piece.1 初まりと始まり
やあ
俺の名前は田中
ひょんな事から車に轢かれておっ死んでしまった悲しき青年(26歳)さ!
赤信号なのにフルスロットルで突っ込んできやがったあんちくちょうは地獄に落ちればいいと思うんだけど、今はそんな事より目の前の怪現象だ。
「田中⋯⋯田中よ⋯⋯聞いておりますか⋯⋯?」
目の前にパツキンロングの別嬪さんがいるわけだ、しかも俺の名前を呼んでらぁ。俺は死んだはずなんだが、実は跳ねられたのも夢だったとか?
「田中?⋯⋯おい田中」
だがそうすると面識もないこのちゃんねーと顔を合わしているこの現状が説明できないな。もしかして冴えないリーマンだったのも夢だったんかね?
「⋯⋯(怒)」
「いてぇ!?」
この女無言で棒振り下ろしてきやがった!?
「なにしやがるこんちくしょう!」
「貴様が呼びかけを無視するからだろうが」
「いきなり美人に話しかけられて、やぁ!今日はいい天気だね! なんて活かした反応が出来るわけねぇだろうが!!」
「いや、誰もそこまで望んでいないのだが」
くっそやっぱり美人は信用ならねぇ! 昔美人のねーちゃんにブランドもんのバッグ奢らせられまくった苦い記憶が蘇るぜ⋯⋯!
「おい田中」
「なんだ性格ブス⋯⋯ごめんなさい無言で棒を振りあげないでください」
「⋯⋯はぁ。 なんでこんなやつを転生させなければならないのだ⋯⋯」
ヲイ、ちょっと待て。今聞き逃せない一言が聞こえたぞ。転生だと?
「おい美人、転生ってあれか? 異世界でウハウハになる権利的な、宝くじよりもひっくい確率のあれか!?」
「田中、距離が近い、顔が近い、鬱陶しい」
「ぐへぇ!?」
興奮して素早く美人に近づいた俺に容赦なく手に持つ棒を突きつけてくる美人。
「いつつ⋯⋯悪かったって、ちょっと、いやかなり興奮しただけだ」
「⋯⋯貴様、正直者だな⋯⋯」
「で?」
「は?」
「いやだから、転生ってあの転生なのか?」
「貴様の世界では転生がかなり美化されて、創作物などで広く普及されているんだったな」
このいい様だと楽して最強とか、ハーレム天国とかにはならなそうだなぁ。やだなぁ転生。
「うーん⋯⋯まあ、捉えようによっては⋯⋯うむ⋯⋯うむ!大方お前の想像通りだぞ」
「え、なにその玉虫色な返答」
「流石に世界最強〜とか、愛人大勢〜とかは私から与えるのは無理だが」
美人は片手を顎に当て、唸りつつ言葉を選んで俺に語りかける。
「お前の望む理想に可能な限り近づけてやることは可能だ」
「まじかよ、じゃあ転生するわ喜んで!!」
「現金なやつだなぁ⋯⋯」
俺の掌返しに苦笑いしつつ、美人はそう言うのであった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎場面遷移✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「で、だ」
「うむ」
「まずアンタは誰なんだ⋯⋯いやまあ何となく見当はついてるけどさ」
「まあ、そうだな。名乗るとするなら今からお前が行く世界の神⋯⋯だな」
「だよなぁ⋯⋯神はアンタだけなのか?」
「いや、私は世界のドア⋯⋯と言ったほうが伝わりやすいだろうな、そのドアの管理者の様なポジションで、他にそれぞれ神がいる」
「なるほどねぇ」
いっつもラノベとか読んでて思うんだけど、一つの世界に一人の神ってオーバーワークだよな。それなんてブラック企業?というか。
「じゃあありきたりな質問もしたし、今から行く世界⋯⋯と、俺に求めることを教えろよ」
「ふむ⋯⋯存外バカではないんだな」
「あたりめーだろうが、ノーリスクでリターンだけとか怖すぎるわ。無料より怖いもんはねえだろ」
「ふふっ、なんだそれは」
なんだこいつ、笑うと可愛いぞ。普段はキリッとしてて美人なのに、これがギャップ萌えってやつか。
「? どうした田中」
「いや、ギャップってすげぇなと」
「何言ってんだ貴様⋯⋯今から行く世界の事だったか」
「ああ」
「今から貴様が行く世界には、魔族が蔓延っておらず、魔王が全世界を支配しようとしておらず、極めて平和な世界だ」
「なるほどな、その魔族を蹴散らして、魔王を討伐して来い、っておぉい! 平和なの!?」
なんつー肩透かしな。
「何をキレているか、平和なのはいいことだろう?」
「まあそうだけどよ」
「まあ表面上だけなんだがな」
「それを早く話せって、どうせそこなんだろ? 俺に指示するのは」
「指示なんてとんでもない、お願いだぞ? お・ね・が・い」
なんだこいついきなりシナつけて上目遣いにしてきやがって気持ち悪りぃな!
「うわなんだこの美人、お姉さん系もいけるのかよクッソ好みだわ結婚したい」
「多分だが思考と建前が逆になってないか」
「おっと失礼⋯⋯お願いってことは聞かなくてもいいってことか?」
「ああ、その場合は適当に転生させて、路傍の石にでもしてやろうか「いやー美人のお願いを聞けるなんて幸せだなぁ!絶対断らないぞぅ!!」⋯⋯」
何この神こっわ、取り敢えず表面上でも話を聞いとかないとどうなるかわからんな。
「ちなみに私は思考盗聴も出来るからな」
「じゃあさっきの建前の話とか全部筒抜けだったんじゃねぇかこんちくしょう!! あと謝るんで石はやめてください!!」
「石云々は冗談だ、お願いを聞いてもらえない場合は、特典なしで異世界に降りてもらうだけだよ」
「うーんそれはそれで⋯⋯」
せっかくの機会だし、転生をしっかり味わいたいなぁ、なんか表現おかしいな。
「貴様というものは⋯⋯理由がいちいち即物的というか⋯⋯」
「思考盗聴はヤメテェ!?」
「⋯⋯はぁ。続きを話してもいいか?」
「オネガイシマス」
俺の従順な態度に神⋯⋯転生神とでも呼ぶか、転生神は軽く咳払いをすると、語り出した。
「先ほども言った通り、世界は平和に包まれている。表面上はな」
「ああ」
「これまで異変という異変は無かったし、無事世界の運営は行われていた⋯⋯が」
そこで一度言葉を区切り、転生神はじっと俺の目を見ながら続きを語る。
「ある日突然、自身の職業のスキルに異常をきたすものが誕生し始めたのだ」
「職業? スキル?」
俺は現実で聞き慣れた言葉と、聞き慣れない言葉に疑問を返す。
「この世界の住人は生まれ育ち、齢10になると、神⋯⋯職業を司る神だな、から職業を与えられる」
「それは魚屋とか肉屋とかそういう感じじゃないんだよな?」
「ああ、剣士や魔法使い、暗殺者などもあるな」
「まるでゲームだな⋯⋯貰った職業は変更できないのか?」
「そのものの成長過程と行く末を見据えて神が判断するものだ、容易に変更は出来ん」
どうやら異世界に職業選択の自由はない様だ。
「別に剣士だから戦わなければならないわけでもないぞ? 望むなら商人になっても良いだろう、だがそこで問題になるのがスキルだな」
「職業のスキルってやつか」
「剣士を例に話そう、剣士は職業を与えられた瞬間からあらゆる剣の基礎的な使い方を理解できる」
「それは西洋剣東洋剣問わず⋯⋯刀とかもって事か?」
「いや、西洋剣だけだな。振り回したりは出来るだろうが、もっと洗礼された取り回しが出来るのは他の職になる」
と、ということは⋯⋯!
「あるのか!?職業“SAMURAI“が!?」
「あるにはあるぞ」
「っっっっっっしゃあああああ!! アイアームサマラーイ!!」
「なれるかどうかはわからんがな」
「えっ」
「出来る限りと言ったろうが、私に職業操作は出来ん、そっちにはそっちの神がいるんでな」
「オゥ!シィィット!!」
なんてこった!瞬間的にイきそうになるほど高まったテンションが一瞬で冷める。
「⋯⋯続きを」
「まあ⋯⋯落ち込むな」
「うるせぇ」
「⋯⋯はぁ。それでだな、商人をやろうとしても商人の才はないし、商人の職を持っているものもいたりで、思うようには出来んだろうな」
「実質職業強制じゃねぇかクソッタレ」
「今後の課題だな、貴様のような異世界人が神へ訴えかければ今後は変わるかもしれんぞ?」
「それはおいおいだな、さてじゃあ問題について聞かせてもらおうか」
俺の言葉を聞いた転生神は、一度目を瞑り、目を開け俺をじっと見つめたのちに、告げる。
「例に出した剣士だが、極々一部のものに限って剣を使用した攻撃が全く的に当たらなくなる現象が発生している」
「⋯⋯はいぃ?」
それなんてダク○ス?