第76話 竜の里
他愛もない会話を続けていたら、あっという間に竜の里の近辺に着いた。
「お、もうそろそろじゃぞ」
「でも、どこにも竜なんて見当たらないよ?」
「まあ、ここはただのゲートだからな」
「なら、ヴォルニクスさんにゲートを開けてもらうしかないのね」
「……リースは開けれないの?」
「別に出来るけど、ヴォルニクスに任せた方がいいと思う。俺の開け方はなにかと問題が起きやすいし」
「そうじゃな。……よし、そこに降りるぞ」
俺たちがヴォルニクスの背中に捕まると、急降下を始めた。そして、少しひらけた場所に着地する。
「じゃあ開けるぞ?」
そう言って、ヴォルニクスは何もない空間に何かの呪文を唱える。すると、周りの空間が歪み、次の瞬間には別の場所に来ていた。
「うわっ!びっくりした……」
「まるでリースの転移魔法みたいね」
「……あ、あそこ見て!!」
ミルが指差した方を見ると、そこにはたくさんの竜の姿があった。
「おぉー!まさに絶景だね!」
「その表現は少し違う気がするんだけど……」
「……いち、に、さん、し……」
それぞれが色々な反応を示している。ミルに至っては竜の数まで数えだした。
「どうじゃ、すごいじゃろ?ここが我が故郷、竜の里じゃ!!」
竜の里は自然豊かな山の中にある。そして、その場所は人間には到底見つけることはできない。まあ、見つかったら元も子もないからな。
「ひとまず竜神様のところへ案内するぞ」
俺たちはヴォルニクスの案内のもと、竜神のいるところへ向かった。その途中、すれ違う竜にジロジロ見られたが、気にしない。
「この中におられるぞ。くれぐれも粗相のないようにな」
俺たちは頷きで答えて、中へと入る。
「竜神様!この前、私が話した人間の子供であります。どうか謁見をお許しください」
俺たちはひとまず片膝をつき、頭を下げる。竜の世界でこれが礼儀正しいのかは分からないが、何となく察してくれるだろう。
「よかろう。人の子よ、顔を上げて名を申せ」
竜神がそう言ったので、顔を上げる。
竜神はヴォルニクスの10倍はあるぐらい大きな体で座っていた。そして、人間の老人のように白い髭を生やしている。
俺は竜神の言葉に、俺はこう返した。
「名ならあんたが先に言えよ、竜神様」
一瞬の沈黙の後、ヴォルニクスやステラたちは焦りだし、竜神の周りにいる竜は俺に強烈な殺気を向けた。
「ば、バカ者!!何を言っておるのだ!!竜神様、申し訳ございません!この者はすぐに下がらせますので、どうかお許しを!!」
周りにはとてつもない緊張が走る。それもそのはず。竜神がひとたび怒れば、この周辺は更地となる。そして、その後には何も残らない。
「竜神様。私が奴を始末しますので、どうか怒りを収めてください」
側近と思しき竜がそう言うと、竜神は突然笑い出した。
「フォッフォッフォッ、よいよい。何もするでないぞ。そうか、今はそんな姿になっておるのか」
竜神と俺以外はポカンとした表情をしている。それもそのはず、無礼を働いた俺に対して何もしないのだからな。
これには当然理由がある。あの言葉は前世の俺と竜神が決めた合言葉なのだ。
俺は昔、俺に借りを作った竜神に対して、こう提案をした。
「もし、俺が訪ねてきた時は力を貸してほしい。ただ、その時の俺がこの姿とは限らない。だから、二人だけが分かる合言葉を決めよう」
その時に決めた合言葉が「名を先に言え」だ。竜神に対して、こんな事言う奴はいないからな。まあ、そもそも人間が来ることがないんだけど。
「で、今宵訪ねてきた理由はヴォルニクスが話してた事か?」
「ああ、そうだ。ある人間の犯罪組織が竜に対して、魔法を使った。そいつらがこの場所に潜伏してるかもしれないんだ。その調査をしたい」
「そういうことなら、是非とも頼む。だが、ゲートをくぐる時は何かしら反応があるはずなんじゃけどな」
「それが俺も気がかりなんだ。何か魔法を使ったのか、魔道具を使ったのか、はたまた神器の力なのか。それも知りたいな」
「まあ、とりあえず調査を頼むぞ。調査の間はここを自由にうろついてもらって構わない。もちろん、そこの三人もな」
こうして俺たちは竜神から直々に調査を依頼された。




