piece.17 ボス部屋とボス
やあ
ソーマのような田中だよ。
ダンジョンとか迷宮とかゲームとかで見てるとワクワクするよね。
でもリアルで入るとそんな余裕ないんだわ。
ダンジョンへ飛び込み、走って戦闘して走って戦闘してを繰り返し約1時間。
「チウ、少し休憩しようか」
「私はまだまだ元気ですよ!」
「俺もまだまだ行けるが、今このダンジョンは普通じゃないし、何より俺たちもダンジョンに潜る事に慣れているわけじゃない。急がないといけないが、慌てる必要はないはずだ」
「むぅ⋯⋯わかりました」
チウはやや不満げな顔をしつつも頷き、通路の端に寄り腰を下ろす。
俺もチウの隣に腰を下ろすと、潜り始めてどんな感じか世間話を始める。
「チウはダンジョン攻略は初めてなのか?」
「この前助けて頂いたのを含めるなら2回目ですね」
「じゃガッツリ潜るのはお互い初めてって事だな」
うーん、よくよく考えると全てが初めてな2人が調査をするってのはハイリスク過ぎると思うんだよなぁ。
ダンジョン攻略って戦闘だけが出来れば良いわけじゃないし、もちろん戦闘がある程度できるのは前提な訳なんだけどさ。
ペース配分、マッピング、休憩の取り方、思いつくだけでも意識しなければならない事は沢山ある。
俺の二次元知識でどこまでカバーできるかってところはあるな⋯⋯。
「チウ、水分や食料は大丈夫か?」
「食べ物は大丈夫です、水は少し頂けますか?」
「ほいよっと」
俺は指輪から水筒を取り出しチウへ渡す。チウは水筒から直に水を飲み、お酒のビールのCMのおっさんのような仕草をする。
「んぐっんぐっ⋯⋯っぷはぁ!! やっぱ凄いですねその指輪! いつでも冷たいなんて素敵です!」
「だよな、お袋には感謝してもし足りねえわ」
チウから水筒を受け取り、俺も幾らか水分を補給する。
その様子をチウが顔を赤くしながら見ていた。
「んぐっ⋯⋯っはぁ。⋯⋯どうしたチウ」
「はぇ!? い、いや! なんでもないでげす!」
「でげす? まあいいか」
俺は指輪に水筒を収納すると立ち上がり、地面に触れていた箇所を軽くパンパンと払う。
「今ここって何階だっけ?」
「階段を3回は降りた記憶がありますね」
「つーことはここは地下4階。このダンジョンって何階まであるか知ってるか?」
「確か5階層⋯⋯だったと思います」
「じゃああと一つ降りればボスがいる階層に行けるって事だな」
チウも立ち上がり、両腕を上へ向けグーっと伸びをする。
「もう休憩はいいんですか?」
「体力的には問題ないだろう。少しでも調子がおかしくなったらまた休憩を挟もうと思うが」
「あと1階ですよね? 調査団の方々も心配ですし、パパッといっちゃいましょう!」
そう言い鉄杖をブンブン振り回すチウはもはや魔法使いには見えなかったが、彼女はそれでいいのだろうか。
「そこらの魔物にやられるような事はないと思うが、油断せずに行こう」
「了解です!」
俺たちは再び下層を目指し歩き始めた。
*****場面遷移*****
休憩後十数分ほど歩いた地点で、地下5階に降りる階段を発見。
「これを降りたらボスのいる階層か」
「基本的にボス階層にはボスしか存在せず、ボスは一定の領域から出てこないというのがダンジョンの基本的な形です」
「となるとボス部屋みたいのがあるってことか」
俺はそれを聞いて地球のMMORPGを思い出す。
レイドボスだとかああいったのは入室人数とかが決まっていたりしたもんだが、そういうのもあるのだろうか。
まるでゲームのような話に内心苦笑しながら、俺は階段を降り始め、チウも続いて歩き始める。
「ボス部屋に入ったら逃げられないとかあるのか?」
「特には聞いたことはないですね」
「最悪とんずらするのも視野に入れて、やばくなったらお互いを残しても脱出する気でいてくれ」
「嫌です」
即否定され若干たじろぐ俺を見据え、再度言い切る。
「嫌です。私を見捨てさせるのも、私が見捨てるのも嫌です。だから私は、そういう状況が発生したらこの拳で最良の結果を掴み取って見せます!」
「⋯⋯はぁ。まあ、俺もそういう状況にならないように上手くやるさ」
色々と言いたいことはあるけど、拳でてお前⋯⋯。
最悪こいつは逃してあげないとな。俺は⋯⋯まあ死んだら死んだで、転生神に文句でもいってやるかな。
そんな事を軽く考えながら階段を降り切った瞬間、地上で聞いたあの声が直ぐそこから聞こえてきた。
「っ! この声は⋯⋯!」
「地上で聞いたやつですね。 やはりボスのものだったのでしょうか?」
「その可能性が高いな」
そう言葉を交わしながら、ボス階層を進むと、目の前に大きな扉が閉まった状態で現れた。
「この扉がボス部屋の?」
「私も実際に見るのは初めてなので、断言は出来ませんが⋯⋯」
この中に声の主と思われるボスがいる。
魔物の漏出⋯⋯というかありゃもう氾濫だが、そして異常な魔物の行動。その原因があるかも知れない。
俺たちは扉へ近づき、手を添える。
「中を見ないで帰れはしないしな。よし! 開けるぞチウ!」
「はい!」
俺とチウは一緒に扉を押す。少し力を入れただけで扉はスッと開き、扉の中の空間が露わになる。
「っ! こいつが、キングウルフか!」
部屋の中央付近に佇む体長5メートル程にもなる大きな狼。それの周りには夥しい数のウルフとワーウルフがお供のように佇んでいる。
「周りにいるお供も洒落にならないですね⋯⋯っ!?」
チウが何かを見つけ、震える。
「どうした、チウ」
「ソーマ君⋯⋯あれ、血ですよね? その周りのものは⋯⋯」
チウが指差すのはキングウルフの足元に広がる血溜まり。そしてその周囲には、幾つもの肉片や、ちぎり取られたような状態の人間の四肢や頭が転がっていた。
「チウ! 一度部屋から出るぞ! なんか嫌な予感がっ!?」
俺が撤退を言い切る前に後ろでドアが閉まる。
駆け寄ってドアを押したり引いたりするも、びくともしない。
「ソーマ君もしかして⋯⋯」
「どうやら閉じ込められたらしいな⋯⋯!」
前情報と違う仕様と、人間の惨たらしい死体。今動揺し、パニックになれば2人ともあの死体の仲間入りするのは想像に難くない。
「チウ、悪い。俺の見積もりが浅かった。異常な状況のダンジョンだし、これぐらいは予想しとくべきだった」
「いえ、大丈夫ですよ。だってやる事は、変わってないって事ですよね?」
そう言って鉄杖を構えるチウ。それを見て、俺はチウを守る様に前に立ち告げる。
「ありがとな。⋯⋯基本的にはお互い付かず離れず戦って、分断されない様に立ち回るぞ!」
「了解しました!」
「まずはお供を減らす! デカイのがきたら俺が相手をして抑える、その場合お供は全てお願いする事になるが頼む!」
「合点承知です!」
「いくぞっ!!」
こうして俺の異世界初のボス戦が異色な形で幕を開いた。