第80話 ロスト・イグニス
「はぁっ、はぁっ。リース、お前はやはり強いな。その年齢でその強さだったら、来年ぐらいにはもう勝てなくなってるかもな」
「まあ、俺の強さには少し秘密があるからな。勝てなくても仕方ないさ」
「なんか上から目線ね。でも、強さは本物なのは分かった。生半可な攻撃じゃあ一生倒せない」
こいつらはよく俺に話しかけてくる。最初は何か魂胆があるのかと思ったが、純粋に話したいだけのようだった。
「正直俺もやばいぞ。消耗線に持ち込まれると勝ち目はない。だから、もう終わらせるぞ」
俺はクロス・イグニスの二つ目の能力を発動する。
二本の剣が交わり、強烈な光を発する。そして次の瞬間、二本の剣が一振りの剣となって、俺の手元に戻る。
「どんな攻撃かと思えば、二本が一本になっただけじゃないか。相手が一人ならまだしも、俺たち二人相手だと意味無いんじゃないか」
「ご忠告ありがとう。でも、これでいい。・・・なめてると痛い目を見るぞ?」
この剣ーーーロスト・イグニスは一本になったから弱くなった訳ではない。元々、この神器は一本の剣なのだ。だが、強すぎるために二本の剣となった。よって、一本になったからといって弱くなるのではない。強くなるのだ。
「いくぞ?」
俺は一瞬で男の目の前に行き、魔力を帯びた斬撃を放つ。
「ぐっ、な、なにっ!!」
男は間一髪のところで防御をするが、勢いよく後ろに弾き飛ばされる。俺はその隙を見逃さず、最大の一撃を放つ。
「漆黒の刃」
俺の攻撃は防御したカラドボルグを真っ二つに斬り、更に男の胸を斬り裂いた。
「がはっっっ!!」
男はそのまま意識を手放した。
「ライト!!くっ、このぉぉぉ!!」
男はライトという名前だったのか。女の方が叫びながら、俺に向かってきた。それは無謀な突撃なんだけどな。
「暴嵐の連撃」
無数の風の刃がグラムと女を斬り裂く。
「く……そ……」
女はその場に倒れ込む。二人とも血は流れているが、傷は浅いので死ぬことはない。
三人の方を見ると、制圧は完了しているみたいだった。
「リースくん、こっちも終わったよ!」
「あとは奥の部屋だけね」
「……行こう」
俺たちは奥の部屋へと向かった。
◇
奥の部屋に入ると、サトゥルヌスのメンバーが数人とその真ん中に奇妙な魔法陣が浮かび上がっていた。
「な、あいつらが負けたのか!?」
「だが想定内だ。こっちも準備は終わっている!」
「はっはっは!残念だったな!」
この術式は……。くそっ、めんどくさいことをしやがって。
「みんな、今すぐにこの部屋から出ろ!」
「えっ?」
「早く!!」
「「「分かった!」」」
危なかった。すぐに気づけたから良かったが、みんなはここにいたら巻き込まれてしまう。
「禁術魔法 悪魔召喚!!」
魔法陣から深淵の闇が出てくる。その闇がサトゥルヌスのメンバーを取り込み、どんどん膨張する。
そして、とうとうサトゥルヌスのメンバーは一人だけとなった。
闇の中からヤギの頭に人のような体を持つ、俺の5倍はある大きさの悪魔が現れた。
『我を呼んだのは貴様か?』
「そうだ、悪魔よ。我の望みを叶えたまえ!」
『生贄は充分頂いたからな。いいだろう、貴様の望むままに』
そう言って悪魔は最後のメンバーの中へと入っていった。
悪魔に体を乗っ取られたメンバーは目から血を流し、爪は異常に尖っている。
「ははは、数年ぶりかな、人間の体は。やはりよく馴染むな。おい、お前。こいつの望みはお前を殺すことらしいからな。とっとと死んでもらうぞ」
こうして俺と悪魔の戦闘は始まった。