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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
14/43

piece.14 魔法使いと物理

 やあ

 ソーマの形をした田中だよ。

 チウを魔法使いにする(意味深)宣言をした後、一晩置いて、再度チウとダンジョンへやってきた。


「チウ、コレやるよ」

「ありがとうござっ!?」


 俺はチウに鉄製の杖を渡すとチウがお礼を言いながら杖ごと地面に引っ張られるように身体を曲げる。


「そ、ソーマ君。これ⋯⋯重すぎるんです⋯⋯けど!」

「まぁ、チウにはちょっと重いかな?」

「いや、おかしいですって。ちょっとどころじゃ、ないですけど!」

「今後チウにはそれを難なく振り回せるようになってもらいます」


 俺がそう言った後チウは体勢はそのままで、首だけ上へ向け俺を見る。感情が篭ってない眼差しで。

 すげえなこの体勢、胸が見えっ見えっ⋯⋯ない! 圧倒的! 壁! 絶壁!!


「この杖のこともそうですが、今すっごい失礼なこと考えませんでした?」

「そんなことないよ? 壁大好きだよ?」

「壁? 何を言ってるかわかりませんが、まあバカにされてないなら良いです」


 むぅ、と頬を膨らませるチウ。年相応に感情の起伏が激しいな、見てておもろい。

 ちなみにこの鉄製の杖。武器屋に行き、メイスを探したのだが残念ながら置いてなく、仕方なく重くて頑丈な杖を求めたら、出てきた杖である。店主も何に使うのか疑問に思ったようで「そ、そんな装備で大丈夫か?」と聞いてきやがったので、「大丈夫だ、問題ない」と答えてやった。処分にも困っていたのか、タダでくれたのはおいしかった。


「あの答え方、フラグになってないだろうか?」

「はぁ⋯⋯ぜぇ⋯⋯なんか、いい、ました?」

「何でもないぞ。てか重いなら一回置くか、地面に立てて持てばいいんじゃないか?」


 その手があったか! と驚愕の顔を浮かべて地面に杖を立てて、曲がっていた腰を伸ばすチウ。


「腰がおかしくなるところでした⋯⋯!」

「お疲れ。この様子じゃまだダンジョンは早かったか」


 流石にメインの武器を振り回すどころか、持ち上げるのに一苦労では魔物と対峙する以前の問題だ。

 あの杖、5kgぐらいあるからなぁ⋯⋯。


「一体ソーマ君は私をどうするつもりなんですか」

「魔法使い(物理)にするって言ったじゃないか」

「なんか魔法使いの後につけませんでした?」

「気のせいだろ」


 来たばかりだが、今日のところは引き上げて基礎トレでもするか。


「チウ、今日は引き上げるぞ」

「ええ!? 何でダンジョンまで来たんですか!?」

「それは俺の見積もりが甘かった、すまん」


 むすぅと頬を膨らませるチウ。まあ、地獄はこれからなんだけどな。

 チウから杖を回収し、出口へ向かう。さぁ! 楽しい基礎トレタイムだ!


 それから1週間。金髪の華奢な女の子が鉄の杖を持ってランニングし、広場で杖を素振りするという奇怪な光景を街の住人が目撃することとなる。


*****1週間後*****


 ダンジョンでチウがウルフと対峙する姿を俺は少し離れた位置で見ていた。


 ウルフがチウへ迫り鋭い牙で足に噛みつこうとする。チウはそれをギリギリで避け、手に持った鉄杖でウルフの頭をゴルフスイングし、頭を吹き飛ばす。


「取り敢えずこれでスタートラインだな」


 俺はウンウンと頷きながらその光景を見ていたが、チウはウルフの死骸と杖を持って駆け寄ってくる。


「話を聞いたときは頭おかしいなぁと思いましたが、今自分でやってみてやっぱり頭おかしいと思いました」

「何でだよ。長物使ったスタンダードな戦法だろうが」

「普通魔法使いは杖で頭を吹き飛ばしたりしません」


 実際チウの筋力の上がり方は異常の一言に尽きる。未だ腕は細いし身体も細い(あらゆる部分)どこからあの杖を振り回す力と頭を吹き飛ばす膂力が出ているのか不思議で仕方ない。


「まあこれで基本的な戦法はわかったな?」

「わかりたくありませんでしたが」

「じゃあ次は応用だ。今度は杖が相手に当たる瞬間にファイアボールを、杖の相手に当たる部分に発動するんだ」

「え?」


 何で魔法使うんですか?みたいな顔するんじゃない。もしかして本当にただの脳筋にされたと思ってたの?


「チウの魔法は持続しない。なら発動した瞬間の魔法を無理やりぶつけるしかないだろ」

「それで相手を殴る瞬間に打撃部分に魔法ですか」


 俺は簡単に言ったが、魔法の使い方なんてわからんし、そもインパクトに合わせて魔法を行使することが可能かもわからん。出来ればいいなと思い指示をしてみたが⋯⋯。


 数分後、胴体が引きちぎれ、かつ焼け爛れたウルフの死骸がそこにあった。


「うわぁエグい」

「いやソーマ君がやれって言ったんですからね?」

「いやいや、ここまでは想像できないでしょ」


 というか引きちぎれてるのはお前自身の力による物だろ。というかこれ魔法いらないんじゃねえか?


「あ、ソーマ君に言われた通りファイアボールは使いましたが、振りの瞬間に身体能力強化で振り自体をもっと強くできないかと思ってやってみました」


 チウ⋯⋯恐ろしい子!! というかこの世界、魔法は同時に一個とかそういうの無いのか?


「魔法って複数一緒に使えるもんなの?」

「一緒に使って無いですよ? 順番に急いで使ってるだけです」

「⋯⋯はい?」


 何その納期が迫ってるから急いで書き上げたみたいな言い方。


「チウ君?」

「はい? ってなんですかその呼び方」

「魔法を使うことを補助するスキルとかって他にお持ちで?」

「うーんと⋯⋯あ、高速行使っていうのがありますね」

「それは?」

「魔法を行使する手間が省けるというか⋯⋯すごく早く魔法が使えます!」


 説明が雑!! というかこれ呪いがなかったらタダのチートキャラだったんじゃねえか?


「そりゃまた⋯⋯」

「いやーこれまでは大道芸ぐらいにしか使えなかった魔法が使えるとなるとこういうスキルもあって良かったぁって思いますね!」

「そうね⋯⋯」


 俺はとんでもない生体兵器を作ってしまったのかもしれない。

 ぶっちゃけると今のチウに俺が勝てるビジョンが見えない。遠距離で魔法ブッパする以外、攻略法が浮かびませぬ。


「何はともあれこれで基礎トレは卒業ですね!」

「何言ってんだ基礎トレはこれからも毎日やるに決まってんだろ」

「え“」

「基礎ができてないやつは戦場に出たって何もさせてもらえないんだ!」

「アッハイ」


 一度は言ってみたかったセリフを言えた⋯⋯! チウの冷めた反応は頂けないが、まあいいだろう。


「明日からは午前中は基礎トレ、午後はダンジョンだな」

「まあ延々走って素振りしてよりは全然良いですけど」

「明日の基礎トレからは攻撃と移動の出だしと終わりに身体強化を使うようにする事」

「えっそれって心身共にキツいんですけど」

「どんなに優れた力も当たらなければ意味がないように、どんなに化け物じみた膂力があっても一応君は人間だから、出だしは止められちゃまずいんだよ」

「今化け物って言いました!? ねえ!?」


 ギャーギャーと騒ぐチウを傍に俺は近いうちにこのダンジョンを攻略できる気がしていた。もう血の雨と書いてチウでいいんじゃないかな。


「また失礼なこと考えてますでしょ!?」

「そう言いながら俺の肩を握り潰そうとしないだだだだだ!?」


 本当にもう⋯⋯チウの親御さんに頭が上がりません。お会いする機会があれば、菓子折り持って謝罪に参りますので許してください。お願いします。

やりすぎたとは思ってる

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