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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
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piece.16 漏出と依頼

 やあ

 思わぬ事態って思わぬ時や場所で発生するからそういうんだよね。

 田中が蔓延るソーマです。

 細道を抜けたら⋯⋯魔物がワンサカおりましたとさ。


「そ、ソーマ君!! 大変です! 街が⋯⋯街が!!」

「⋯⋯」


 俺は顎に手を当て、魔物の行進を見ていた。

 列を乱さずゆっくりと街の中心へ向かう彼らは、異常な光景に見えた。

 周囲の人を襲うわけでもなく、ただダンジョンからゆっくりと溢れ出てきている。

 俺は溢れ出る魔物より、統率されたその行進の方が気味が悪く、嫌な予感を沸々と湧き上がらせた。


「ソーマ君!!」


 俺へ詰めより名前を叫ぶチウの肩に手を置き、落ち着かせようと返答する。


「落ち着けチウ。こういう時こそ俺たち戦える人間は冷静かつ正常な行動を取らなければならないんだよ」

「!」


 俺がそう伝えると、チウは大きく深呼吸を行い、両手で顔をパチンと叩く。


「ごめんなさい。取り乱しました」

「いや、パニックにならなくてよかったよ。こういう際は的確な行動を取れる人間か、ちゃんと指示を聞く人間が重宝されるからな」


 そこまで話し、一息置いてチウへお願いをする。


「ギルドマスターにこの事態に対しての対応を聞いてきてくれ」

「わかりました! ソーマ君は?」

「とりあえずここで様子を見る。いきなり暴れ出したら俺が矢面に立って非戦闘員を守らないとな」

「⋯⋯わかりました! すぐに戻ってきます!」


 チウはそういうと足早にギルドの中へ入っていった。


「皆さん! ゆっくりで良いので、ギルドの近くへ寄ってください! ギルドには皆さんを守ることのできる職員や冒険者がおります!」


 俺はただぼーっとしているわけにもいかず、街の人々へ避難を促す。

 最初は足取りが重かったが、徐々にギルド近くに人が集まり始めた。


 最悪の場合でも、


 事態は良くも悪くも進展せず、ただ溢れ出る魔物を見ているだけであったが、ふとした拍子に魔物の動きがピタリと止まる。

 それまで沸々と湧き上がっていた嫌な予感が悪寒となり全身を駆け巡る。それに合わせて冷や汗が全身から吹き出る。


「やべえ⋯⋯かもしれねえな」


 俺はそう呟き、魔物たちへ近づく。下手に刺激したく無かったが、悪寒に従い、何が起きても大丈夫な様に、行動を進める。


 魔物たちが一斉に天を仰ぐ。


『ウオオオオォォォォォオオオオォォォォオオン』


 地の底から響く様な、地面さえも揺れているのではないかと錯覚させる叫び声が耳を突く。

 声はどうやらダンジョンから発せられている様だが⋯⋯。


 謎の声に呼応する様に、魔物たちが遠吠えを始める。

 耳を塞ぐが、大して意味をなさず、なおも遠吠えは頭に響く。

 周囲を見渡すと同じように耳を塞ぎ、蹲っている人が大半で、悪い物だと地面に倒れている人もいる。


「まだかチウ⋯⋯!」


 ここが街中でなければ直ぐにでも殲滅戦を始めるべきだが⋯⋯。俺が先走る事で街や人に被害が出るのは避けたい。せめて非戦闘員を保護してくれる人員が来るまでは⋯⋯!


「依頼を受けた冒険者は魔物を包囲、治癒系統の技術に覚えがあるものは、負傷者の救護を行うんだの」


 ギルドからチウと爺さん、多数の冒険者が飛び出し、爺さんの指示通りに動き出す。チウは俺の隣まで来ると笑顔でこういう。


「お待たせしましたソーマ君!」

「全くだ、肝が冷えたぞ!」


 俺は短槍と盾を取り出し、チウは背中の鉄杖を構え包囲網に参加しようとするも、背後から声がかかる。


「これお二人さん。君らには別のお願いがあるんだの」


 俺らは唐突な声掛けにずっこけそうになるも、振り向き声の主である爺さんを見る。


「ここは冒険者だけでどうにかなるんだの。君らは⋯⋯」

「ダンジョンの奥を見てこい⋯⋯って事か?」

「うむ、察しがいいの」


 爺さんはウンウンと頷きながら続ける。


「君からダンジョンの浅い場所でワーウルフと遭遇したと聞いた日から警戒はしてたんだの」


 まあ、調査に向かわせた部隊は残念なことになったんだけどの、と小さく付け足す。


「調査部隊は全滅したのか?」

「決定的な証拠はないの。だがこの事態を見ると絶望的かもしれんの⋯⋯」


 チウが俺と爺さんを交互に見やり、手をバッと挙げる。


「言いたい事はわかるが、なんだチウ」

「ダンジョン奥へ向かうの賛成です! そして調査部隊の人たちも救出してきます!」

「⋯⋯との事だが。依頼の内容はこれで良いか?」


 爺さんはニッコリと笑い。


「うむ。頼んだの2人とも。2人に助けをつけられないのは本当に悪いが⋯⋯」

「気にすんな爺さん。むしろ付け焼き刃のチームワークの方が危ねえかもしれないしな」


 俺たちがそう話す内に魔物たちの遠吠えが止み、代わりに硬いもの同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。

 どうやら魔物達が本格的に襲撃を始めたようで、包囲網を作っていた冒険者達と戦闘を始めたようだ。


「だが良いのか? 俺たちは呪い憑き。一般的な見解は、普通の職よりも戦闘力は大きく劣ると言われているはずだ」

「確かに。そんな私達に依頼⋯⋯というのは変ですね」

「正直、君らは普通の冒険者と比較してもズバ抜けた戦闘力を持っているように見える。ま、今直ぐ動けて君らより強いものはこの街にはおらんの」


 爺さんはそこまで話し、一息置いて続けて語る。


「だが前話した通り、ボスには気をつけるんだの。ワシらが認識しているものと同じとは限らんし、依然3人以下のパーティでは難易度が跳ね上がるのは変わらんだの」


 神妙な面持ちでそういう爺さんに、なら他のパーティを行かせろよと思わなかったわけではないが、俺はチウの肩に手を置き爺さんへ告げる。


「ま、大丈夫だ。俺には重戦車がついてるからな」

「重戦車⋯⋯? 言葉の意味はわかりませんが、急に褒められると照れますぅ」


 褒めては無い。


「危なくなったら直ぐ引き返すんだの。こちらが片付いたらなるべく強い冒険者で臨時パーティを作って送り込むんだの」

「言われなくてもそのつもりだ」


 あーできればもう少し、俺もチウもスキルを磨きたかったんだが⋯⋯いや、チウは不要だな。


「それでは行きましょうソーマ君!」

「おお!」


 俺達は包囲網に沿ってグルリと迂回しながらダンジョンの入り口へ向かう。

 ダンジョンの入り口にはワーウルフが2体おり、冒険者と鍔迫り合いをしている最中だった。


「邪魔だぁ!」

「退いてください!」


 俺とチウの声に反応し、ワーウルフから離れ道を空ける冒険者。

 俺達は空けてもらった道を通り、通り過ぎざまに2体の首を落としダンジョン内へ飛び込む。


 チウがチウがとは言ってきたものの、大概俺もこの歳では化け物になってきたかなぁと思うのであった。

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