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パズルのピースはハマらない!  作者: 湯呑み茶碗
第一章 最初の町と脳筋と魔法使い
10/43

piece.10 折れる杖と折れない心

 やあ

 油断大敵って言葉を身をもって体験してます。

 ソーマ=田中だよ。


 女の子には目もくれず俺をじっと睨み付ける二本足狼。

 脇腹の痛みも相まって、俺は動けずにいるが、目を逸らしたら殺される予感がして、俺も奴をじっと睨み付ける。


「わ⋯⋯ワーウルフ?」


 女の子が震えながら絞り出す様に声を出す。どうやらアイツはワーウルフというらしい。

 俺は俺で動けないなりに何か出来ないかと指輪の中身を⋯⋯指輪?


 ⋯⋯ない。いつも中指につけている指輪がない。

 俺は先ほど外して見せたのを思い出し、フッと地面へ目を向ける。否、向けてしまった。

 視線の先に指輪が転がっていることは視認できたが、それと同時に俺に大きな影が覆いかぶさる。


 油断⋯⋯ではなかったのかもしれない。いつもある安心感が手になかったことで焦ってしまったのかもしれない。だがそんな事はコイツには関係なく、俺の身長ほどもある腕を大きく振りかぶる。


 俺は咄嗟に脇腹を抑えていた左腕を前に、右腕を後ろにクロスさせ衝撃に備える。


 ゴキィッ!!


 嫌な音が鳴ると同時に再度転がらされる。

 転がった先、俺は何とか立とうと左腕で体を支えようとする⋯⋯左腕が動かない。

 折れたのか、ヒビが入っただけなのかわからないが、俺の意思に反し左腕はピクリとも動かない。


 その事実を目視した俺に激痛が襲いかかる。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 叫び、転がり回りたいが身体に走る鈍痛がそれを許さない。結果空気が抜ける様な音を出しながら、息を吐くしか俺には出来なかった。


 ワーウルフがゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 立たなければ

 痛い

 立ち向かわなくては

 痛い痛い

 このままでは⋯⋯⋯⋯


───死 ぬ ?


 意識した途端痛みとは違う感覚が俺を襲う。

 恐怖。死への恐怖? 死に誘う痛みへの恐怖?

 痛くて痛くて動かないはずの体が震える。勝手に涙が溢れてくる。息を吐くしか出来なかった口が嗚咽を鳴らす。


 嫌だ

 死にたくない

 痛い

 やめて

 殺さないで

 死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 俺はもうそれで頭がいっぱいになり、やがてワーウルフの姿すらも見えなくなっていった。


*****視点遷移*****


 私を助けてくれた男の子がワーウルフに殴り飛ばされた。

 その後立ち上がった彼をまた殴り付け、今とどめを刺そうと近づいている。


 足が震えて何も出来ない。

 人が死ぬ。恩人が死ぬ、殺される。

 なのに私は何も出来ない。


 2度殴り飛ばされてから男の子は蹲って震えて動かなくなってしまった。

 もしかしたら私がさっきウルフ2匹に襲われたときの感覚を感じているのかもしれない。

 それだったら多分彼はもう立てない。私自身感じた感覚だから自信を持って言える。


 死にたくない。

 怖い。死が怖い。死ぬ時の痛みが怖い。

 死にたくない。死にたくない。


───でも


 私はさっき味わった。助けてもらった。ウルフからも死の恐怖からも。

 だから知っている。ちょっとしたきっかけがあれば、その感覚は希望に変えられる。


───助けなくちゃ


 そう思った時、私は杖を両手に持ち立ち上がりワーウルフへ向かって走り出していた。


*****視点遷移*****


「うわあぁぁぁぁああああぁぁぁああ!!!!」


 叫び声が聞こえる。

 死にたくない。

 この声は誰だっけ。

 助けて。

 この声は⋯⋯っ!!


 ハッとしてなんとか顔を上げる俺は、ワーウルフに背後から杖で殴りかかろうとする女の子の姿を見た。

 なんで逃げなかったんだ。

 そんな見当違いな疑問が湧く。

 震えていたじゃないか、青ざめていたじゃないか。どうしてそんなことをしている。逃げろよ! お前には待ってる友達が⋯⋯っ!


 今俺が死んだらどうなる?

 みんなはどう思う?

 みんなはその後どうなる?


 親父は? お袋は? ソーニャは? あの守衛さんは? あの女の子は? 依頼をした少女は? 救われない呪い憑きは?


 こんなところで、立ち止まってなんていられない。

 死んでなんていられない。

 悲しませたりなんかしたくない。

 殺させなんてしない。


 女の子が杖越しにワーウルフに殴り飛ばされる。

 杖は半ばから折れてしまい、第二撃を防ぐ手立ては彼女にはない。

 だからこそまずは。


「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ! うおぉぉぉおぉおおおおぉぉぉおお!!!」


 あえて雄叫びを上げて立ち上がり、ワーウルフの注意をこちらへ向ける。


 効果は覿面で、すでに死に体だった俺が立ち上がったことに、驚きつつもこちらへ向かってくる。


「そ、ソーマ君! ソーマくん!!」


 なんだよ、そんな顔で俺を見るなって。

 もう大丈夫。君が、立ち直らせてくれたから。

今回ちょっと短い

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