piece.12 ギルドマスターと今後
やあ
旅を始めて僅か2日で犯罪者になったかもしれない、田中の様なソーマだよ。
無事⋯⋯無事?ダンジョンを脱出したら複数の槍とギルド員に囲まれてました。
「君が呪い憑きの少年、ソーマ君で良いかの?」
見覚えのない爺さんが俺へ問う。
俺は右腕をチウの前へ突き出し庇う様なポーズを取り答える。
「⋯⋯ああ間違いねえよ」
「ふむ⋯⋯君は⋯⋯」
「これだけの人数、やっぱ呪い憑きには人権なしってやつか?」
「いや、」
「ひでーもんだよなー、俺はただ危険な目にあってる可愛い女の子を助けただけなのになー」
色々悩んだ結果だが、俺は開き直る事にした。
実際?困った人を助けたのに罪に問われる謂れはないし? 誰にも危害加えてないし? 腕痛いし?
何故か顔を赤くするチウをそっちのけに話を進める。
「いやだから、」
「あーあーやってらんねーなー」
「話を聞けい!小童が!」
爺さんがキレた。異世界の老人は怖いねぇ、キレるうん十代だね。
「聞いたところで意味がある話なのか?」
ここまで実力行使は我慢していた⋯⋯いや、怪我の程度から、なるべくバトルは避けたかったし、組織と敵対するのも嫌だったからと言うのもあるが。
だがこの返答次第では、無理やりこの場を突破し、お尋ね者にならなければならないかもしれない。覚悟を決めるために、チウをチラリと見る。
⋯⋯なんだそのサムズアップは。いや、やっちゃえじゃないよ。え? 君そんなキャラなの?
「それは聞いたあと君がどう思うかだの」
「⋯⋯聞こう」
そう言われてしまえば、問答無用で暴れまわるわけにもいかない。周囲に気を配りながらも、一度爺さんの話を聞こうと、そう返答した。
「まずは自己紹介からだの。ワシはこの街のギルドマスター⋯⋯まあ所謂、冒険者の親玉だの」
俺は黙って話を聞く。にしてもこの爺さんがギルドマスター⋯⋯少しは話が通じるといいんだがな。
⋯⋯おいそこ、話す気がなかったの貴方ですよね?みたいな顔をしないの。
「⋯⋯すまなかったの」
「⋯⋯は?」
「成り立ての君を1人で行かせるような事態を招いたのは、ギルドの怠慢ゆえだの」
怠慢? いやいや、あの状況でギルドがどうとかってのは論点がズレてないか? 確かに俺が1人で飛び出して、それをギルドが止められなかったのは事実だが、それは怠慢ではないだろう。
俺はその旨を伝えるが、爺さんは首を横へ振り言う。
「呪い憑き関連の依頼が特例となるのも、噂が立っているのも事実。そして冒険者の彼は人として当然の反応をした。それで君を焚きつけてしまったのは事実。そうなる前にワシが間に入れなかったのが原因だの」
その場にいなかった爺さんが悪い? それも違うと思うし、強いて言うなら悪いのは呪いだ。だからこの件で誰かが頭を下げるのは見当違いだと思うのだが⋯⋯。
爺さんが鋭い目つきで俺を見つめる。全てを察せるわけではないが、ここは任せろということだろうか? 俺は黙って話を聞く。
「呪い憑きがデリケートな問題だと重々承知している中で、ワシを呼ばず話を進めてしまった彼女も少し考えが足らなかった」
受付の女性がビクッと肩を震わせ、深く頭を下げる。
「だから、すまなかったの、と言ったのじゃ」
「⋯⋯理解したよ。で? その話とこの状況はどう言ったつながりがあるんだ?」
俺は俺たちを取り囲む、人間を見回し問う。
「君の身体能力と度胸は警備から聞いていたのでの、話もできずに逃げられてしまわぬようにだの。手荒ですまんの」
爺さんがそう言うと張り詰めた表情をしていた周囲の人間が、次々と槍の穂先を上げ、身体の力を抜いていく。
「⋯⋯謝罪もこの状況も分かりました。それで俺たちは今後どうなるのでしょう」
「どうもしないの」
「⋯⋯はい?」
俺が意を決して確認すると肩透かしな返答が返ってくる、俺が困惑した顔をしていると爺さんが追加で言う。
「冒険者成り立ての少年が、ダンジョンへ飛び込み、成り行きで偶然女の子をダンジョン内で助けた⋯⋯そんなところかの?」
「いや、どこに原因があれど、間違った行動をした冒険者は裁くべきだと思いますが」
俺は言い訳でしかない爺さんの言葉にツッコミを入れると爺さんが返す。
「証拠はないの?」
そう爺さんが周囲に問うと、周りの人間は揃って頷く。
ギルドにも俺にも非がないという風にしたいのか⋯⋯いや、斜に構えず素直に受け取ろう。この件は無かった事になるってわけだ。
俺はチウに顔を向けると、彼女は神妙な面持ちで深く頷く。
「わかりました。一応お礼は言わせて頂きます」
「うむ、こちらこそだの」
これで一件落着⋯⋯か? 呪い憑きに対しての反応はここで口論する必要も意味もないし、今後の行動についても⋯⋯。
「⋯⋯じいさ、ギルドマスター」
「別に爺さんでいいの。それに無理に敬語を使う必要もないの」
「⋯⋯わかった。爺さん、今後の俺たちの処遇や、1個2個聞きたいことがある。この後少し話をさせてもらっても?」
「別に構わんの」
爺さんには色々聞かないといけない事があるの⋯⋯いかん、うつった。とりあえずチウを少女へ託して俺は爺さんとギルドへ向かうか。
「ということでチウ。お前は⋯⋯」
「一緒に行きます」
「いや、あの女の子のところに⋯⋯」
そう言ってチウへ目を向けると、街角の一点へ両手を合わせ、謝るように片目を閉じていた。
視線を辿るとそこには依頼をしてきた少女がおり、サムズアップをしていた。
いやなにが?
「今心配かけてごめんねと、また後でねと伝えましたので大丈夫です!」
「お前らは超能力者か何かか」
「超⋯⋯能力? なに言ってるんです?」
「あー⋯⋯いや、何でもないわ」
はぁ、とため息を一つ。爺さんに目配せをし、そのままの足でギルドへ向かった。
*****場面遷移*****
「腕の調子はどうかの?」
「あーすこぶるいいわ。ありがとな爺さん」
俺がそういうと爺さんはニッコリと笑う。
この爺さん職業が治癒魔法使いという回復特化職とのことだったので、未だに動かしづらい腕を治療してもらった。
ダンジョンの中で起きたことは既に話しており、ワーウルフの話をしたら、とても驚いていた。
あのダンジョンの浅いところには、普段ワーウルフはいないらしい。なにがあるかもしれないと、爺さんはギルド員に、冒険者へ調査の依頼をするよう指示を出していた。
「ふむぅ⋯⋯それにしても、ワーウルフも驚きだったが、新たなスキルかの」
「ああ。俺は呪い⋯⋯スキル?で剣が装備できないからな、それに対しての怒りとどうにか出来ないかと考えた末に、習得できたみたいだ」
「それと黒い髪の女性⋯⋯幻じゃなくてかの?」
「私は指輪をソーマ君に渡す事しか考えていなかったので見えていませんでしたが⋯⋯いましたか?」
「そう言われると自信無いな。死際の幻と言われても反論できん」
あの時見た黒髪ロング、そして声。確かのその時俺は見たし聞こえた。⋯⋯謎は深まるばかりだが、何か呪いとの関連性を本能で感じていた。
「他に同じ体験をした呪い憑きはいないのか?」
「ワシが知っている範囲ではないの。まあ報告に上がってないだけの可能性はあるがの」
「私もありません〜」
ま、呪い憑きに関する新しい情報が手に入っただけ良いとするか。
「次だ。俺たち呪い憑きはまともに依頼を受けられるのか?」
「問題ないの」
「呪い憑きだからといって不当に報酬が減らされたりは?」
「その時の受付によるかもしれんが、基本は許さんの。ここでも別の街でもだの」
「じゃあその類のことがあったらあんたにチクればいいのか?」
「だの」
うむ。上部が腐りきってたらどうしようかと思ったけど、爺さんだけでも味方にできて良かったかね。
「ソーマ君はこの後どうするんですか?」
「それなんだが⋯⋯ダンジョンってクリアとかボスとか報酬とかってあるのか?」
「ダンジョンクリアとボスは有りますね。報酬と言っていいかわかりませんが、ボスの素材は高く買い取ってもらう他、装備品の素材にすることも可能です」
「ここのボスは特定の魔物なのか?」
「ここのボスはキングウルフだの。通常のウルフの4-5倍の体に、ワーウルフとウルフを取り巻きにしておる」
想像だけで嫌気が差すなぁ⋯⋯。だが旅をする上で戦力強化は必要不可欠。出来れば攻略し、装備を更新したいが⋯⋯。
「通常なら4人パーティで攻略する難易度のボスだの。君1人では死にに行くようなものだの」
「⋯⋯そうか」
「せめて前衛がもう1人いて、2人とも卓越した戦闘技術を持っていれば話は変わってくるがの」
そう言われふと親父の顔が浮かんだ。無い物ねだりをしても意味がないのはわかるが⋯⋯。
「私がもう1人の前衛になります!」
チウが頭の悪い発言をしているが、無視して話を進める。
「じゃあダンジョン攻略は諦めて⋯⋯」
「何で無視するんですかソーマ君!?」
「いやだって、お前後衛職だろうが」
「あの時みたいに杖で殴りかかるとか⋯⋯」
「いや魔法使えよ」
俺がそういうとチウは一瞬ポカンとした顔をし、やがて少し困った顔をし、こう言う。
「忘れちゃいました? 私も呪い憑きなんですよ?」
タイトルに反して今後の話全然してないわ