第62話 黒雷竜ヴォルニクス
カロナールに向かってくる魔力の正体は竜だった。
「おい、竜って本当にいるのか……?」
「向こうを見てみろよ。飛んでるだろ?」
「たしかにそうだが……」
まあ、ヘルドが驚くのも無理はない。なぜなら、おそらく今生きている人間は竜を実際に見たことはないはずだからだ。
俺の前世の時代にはふつうにいたが、俺が30代の頃、人と竜の争いが絶えなかったから、人と竜は約束を結んだのだ。
人が竜を殺すのは、竜が素材として非常に使えるからだ。竜の鱗や爪、牙などには膨大な魔力が含まれている。それを使って武器を作ると、神器に引けを取らないくらいの強さとなるのだ。だから、人は竜を殺していた。
逆に竜は人間の都市が邪魔だった。元々の竜の生息地も人間が勝手に街や国にしてしまい、竜が生息できる場所が少なくなっていたのだ。
だから竜は怒り、人間の都市を攻撃した。竜一頭いれば国や都市を滅ぼすことなど容易くできる。俺みたいな魔術師がいれば話は別だが、市民しかいなければ反撃したところで意味がなかった。
こうして、お互いに困ることになったので、俺を含む人間側数名と竜側で話し合いをして、不可侵条約を結んだのだ。人間は竜を狩らず、竜は生息地を決めてそこで一生を暮らす。こうして、人と竜の争いは終わったのだ。
だが、今こうして竜が生息地をとびだし、人間の国に来ている。あの竜は魔力反応を見る限り、黒雷竜ヴォルニクスだろう。前世の頃からいる竜なので、条約のことを知らないわけがない。だが、どうやら様子がおかしい。自我がないみたいだ。
誰かが竜を操っている?だが、そんなことを出来る人間なんて……いや、方法はあるな。
竜を操る方法は神器を使う場合と魔法を使う場合の2つがある。だが、神器を使えば竜の自我は残るので、おそらく魔法の方だろう。
その魔法とは『完全支配』という魔法だ。この魔法はどんな生物でも自分の支配下に置くことができる魔法だ。だがこれは禁術魔法。使うには人間の生命力を使わなければいけない。
それが使われているということは、誰かは確実に生贄となったな。禁術魔法は使ってはいけないから禁術魔法なのだ。
ヴォルニクスは俺たちに向けて、雷のブレスを放ってくる。俺は結界魔法を張り、その攻撃を防ぐ。
ヴォルニクスは急降下をして、俺たちに近づいてくる。
そして、その身に雷を纏い、体当たりをしてきた。
俺は神器で真正面から斬りかかる。この攻撃はカウンターも兼ねているので、それなりにダメージは与えれるはずなんだが、あまり効いてないみたいだった。
やはり、竜には専用の魔法を使うしかないか。
俺は前世で対竜戦のための魔法を作っていた。
俺はその魔法を『竜滅魔法』と名付けた。
竜滅魔法は一撃で竜を殺せるものから、気絶程度で済ませられるものまである。
今回は気絶で充分だ。なぜなら『完全支配』は対象が気絶すると、解ける仕組みだからだ。
俺は上空に上がったヴォルニクスを追いかける。そして追いついたところで奴の体に手を当て、魔法を発動する。
『竜滅魔法 竜絶の一撃』
無事ヴォルニクスに当たり、奴は気絶して地上に落下する。
ひとまず危機は去ったな。




