第72話 小さくなった黒雷竜
この大きな魔力反応はヴォルニクスだな。
そういや、家庭教師のことでいっぱいになって、すっかり竜の里に行くっていう話を忘れていた。
『リースーー!!いるんだろー!』
ヴォルニクスは念話で話しかけてくる。念話なら叫ぶ必要はないのに。
俺は校庭に出て、姿を見せる。
『リース、何をやっているんだ。全然来ないものだから、迎えに来てやったぞ』
『悪い、用事が重なってすっかり忘れてた』
『まあ、よい。さあ、今から行くぞ!』
『すまない。次の休み明けまで待ってくれ』
『何かあるのか?』
『ちょっと野暮用がな』
次の休みはステラとミルに付き合わないといけない。
ただ、休みの日まではあと2日しかない。その2日で調査が終わるとは思えない。よって、もう少し待ってもらわないといけないのだ。
『むむむ……まあ、よいだろう。だが、戻るのは面倒なので、しばらくここにいさせてもらうぞ』
『いや、その状態じゃあ、ちょっとな』
『安心せい。この姿ではおらん。ちょっと待っとれ』
そう言うと、ヴォルニクスが何かを唱え始めた。すると、ヴォルニクスの体はみるみるうちに小さくなっていった。
『これならよいだろう?』
『あ、ああ』
竜ってこんなこともできたんだな。交流がないから、知らなかったな。
ヴォルニクスは俺の頭の上に乗ってきた。俺と共に行動するらしい。
「リース、その竜はこの前の?」
理事長はカロナールでのこいつを見ているから、大分驚いてるみたいだ。
「ええ、黒雷竜ヴォルニクスです。ただ、前とは違って話は通じますよ」
「いや、話してなかったろ?」
「話してましたよ?念話ですけど」
このくだり、前にもやらなかったか?
「ああ、そうだったな。すっかり忘れてた。最近、お前と接してなかったからな。普通の生活を送ってた」
なんだ、その俺がいると普通じゃないみたいな。全然普通だろう。
その後、周りで様子を見ていた生徒たちも寄ってきた。
大きいヴォルニクスは怖がられていたみたいだが、小さくなった途端に人気者になっていた。本人は嫌がっていたがな。
『リース!やめさせろ!……くっ、この!翼を触るな!』
もちろん念話なので俺にしか聞こえない。俺はそっと背を向けて、その場を立ち去った。
『おい、リース?どこ行くんだ!戻れ!戻ってくれ!助けてくれーー!』
俺が寮に戻って数時間後、精神的にボロボロになったヴォルニクスがやってきた。こいつは今回の一件で人間恐怖症になったみたいだ。ずっと『ニンゲンコワイ……』と言っていた。なんか悪いことをしたかもしれないな。明日はここでゆっくり休ませてあげよう。
◇
それから2日、俺は学校に行き授業を受けて、ヴォルニクスは俺の部屋で休養をとった。
明日はいよいよステラと出かける日だ。