piece.15 チウ(物理)と解体
やあ
ふとした行動がとんでもない結果を生むことってあるよね。
もうあいつ1人で良いんじゃないかな、田中内蔵型ソーマです。
あれから1週間。
僕が家を出てから、もう既に2週間と1日が経ちました。
お父さん、お母さん、ソーニャ、お元気でしょうか。
僕は今ダンジョンに来ております。
可愛い女の子とも友達? になりました。
その可愛い女の子は今、
目の前でウルフ相手に達磨落としをしてます。
「ソーマ君少しは手伝ってくださいよ〜」
そう言いながらもまた1匹、胴体と頭がお別れしたウルフが発生。
ついに無駄話しながら生き物の首をもぐ様になったか⋯⋯成長したな血雨⋯⋯いやチウ。
この1週間、チウは基本的に身体強化を掛け直し続けて生活していた。
攻撃と移動の出だしと終わりだけで良いと言ったのに、めんどくさいので、という理由だけで、戦闘やトレーニング中はずっと掛け直し続けた。
流石に日常生活ではやってないと思う⋯⋯やってないよね?
初めは午前中の半分。次の日は午前中いっぱいで魔力切れを起こしていたが、今や丸一日戦闘していてもケロッとしている。
魔力量も筋力も化け物並みになってしまった⋯⋯。
仮説を立ててみた。彼女は筋力と魔力の成長速度が異常なのではないだろうか。例えば俺の様に。
そうであればこの苛烈なトレーニングで、今まで後衛職だからこそ鍛えられなかった筋力と、呪い憑き故に使用することのなかった魔力がアホみたいに伸びたと。
あの転生神によれば、年齢によって成長速度の限界が変わるらしいし、俺の4つ上であれば俺よりも速い速度で能力が上がっていくのは説明がつく。
成長限界値? 知らねーよ。あいつの父ちゃんオーガとかなんじゃねえの。
あ、もちろん俺も新しく覚えたスキルの使い方を色々試してたぞ? サボってなんかないんだからね!
「あーごめんごめん。ちょっと意識飛んでたわ」「意識飛んでたって⋯⋯何かありましたか?」
心配そうな顔をして、ウルフの死骸を引き摺りながら駆け寄ってくるチウ。
「あったよ、目の前に」
「はい?」
「いや、何でもないわ」
可愛く首を傾げるチウが引き摺ってきた死骸を収納する。
収納直後に指輪が赤く点滅を始める。
「ん? 何だこれ」
「赤く光ってますね。何か異常でもあるんでしょうか」
「異常? 異常⋯⋯あ、もしかして」
指輪をもらった時に、収納には限界があると言われたな。俺は確かめるために、チウの鉄杖を収納しようとするも、見えない何かに遮られる様に収納ができない。
「あー容量いっぱいなんだこれ」
「へー! 一杯だとそうなるんですね。なんというか使用者に優しい魔道具ですね〜」
「そうね。いやしかし、そんなに物を増やした記憶は⋯⋯あ」
この1週間、チウと俺が修行と称して狩り続けたウルフの死骸が全て入っていることを思い出した。
何なら俺が道中倒したウルフとあのワーウルフも収納されているはずだ。
「あー⋯⋯多分死骸だな」
「えっソーマ君あれしまいっぱなしだったんですか!?」
「いや忘れてたよ。あれってどう処分すれば良いんだろうか。ギルドに渡せばお金にしてくれるのかな」
「そのはずですよ〜」
「悪いチウ。今日はこれで引き上げでいいか?」
「私は構いませんよ! もう普通のウルフじゃ運動にもならないですしね〜」
おいマジかこの女。いや俺もそういう風には感じていたが⋯⋯。
まあこの程度に手間取る様じゃ、2人でボスは攻略できないだろうし、良い傾向だと思おう。うん。
かくして、パンパンになった収納指輪を携え俺たちはギルドへ向かったのだった。
*****場面遷移*****
「おい爺さん。魔物の素材をどうにかしたいんだが」
「⋯⋯そんな事でわしを呼び出すんじゃないの。何かあったのかと心配したんだの」
使えるコネはきっちり使う。爺さんなら誤魔化したりしないだろうし、信用しているしな。流石に全幅とは言えないが。
「⋯⋯で、素材の処理だったの? それであれば受付に素材を渡して売るなりすれば良いんだの」
「いや実は死骸のままなんだよね」
「解体しとらんのだの。であれば解体場に持ち込んで解体するか、そこにいるギルド員に捌いてもらうと良いんだの。もちろん手数料は頂くの」
なるほど。解体とかやった事ねえし、任せてしまうのが一番だな。
「ありがとな爺さん。じゃあ解体場行ってくるわ」
「ワシ⋯⋯ギルドマスターだのに⋯⋯」
酒場で待たせていたチウと合流し、解体場へ向かう。
解体場はギルドの入り口の裏にあるとのことだったので、そちらへ向かい中へ入る。
解体場には聞いていた通り、担当のギルド員がいたため、そのギルド員へ話しかける。
「魔物の解体をお願いしたいのですが」
「解体ですね。では対象物をお出しください」
俺はウルフとワーウルフの死骸を1体ずつ取り出し、机に置く。
「ウルフとワーウルフですね。こちらの素材は如何なさいますか?」
「とりあえず手数料分だけ引き取ってもらって、残りは使うかもしれないので頂きたいです」
俺はそれで良いよな? とチウへ目を向けると、チウも頷いてくれたため、その通りで進めてもらうこととする。
「わかりました。解体自体はすぐ終わると思いますが、ここでお待ちになりますか?」
「あ、えーっと⋯⋯ウルフはまだ数があるんですが」
「そうなんですね。では解体したい奴は全て出していただいて構いませんよ」
「わ、わかりました」
俺は全て出して良いものか悩んだものの、このまま収納指輪の肥やしにするわけにもいかないため、全て出すことにした。
ポイポイと出していくにつれて段々とギルド員の顔色が次第に悪くなり、全て出し切る頃には顔色が真っ青な状態で笑うという面白い表情になっていた。
「こっこれは⋯⋯本日全て?」
「いえ、1週間分全てまとめてですね」
「えっでもどれも腐ったりはしていない⋯⋯ですよ?」
収納指輪に入っている物は入れた時の状態のままなので、俺はそれが当たり前だったが、この反応を見るにおかしいらしいな。
俺が困った様な顔を浮かべると、ギルド員は察したのか。
「⋯⋯その指輪から生モノを出す瞬間は人に見られない方が良いかもしれませんね」
「どうやらその様ですね。ご忠告ありがとうございます」
「いえ、世の中には珍しい物と見れば外聞構わず奪う、盗む輩がいますから。お気をつけください」
俺はギルド員に頭を下げて感謝を伝える。
「この量ですと丸一日は掛かってしまうと思います。後日ギルドの方へお越し頂き、受け取りの旨をお伝えください」
「わかりました。それではよろしくお願い致します」
「承りました」
そういい深く頭を下げるギルド員へ軽く会釈をし、チウを連れて外に出る。
「やっぱり驚かれてましたね。あの量は異常ですもん」
「いやー失敗したな。次からは気をつけよう」
「全く、ソーマ君は凄いんだか抜けてるんだか⋯⋯」
隣のチウがため息混じりにそういう。
いいじゃねえか別に。ちょっとぐらい抜けてる方が好感持てるだろ⋯⋯って何だかギルドの前が騒がしいな。チウも気付いている様で、不思議そうな顔をしている。
「何かあったのかね?」
「うーん⋯⋯何でしょうね」
そんな他愛のない話をしながら歩いていると、チウがふと足を止める。
「どうした?」
「嫌な予感がします。見にいきましょう!」
そう言って身体能力強化全開で走り出すチウ。
「⋯⋯そういうフラグめいた発言やめてよね」
ぼやきながら俺も後を追って走り出す。
ギルド前に出た俺たちが見たのは、ウルフとワーウルフの群れがダンジョン方面から押し寄せてくる地獄絵図であった。