第74話 休日のお出かけ 2日目
今回はいつもより長いです。
翌日、ミルとは駅で待ち合わせた。
どうやらミルは少し遠出をしたいみたいだ。
「今日はどこに行くんだ?」
「……私の故郷に行く」
「へー。……ってまじか!ほんと急だな」
「うふふ。私の故郷を紹介したいの。……そうじゃないと、もうすぐで……」
「ん?最後、なんて言ったんだ?」
「ううん。なんでもないよ」
「そうか……」
なんか言ってた気がしたんだけどな。独り言かな?
ひとまず電車に乗り込む。行き先はミルの故郷、クレセントだ。
◇
電車内でミルと色々な話をした。
学校のことや神器のこと、魔法戦闘のやり方についてなど、いっぱい話をした。その時間はとても楽しかった。
そんな話をしていると、もう目的地のクレセントに着いた。クレセントはレルフランド王国の東にある街で、とても綺麗な月が見られることで有名だ。前世ではここは何もない丘だったが、今はこんな街ができていたなんて。
「リース、こっち」
ミルに連れられて、街を右に左に歩いていく。
そして、一軒の家の前で立ち止まった。
「ここが私の家」
そこはお世辞にも綺麗とは言えない、ところどころがボロボロになっている家だった。
俺が家を見ていると、
「あまり見ないでほしい。お世辞にも綺麗って言えない。
……こっち来て」
ミルもそう思っていたのか。
俺はミルの後ろをついていく。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
玄関から家に入ろうとすると、
「姉ちゃん、おかえりー」
「かえりー」
「あ!ミル姉ちゃんが男の人連れてきてるー」
「お母さん、たいへーん」
子供がいっぱい出てきた。おそらくミルの弟、妹だろうが、人数が多い。今いるだけで4人はいたな。
「あらあら、お帰り。そちらはお友達かい?」
「お、お母さん。無理しちゃダメだよ。ベッドで寝てて」
「大丈夫だよ。そうだ、自己紹介が遅れたね。どうも、ミルの母親のマーシャです」
「こ、こんにちは。ミルさんと同じクラスのリース=グレイアスと言います。すみません、急に家に来てしまって……」
「構わないよ。こんなボロくて古い家で悪いね」
「いえ、全然大丈夫ですよ。とてもいい家です」
「あらあら、ありがとうね」
マーシャさんは大人にしては小柄だが、優しい雰囲気で話していると落ち着く。
「リース、こっち」
そうして案内されたのは、ミルの部屋だった。
「適当なところに座ってて。お茶持ってくる」
「お、おう」
俺はとても緊張していた。なんせ、女子の部屋に入るなんて無いからだ。
ミルの家は外観こそアレだが、中は結構広くて綺麗だ。しかもミルの部屋は小物や人形などがあり、女の子らしい部屋だった。別に意識はしてないが、正座をしてしまう。
すると、ミルが戻ってきた。
「お待たせ」
「おお、ありがとう」
ひとまず貰ったお茶を飲み、心を落ち着かせる。
「今日はミルの家で過ごすのか?」
無言も嫌なので、話を振ってみる。
「ううん、別の場所に行く。最初に寄ったのは、お母さんの様子を見たかったから」
「そっか、ちなみにお父さんは?」
「お父さんはもういない。3年前に……」
「ご、ごめんな。辛いこと思い出させちゃって」
「全然大丈夫。もうちょっとくつろいだら行こっか」
その後、ミルと話をしてたら、弟、妹がやってきたので少し遊んであげた。最初は楽しかったが、後の方は子供の底なしの体力にやられて、ヘロヘロだった。
そうして家を出たのは昼ぐらいだった。
「あら、もう行くのかい?」
「うん。色々回りたいの」
「お邪魔しました」
「また、いつでも来てね」
こうしてミルの家を後にした。
◇
その後、俺たちは昼ごはんを食べて、月の丘という場所に向かった。この丘で見る月は、この世で一番綺麗だと言われている。今はまだ見えないが、夜にまた来てみたい。
その後、クレセント博物館に行った。ミルは何回も来たことがあるので、案内をしてくれた。
月の女神アルテミスの彫刻や月光石、満月が描かれた絵画など、月に関するものが多数展示されていた。そのどれもが、とても綺麗でつい見入ってしまった。
博物館でお土産を買った。まさか2日連続でお土産を選ぶことになるとは...。何分か悩み、ステラとレイナには全員お揃いのキーホルダーを買った。きっと喜んでくれるはずだ。
博物館を出たら、最後の目的地である月の神殿へと向かった。ミルに聞いた話だと、この神殿は特定の人しか入れないらしい。ということは、ここには神器があるかもしれない。
少し歩くと神殿に着いた。ミルは神殿に入れるらしいが、俺は残念ながら入れなかった。
ということで、ミルに神器を取ってきてもらうことにした。神器までたどり着くには試練を乗り越えないといけない。それなりの時間がかかると思っていたが、意外にもすぐにミルは出てきた。
「これ神器だよね?」
「ああ、そうだな……」
ここにあった神器は『光剣ミュルグレス』。全ての光を司るとされる剣だ。ちなみに元々誰が持っていたかは知らない。
「どうする?」
「ミルが持ってるといい。ミルは選ばれた人だからな。」
「うん!えっと、それでね……」
「ん?どうした?」
「えっと……やっぱいいかな」
そうなのか。何かある感じだったんだけどな。
一通りやることが終わったので、帰ることにした。
明日は竜の里に行かないといけないしな。
この二日間、疲れたけど楽しかった。また行きたいな。
俺たちは電車に揺られながら帰った。
◇
また言えなかった。どうしてだろう。
いつも言わないとって思ってるのに、いざとなると言えない。いや、言いたくない。言ってしまうと、もう別れないといけなくなる気がして。
みんな本当にありがとう。編入生の私と仲良くしてくれて。私はもうすぐで死ぬ。
寝ているはずなのに、涙が零れた。




