかもしれない、それでも俺はそうせずにはいられなかった。


*****視点変更*****


 ソーマ君が私を抱きしめ、あらゆる攻撃から守ろうとしてくれている。

 また私はこの小さな身体に守られている。強くなったと、一緒に戦えると舞い上がっていた自分がバカバカしくなる程の無力。


 この世界は理不尽でいつも私に意地悪をする。


 魔法使いになってから4年。ほとんど魔法を使わずに過ごした4年。

 魔法使いになって喜んだ家族。呪い憑きである事がわかり落胆と悲しみの混じった感情を浮かべる家族。

 呪い憑きを排出した家という事で家族は放逐され、私は家族からも捨てられた。

 それでも明るく元気に生きていれば、職を明かさなければ、きっと人並みに生きていけると思った。


 ダメだった。何をするにも身分証は必要だし、身分証には職業が明記される。魔法がまともに使えない私は直ぐに呪い憑きだとバレた。

 そんな事を繰り返したある日、やけになってダンジョンに潜った。

 呪い憑きでもダンジョン攻略ができると証明したかった。

 その結果、呪い憑きでもと仲良くしてくれた友達に心配をかけた。

 そして今、呪い憑きの私を救ってくれた彼を命の危機にさらしてしまっている。


 世界は意地悪で、

 私はどこまでいっても無力で、

 人に迷惑をかけることしか出来ない。


 それでも私は。


 私は⋯⋯諦めたくない。


 彼に恩返しが出来てないし、彼とまだ一緒にいたい。


 呪い憑きの魔法使いでもやれるって事を証明できてない。


 女の子っぽいことも何も出来てない。


 色んな感情が混ざって混ざって、最後に私の心に浮かんだ言葉は。


───彼と共に生きて、世界を見返してやりたい


 気づけば周囲の氷柱や魔物が全てその動きを止め、私の隣に黒い髪の綺麗な人が立っていた。


───素敵な願いね


 え? 


───でも貴女も彼もここで死んじゃう


 やだ


───だってどうしようもないでしょ?


 嫌だ


───⋯⋯⋯じゃあどうするの?


 彼を守れるだけでいい、それだけの力が欲しい


───どうするの? あの氷柱はどうしようも


 私は魔法使い。魔法が使えない魔法使い。

 だからこそ、魔法を使用する者を認めない。

 魔法を認めない。


───⋯⋯アハッ

───アハハハハハッ

───本当に面白いわ、貴女たち


 気づけば黒い髪の女性は消えていた。

 でももうわかった。やる事が、やれる事が。

 私は固まったソーマ君から抜け出し、鉄杖を周囲へ向けて振り、氷柱達を見つめ想う。


 どうしてあなたたちは存在しているの?

 誰が許したの? 認めない、私に手に堕ちて、墜ちなさい。

 

───新たなスキル“魔力掌握(マジックコントロール)“を獲得しました


 脳内に響いたスキル獲得の声に呼応する様に、振られた鉄杖から薄い膜の様なものが出力されドーム状に広がっていき、私たちを包む。

 先ほどまで止まっていた私以外の全てが動き出し、氷柱が幕に触れるたびにそのまま垂直に落ち、魔物を巻き込み割れていく。


 腕から抜け出した私と、周囲の状況をポカンとした目で見やりながら彼は。


「あ、あるぇ〜? カッコつけたはずなのに状況が一変してる?」


 そんな間の抜けた声を出すものだから、こんな状況なのに私は少し笑ってしまって。


「ソーマ君、これからは私も君を守るから!」


 そう宣言するのであった。

抱きかかえた時チウが血だらけになってないか、それだけが心配

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